PVRトランスジェニックマウス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/18 09:46 UTC 版)
「ポリオウイルス」の記事における「PVRトランスジェニックマウス」の解説
ポリオウイルスの自然宿主がヒトのみであることは知られているが、一方でサルも実験的には感染しうる。そのため、サルは長い間ポリオウイルスの研究に実験動物として用いられてきたが、1990年から91年の間に小動物を用いたポリオ感染モデルが2つの研究所で開発された。遺伝子工学を用いてヒトのPVR (hPVR) を発現するように改変されたマウスである。 ポリオウイルス受容体を発現するトランスジェニックマウス (TgPVRマウス) は通常のマウスと違い、静脈内接種、筋肉内接種、脊髄内または脳内への直接接種のいずれかの経路でポリオウイルスを接種した場合、ポリオウイルスに対して感受性となる。 感染時にTgPVRマウスは麻痺症状を示し、これはヒトやサルの急性灰白髄炎の症状と類似する。さらに麻痺を起こしたマウスの中枢神経系における病理組織所見もヒトやサルと類似する。このようにポリオウイルス感染マウスモデルはポリオウイルスの生態と病原性を明らかにする上で用いられている。 TgPVRマウスの中でもいくつかの系統がよく研究されてきた: TgPVR1マウスはヒトPVRの遺伝情報を持つ導入遺伝子を第4染色体上に持つ。この系統のマウスは導入遺伝子の発現量が最も高く、ポリオウイルスに対して最も高い感受性を示す。TgPVR1マウスは脊髄内、脳内、筋内、経静脈のいずれの経路のウイルス接種に対しても感受性であるが、経口感染は成立しない。 TgPVR21マウスは第13染色体上にヒトPVR遺伝子を持つ。この系統のマウスは脳内接種においてポリオウイルスの感受性が低く、hPVRの発現量が低いために感受性が低下している可能性がある。TgPVR21マウスはポリオウイルスの経鼻感染に感受性である事が示されており、粘膜感染モデルとして有用かもしれない。 TgPVR5マウスは導入遺伝子が第12染色体上に存在する。この系統のマウスが表出するhPVRは最低レベルであり、ポリオウイルスに対する感受性も最も低い。 2004年には4番目のTgPVRマウスモデルが開発された。この "cPVR" マウスはβ-アクチンプロモーターによって支配される、hPVRのcDNAを持ち、脳内、筋内、経鼻の接種経路で感受性である事が証明されている。加えてこのマウスは延髄ポリオを経鼻接種によって発症しうる。 TgPVRマウスの開発は経口ポリオワクチン (OPV) の生産に計り知れない影響を与えてきた。以前はOPVの安全性試験には唯一の感受性動物であるサルを用いる必要があったが、1999年にWHOは3型ポリオウイルスワクチンの効果評価における代替法としてTgPVRマウスの使用を認めた。2000年にはさらに1型および2型のワクチンにおいても試験でのマウスモデル使用が認可された。
※この「PVRトランスジェニックマウス」の解説は、「ポリオウイルス」の解説の一部です。
「PVRトランスジェニックマウス」を含む「ポリオウイルス」の記事については、「ポリオウイルス」の概要を参照ください。
Weblioに収録されているすべての辞書からPVRトランスジェニックマウスを検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書からPVRトランスジェニックマウスを検索
- PVRトランスジェニックマウスのページへのリンク