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サハ語

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/31 11:52 UTC 版)

サハ語
саха тыла sakha tyla
話される国 ロシア
地域 サハ共和国
話者数 456,288人(2002年調査)[1]
言語系統
表記体系 キリル文字
公的地位
公用語  サハ共和国
統制機関 統制なし
言語コード
ISO 639-2 sah
ISO 639-3 sah

サハ語(青)、ドルガン語(緑)の分布図
消滅危険度評価
Vulnerable (Moseley 2010)
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サハ語(さはご、サハ語:саха тыла(sakha tyla))は、テュルク語族の北東語群(シベリア・テュルク語群)に属すヤクート諸語の言語のひとつ。シベリアに住むテュルク系民族であるサハ人(ヤクート人)の言語である。話者数は約36万3000人。ヤクート語ロシア語: Якутский язык)ともいわれる。

系統

中央アジアトルコなどで使われているテュルク語族である。そのうち、ヤクート語群に属し、同語群の最大言語である。他のテュルク諸語と同様、サハ語は母音調和を持ち、膠着語であり、文法性を持たない。語順は通常SOVである。サハ語はツングース語族モンゴル語族に影響を受けている。

歴史的には、サハ語は共通テュルク語話者のコミュニティを比較的早くに離脱した。これにより、サハ語は多くの点で他のテュルク語族の言語と異なり、サハ語と他のテュルク語族の言語の相互理解性は低く、多くの同源語の語源をたどるのは難しい。しかし、サハ語は長母音の保存などテュルク祖語の再建に役立つ多くの特徴を備えている。大きな分岐的特徴があるにも関わらず、サハ語はチュヴァシ語とともにオグール語群にではなく、共通テュルク語派に分類される。比較的少数の学者(W. ラドロフなど)は、サハ語(ヤクート語)はテュルク語ではないという見解を表明している。テュルク諸語に属する言語は一般にお互いに共通性が高いが、ヤクート語群は他のテュルク語との違いが大きい。(たとえば属格の欠如と与格と共格の存在と命令形に近未来と遠未来の存在など)ヤクート語群に属する他の言語としてクラスノヤルスク地方タイミル自治管区タイミル半島で話されるドルガン語があり、サハ語とはごく近い関係にある。

分布

サハ語は主にロシア連邦サハ共和国で話される。また、ハバロフスク地方のヤクート人や、ロシア連邦の他地域、カザフスタントルコ、その他の地域に少数のディアスポラによっても使用される。サハ語の近縁言語で、かつてはサハ語の方言とみなす学者もいたドルガン語は、クラスノヤルスク地方のドルガン人によって話されている。サハ共和国では、サハ語は他の少数民族によってリンガ・フランカとして広く用いられており、多くのドルガン人、エヴェンキ人、エヴェン人、ユカギール人は自民族の言語ではなくサハ語を話す。2002年の国勢調査では、サハ共和国に住むヤクート人以外の民族の約8%がサハ語の知識を持つと答えている。

音韻

音韻構造

音節構造は、(C1)V1(C2)(C3)の構造を持つ。一語中に母音連続は存在できない。(C)VCCは語末に主に表れ、子音連続の組み合わせは/-lt, -rt, -lk, -rk, -mp, -ŋk/に限られる。

母音

サハ語は20の母音音素を持ち、8つが短母音、8つが長母音、4つが二重母音である。下表の//はIPA表記、太字はキリル文字表記、カッコ内はラテンアルファベット表記である。

サハ語の母音
短母音 長母音 二重母音
前舌母音 後舌母音 前舌母音 後舌母音 前舌母音 後舌母音
非円唇 円唇 非円唇 円唇 非円唇 円唇 非円唇 円唇 円唇 非円唇 円唇 非円唇
狭母音 /i/

и (i)

/y/

ү (ü)

/ɯ/

ы (ï )

/u/

у (u)

/iː/

ии (ii)

/yː/

үү (üü)

/ɯː/

ыы (ïï)

/uː/

уу (uu)

/ie/

иэ (ie)

/yø/

үө (üö)

/ɯa/

ыа (ïa)

/uɔ/

уо (uo)

広母音 /e/

э (e)

/ø/

ө (ö)

/a/

а (a)

/ɔ/

о (o)

/eː/

ээ (ee)

/eː/

ээ (ee)

/eː/

ээ (ee)

/eː/

ээ (ee)

子音

サハ語は18の子音音素を持つ。

サハ語の子音
両唇音 歯茎音 硬口蓋音 軟口蓋音 口蓋垂音 声門音
鼻音 /m/

м (m)

