C∞(M)-加群としての説明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/26 03:07 UTC 版)
「テンソル場」の記事における「C∞(M)-加群としての説明」の解説
より抽象的(でしばしば有用)な M 上のテンソル場を特徴づける別な方法では、実際にテンソル場を純然たるテンソル(つまり、一つの多重線型写像)とすることができるが、型は異なるものとなる(これは実際にはテンソル場なのに「テンソル」と言ってしまうことが多いことの(通常はそういう理由で言うのではないけれども)理由でもある)。初めに M 上の滑らかな (C∞-級) ベクトル場全体の成す集合 T ( M ) {\displaystyle {\mathcal {T}}(M)} を一つの空間として捉え、滑らかな函数全体の成す環 C∞(M) の点ごとのスカラー倍を入れて、加群とする。多重線型性やテンソル積の概念は任意の可換上の加群の場合にも容易に拡張することができる。 動機となる例として、滑らかな余ベクトル場(1-形式)全体の成す空間 T ∗ ( M ) {\displaystyle {\mathcal {T}}^{*}(M)} を考えると、これも滑らかな函数全体の成す環上の加群である。点ごとに評価することにより、余ベクトル場は滑らかなベクトル場に作用して滑らかな函数を導く。つまり、余ベクトル場 ω とベクトル場 X に対して、 ( ω ( X ) ) ( p ) = ω ( p ) ( X ( p ) ) {\displaystyle (\omega (X))(p)=\omega (p)(X(p))} と定義する。点ごとの性質で全てが含決まるから、ω の X への作用は C∞(M)-線型、つまり、 ( ω ( f X ) ) ( p ) = f ( p ) ω ( p ) ( X ( p ) ) = ( f ω ) ( p ) ( X ( p ) ) {\displaystyle (\omega (fX))(p)=f(p)\omega (p)(X(p))=(f\omega )(p)(X(p))} が任意の p ∈ M および滑らかな函数 f に対して成立する。したがって、余ベクトル場を余接束の切断と見るだけでなく、ベクトル場を函数へ写す線型写像としても見ることができる。二重双対空間の構成により、ベクトル場も同じく余ベクトル場を函数に写す写像と見做せる(つまり、余ベクトル場から始めて自然に同じ論法を適用して進めていくことができる)。 M 上の通常の一つのテンソル(場ではなく)をベクトルおよび余ベクトル上の多重線型写像として構成するのと完全に平行して、M 上の一般の (k,l)-テンソル場を T ( M ) {\displaystyle {\mathcal {T}}(M)} の l 個のコピーと T ∗ ( M ) {\displaystyle {\mathcal {T}}^{*}(M)} の k 個のコピー上で定義され、C∞(M) に値を取る C∞(M)-線型写像と見做すことができる。 いま、 T ( M ) {\displaystyle {\mathcal {T}}(M)} の l 個のコピーと T ∗ ( M ) {\displaystyle {\mathcal {T}}^{*}(M)} の k 個のコピーから C∞(M) への勝手な写像 T が与えられれば、これが M 上のテンソル場となるための必要十分条件は、それが C∞(M) 上多重線型となることである。従って、この種の多重線型性が暗に含む意味は、本当に点ごとに定義された対象(つまりテンソル場)を扱っているのであって、(たとえ一点における値を評価するときでも)ベクトル場と 1-形式の値すべてに同時に依存しているという函数としての扱いとは対照的であるという事実なのである。 この一般規則のよくある応用例は、レヴィ・チヴィタ接続で、これはベクトル場の対をベクトル場に写す滑らかなベクトル場の写像 ( X , Y ) ↦ ∇ X Y {\displaystyle (X,Y)\mapsto \nabla _{X}Y} であり、これは M 上のテンソル場として定義されてはいない。これは Y に関して R-線型にしかならない(完全な C∞(M)-線型性を満たす代わりに、「ライプニッツ則」 ∇ X ( f Y ) = ( X f ) Y + f ∇ X Y {\displaystyle \nabla _{X}(fY)=(Xf)Y+f\nabla _{X}Y} ) を満たす)。そうは言っても、これがテンソル場でないことを差し引いても、これが成分に依らない幾何学的な対象として十分な価値のあるものである点は論を待たない。
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