/n/

н (n)

/ɲ/

нь (ń[3])

/ŋ/

ҥ (ŋ)

破裂音/破擦音 無声音 /p/

п (p)

/t/

т (t)

/t͡ʃ/

ч (č)

/k/

к (k)

有声音 /b/

б (b)

/d/

д (d)

/d͡ʑ/

дь (ǰ[4])

/ɡ/

г (g)

摩擦音 無声音 /s/

с (s)

/x~χ~q/

х (x)

/h/

һ (h)

有声音 /ʁ/

ҕ (ɣ[5])

接近音 非鼻音 /l/

л (l)

/j~ɥ/

й (y[6])

鼻音 /ȷ̃/

й ([7])

はじき音 /ɾ/

р (r)

接辞頭子音交替

語幹と接辞の境界においては、子音が大規模な同化を受ける(順行同化と逆行同化の両方がある)。すべての接辞は多くの異形態を持つ。子音で始まる接辞の場合、その子音の表出形は語幹の末尾の音によって決定される。このような「基底音素的」な子音には B, T, L, Gの4種類がある。以下の表にはそれぞれの例が示されている:

  • -BIt(一人称複数所有接辞)→ oɣo-but 「私たちの子」
  • -TA(分格接辞)→ tiis-te 「いくつかの歯」
  • -LArA(三人称複数所有接辞)→ oɣo-loro 「彼らの子」
  • -GIt(二人称複数所有接辞)→ oɣo-ɣut 「あなたたちの子」

なお、母音の交替は母音調和によって決定される(本項および下記の節を参照)。

語中子音消失交替の例
語幹末分節音 グロス
交替タイプ 広母音・二重母音

/a, e, o, ö, ie, yø, ɯa, uɔ/ (kihi)

狭母音

/i, u, ï, ü/ (oɣo)

/l/

(uol)

/j, ɾ/ (kötör) /p, t, k, s/

(tiis)

/χ/

(ïnaχ)

/m, n, ŋ/

(oron)

接辞 ʙ

-BIt

[b]

kihi-bit

[b]

oɣo-but

[b]

uol-but

[b]

kötör-büt

[p]

tiis-pit

[p]

ïnaχ-pït

[m]

orom-mut

「私たちの」

-TA

[t]

kihi-te

[t]

oɣo-to

[l]

uol-la

[d]

kötör-dö

[t]

tiis-te

[t]

ïnaχ-ta

[n]

oron-no

「いくつかの」
ʟ

-LArA

[l]

kihi-lere

[l]

oɣo-loro

[l]

uol-lara

[d]

kötör-dörö

[t]

tiist-ere

[t]

ïnaχ-tara

[n]

oron-noro

「彼らの」
ɢ

-GIt

[g]

kihi-git

[ɣ]

oɣo-ɣut

[g]

uol-gut

[g]

kötör-güt

[k]

tiis-kit

[χ]

ïnaχ-χït

[ŋ]

oroŋ-ŋut

「あなたたちの」
グロス 「人」 「子供」」 「男の子」 「鳥」 「歯」 「牛」 「ベッド」

母音調和

他のテュルク諸語と同様、サハ語には順行的母音調和(progressive vowel harmony)が存在する。多くの語根は母音調和に従う。例えば кэлин (kelin) 「背中」 では、すべての母音が前舌・非円唇である。 サハ語の接尾辞における母音調和は、テュルク諸語の中で最も複雑な体系である[8]

母音調和とは、ある音節の母音が、それに先行する音節の母音の特徴を取り入れる同化過程である。

サハ語では、後続する母音はすべて前舌・後舌の区別を先行母音に従って取り、また非低母音はすべて先行音節の母音の円唇性を継承する[9][10]

母音調和には主に二つの規則がある:

① 前舌/後舌の調和

  • 前舌母音の後には必ず前舌母音が来る。
  • 後舌母音の後には必ず後舌母音が来る。

② 円唇調和

  • 非円唇母音の後には必ず非円唇母音が来る。
  • 円唇狭母音は、必ず閉じた円唇狭母音の後に現れる。
  • 非円唇広母音は、円唇狭母音と円唇性において同化しない。

二重母音 /ie, ïa, uo, üö/ の調和上の性質は、その二重母音の第一要素によって決定される。

これらの規則を総合すると、サハ語の語の後続音節のパターンは完全に予測可能であり、すべての語は次のパターンに従う[11]

子音同化の規則と同様に、接尾辞は語幹に応じて多様な異形態を示す。

このとき二つの基底的原母音(archiphoneme)母音がある:

  • I(基底では狭母音)
  • A(基底では広母音)
サハ語の母音調和
Category 語幹の母音 接辞中の母音
非円唇、後舌 a, aa, ï, ïï, ïa a, aa, ï, ïï, ïa
非円唇、前舌 e, ee, i, ii, ie e, ee, i, ii, ie
円唇、後舌 u, uu, uo a, aa, u, uu, uo
円唇、前舌、狭 ü, üü, üö e, ee, ü, üü, üö
円唇、後舌 o, oo o, oo, u, uu, uo
円唇、後舌、広 ö, öö ö, öö, ü, üü, üö
原母音の母音調和
原母音 先行母音
前舌 後舌
非円唇

(i, ii, ie, e, ee)

円唇 非円唇

(ï, ïï, ïa, a, aa)

円唇

(ü, üü, üö)

(ö, öö)

(u, uu, uo)

(o, oo)

I i ü ï u
A e ö a o

母音 I の例は、一人称単数所有一致接尾辞 -(I)m に見られる。例えば (a) において:

a.

aat-ïm

名前-POSS.1SG

aat-ïm

名前-POSS.1SG

'私の名前'

et-im

肉-POSS.1SG

et-im

肉-POSS.1SG

'私の肉'

uol-um

息子-POSS.1SG

uol-um

息子-POSS.1SG

'私の息子'

üüt-üm

ミルク-POSS.1SG

üüt-üm

ミルク-POSS.1SG

'私のミルク'


基底的に低母音である音素 A は、三人称単数所有一致接尾辞 -(t)A を通して表される。例えば (b) において:

b.

aɣa-ta

父-POSS.3SG

aɣa-ta

父-POSS.3SG

'彼(女)の父'

iỹe-te

母-POSS.3SG

iỹe-te

母-POSS.3SG

'彼(女)の母'

oɣo-to

子供-POSS.3SG

oɣo-to

子供-POSS.3SG

'彼(女)の子供'

töbö-

頭-POSS.3SG

töbö-

頭-POSS.3SG

'彼(女)の頭'

uol-a

息子-POSS.3SG

uol-a

息子-POSS.3SG

'彼(女)の息子'

表記体系

サハ語は、3つの過去の発展段階を経た後、現在はキリル文字を用いて書かれている。

1939年にソビエト連邦によって制定された現代サハ文字は、ロシア語のすべての文字に加えて、ロシア語に存在しない音素のための5つの追加文字と2つの二重文字(ダイグラフ)から成っている。これらは以下の通りである: Ҕҕ, Ҥҥ, Өө, Һһ, Үү, Дь дь, Нь нь。

ロシア語に用いられるものに5字を加えた拡張キリル文字1939年制定)を用いる。

キリル文字 音価
А а /a/
Б б /b/
В в /v/ 借用語のみ
Г г /g/
Ҕ ҕ /ɣ, ʁ/
Д д /d/
Дь дь /ɟ/
Е е /e, je/ 借用語のみ
Ё ё /jo/ 借用語のみ
Ж ж /ʒ/ 借用語のみ
З з /z/ 借用語のみ
И и /i/
Й й /j, j̃/ 鼻音化することがあるが表記上で区別はされない
К к /k, q/
Л л /l/
М м /m/
Н н /n/
Ҥ ҥ /ŋ/
Нь нь /ɲ/
О о /o/
Ө ө /ø/
П п /p/
Р р /r/
С с /s/
Һ һ /h/
Т т /t/
У у /u/
Ү ү /y/
Ф ф /f/ 借用語のみ
Х х /x/
Ц ц /ʦ/ 借用語のみ
Ч ч /c/
Ш ш /ʃ/ 借用語のみ
Щ щ /ɕː/ 借用語のみ
Ъ ъ ? 借用語のみ
Ы ы /ɯ/
Ь ь ? 借用語のみ
Э э /e/
Ю ю /ju/ 借用語のみ
Я я /ja/ 借用語のみ

長母音は母音を二重にして表される。例えば、үүт (üüt) /yːt/ 「ミルク」。この方法は、多くの学者が言語のローマ字化において採用している[29][30][31]。

完全なサハ文字には、固有語には存在しない子音音素を表す文字(したがって上記の音韻表には示されていない)が含まれている。これらの文字は以下であり、ロシア語からの借用語においてのみ用いられる: В /v/, Е /(j)e/, Ё /jo/, Ж /ʒ/, З /z/, Ф /f/, Ц /t͡s/, Ш /ʃ/, Щ /ɕː/, Ъ, Ю /ju/, Я /ja/。

さらに、固有のサハ語においては、軟音符 ⟨Ь⟩ は二重文字 ⟨дь⟩ および ⟨нь⟩ においてのみ使用される。

文法

品詞

サハ語の品詞は、名詞類(名詞、形容詞、副詞、数詞)、動詞、その他が含まれる。

統語

典型的な語順は主語-副詞-目的語-動詞、所有者-被所有者、形容詞-名詞である。サハ語の名詞類には数・格の範疇があるが性の範疇はない。

名詞は単数と複数を区別する。複数は接尾辞/-LAr/で示され、語幹末子音と語幹の母音により次の16の異形態を持つ: -лар (-lar), -лэр (-ler), -лөр (-lör), -лор (-lor), -тар (-tar), -тэр (-ter), -төр (-tör), -тор (-tor), -дар (-dar), -дэр (-der), -дөр (-dör), -дор (-dor), -нар (-nar), -нэр (-ner), -нөр (-nör), -нор (-nor)。複数形は、数量を指定するときではなく、物事の集合を指すときにのみ用いられる。

語幹末子音 複数接辞 Examples
Vowels, /l/ -lar, -ler, -lor, -lör kïïl-lar 「獣たち」, ehe-ler 「クマたち」, oɣo-lor 「子供たち」, börö-lör「オオカミたち」
/k, p, s, t, χ/ -tar, -ter, -tor, -tör at-tar 「ウマたち」, külük-ter 「影たち」, ot-tor, 「植物たち」, bölöx-tör 「集まりたち」
/y, r/ -dar, -der, -dor, -dör baay-dar 「金持ちたち」, eder-der 「若者たち」, xotoy-dor 「鷹たち」, kötör-dör 「鳥たち」
/m, n, ŋ/ -nar, -ner, -nor, -nör kïïm-nar 「火花たち」, ilim-ner 「網たち」, oron-nor 「ベッドたち」, bödöŋ-nör 「大きいものたち」

複数接尾辞-ттАр (-ttAr)による派生もあり、この接尾辞は形容詞にも付加することができます。

  • уол (uol) 「少年;息子」 → уолаттар (uolattar)
  • эр (er) 「男」 → эрэттэр (erettér) または民俗的形 эрэн (eren)(ウズベク語の民俗的形 eran と比較せよ)
  • хотун (xotun) 「貴婦人」 → хотуттар (xotuttar) または хотут (xotut)
  • тойон (toyon) 「司令官」 → тойоттор (toyottor) または тойот (toyoт)
  • оҕонньор (oҕonnjor) 「老人、夫」 → оҕонньоттор (oҕonñottor)
  • кэм (kэм) 「時、時間」 → кэммит (kэмmit)
  • дьон (dʹon) 「人々」 → дьоммут (dʹommut)
  • ойун (oyun) 「シャーマン」 → ойууттар (oyuuttar)
  • доҕор (doҕor) 「友人」 → доҕоттор (doҕottor)
  • күөл (küöl) 「湖」 → күөлэттэр (küölettér)
  • хоһуун (xoһuun) 「勤勉な」 → хоһууттар (xoһuuttar)
  • буур (buur) 「牡(鹿やヘラジカの雄)」 → буураттар (buurattar) 「牡鹿たち」
  • кыыс (kïïs) 「少女;娘」 → кыргыттар (kïrgïttar)(標準、補充的)または кыыстар (kïïstar)(方言的、規則的)

кыргыттар (kïrgïttar)は、複合的な複数接尾辞 -(ы)ттар を無視すると、多数のテュルク諸語に同根語を見出すことができる。例えば、ウズベク語qirqin 「女奴隷」)、バシキール語タタール語キルギス語кыз-кыркын 「娘たち」)、チュヴァシ語хӑрхӑм)、トルクメン語gyrnak)、そして消滅したカラハン朝語、ホラズム語チャガタイ語など。

名詞

サハ語は他のシベリア・テュルク語群と異なり、豊富な各組織を持つ。古テュルク語からの古い共格を保持している(モンゴル語の強い影響による)が、他のテュルク諸語では古い共格は具格になっている。しかし、サハ語では古テュルク語の場所格が分格を表すようになったため、場所格としての機能を持つ格は存在しなくなった。その代わりに、場所格、与格、向格は共通テュルク語の与格接尾辞によって表される。

Норуокка

"хайа

хаппыыстата"

диэн

аатынан

биллэр

хайаҕа

үүнэр

үүнээйи.

Норуокка "хайа хаппыыстата" диэн аатынан биллэр хайаҕа үүнэр үүнээйи.

現地の人々の間で「山のキャベツ」と呼ばれる、山に生える植物。

与格は-ҕаで、хайаҕаは文字通り「山へ」という意味である。さらに、場所格に加え、属格と同格も失われている。

サハ語には8つの文法格を持つ:主格(語尾なし)、対格 -(n)I、与格 -GA、分格 -ТА、奪格 -(t)tAn、具格 -(I)nAn、共格 -LIIn、比格 -TAAɣAr。以下の表は母音で終わる語幹「eye(平和、モンゴル語由来)」と子音で終わる語幹「uot(火)」の例である。

格語尾 eye 「平和」 uot 「火」
主格 eye uot
対格 -(n)I eye-ni uot-u
与格 -GA eye-ɣe uok-ka
分格 -tA eye-te uot-ta
奪格 -(t)tAn eye-tten uot-tan
具格 -(I)nAn eye-nen uot-unan
共格 -LIIn eye-liin uot-tuun
比格 -TAAɣAr eye-teeɣer uot-taaɣar

分格の目的格は、対象の一部を指定する意味を持つ。例:

Uː-ta

水-PTV

is!

飲む-IMP.2SG

Uː-ta is!

水-PTV 飲む-IMP.2SG

水を 少し 飲め!

対格のこれに対応する例は対象の全体を指定する意味を持つ。例:

Uː-nu

水-ACC.

is!

飲む-IMP.2SG

Uː-nu is!

水-ACC. 飲む-IMP.2SG

水を [全部] 飲め!

分格は命令形や必要を表す表現においてのみ使用される。

Uː-ta

水-PT

a-γal-ϊaχ-χa

持っていく-PRO-DAT

naːda.

必要がある.

Uː-ta a-γal-ϊaχ-χa naːda.

水-PT 持っていく-PRO-DAT 必要がある.

水を持っていく必要がある.

サハ語に特徴的なのは、おそらくエヴェンキ語ツングース語族)との接触による属格の欠如である。所有者は標示されず所有関係は被所有名詞そのものにおいてのみ実現される。その際には、主語が代名詞の場合所有接尾辞によって、主語がその他の名詞である場合部分格接尾辞によって標示される。 例として、(a)では一人称代名詞の主語は属格において標示されない。また、(b)では完全な名詞の主語(所有者)も標示を受けない。

a.

min

1SG.NOM

oɣo-m

子供-POSS.1SG

/

/

bihigi

1PL.NOM

oɣo-but

子供-POSS.1PL

min oɣo-m / bihigi oɣo-but

1SG.NOM 子供-POSS.1SG / 1PL.NOM 子供-POSS.1PL

'私の子供' / '私たちの子供たち'

b.

Masha

Masha.NOM

aɣa-ta

父-PTV.3SG

Masha aɣa-ta

Masha.NOM 父-PTV.3SG

'マシャの父'

また、与格接尾辞の形態は人称代名詞の接尾辞になるかどうかで変わる。

"Хос-ко киирдэ" - (彼/彼女は)ある/その部屋に入った .

"Хоһу-гар киирдэ" - (彼/彼女は)彼/彼女の部屋に入った.

-ко-гарはどちらも与格接尾辞である(-yは彼/彼女を指す)。

人称代名詞

サハ語の人称代名詞は以下のとおりである。

単数 複数
一人称 мин (min) биһиги (bihigi)
二人称 эн (en)
эһиги (ehigi, 敬称)
эһиги (ehigi)
三人称 人間 кини (kini)
ити (iti)
кинилэр (kiniler)
非人間 ол (ol) олор (olor)

名詞は性を区別しないが、人称代名詞は三人称で人間と非人間を区別する。

数詞[12]

数詞語幹の多くは後続する接尾辞によって2つの異形態(第一語基、第二語基)を持つ。第一語基は自立形式であり単数主格形で数詞句として用いることができる。名詞形態法を含めほとんどの接尾辞が第一語基に付加する。第二語基は非自立形式でそれに付加する形式は限られている。下表に数詞の概要を示す。「-」はその形式が欠如していることを示す。

数詞語幹の第一語基とそれに付加する接尾辞
数字 第一語基 概数 (-ččA)

「約~」

分配 (-LII)

「~ずつ」

回数 (-TA)

「~回、~倍、~つ」

対格接辞 -(n)I
0 нуул (nuul)
1 биир (biir) - biir-dii biir-de biir-i
2 икки (ikki) - ikki-lii ikki-te ikki-ni
3 үс (üs) - üs-tüü üs-te üh
4 түөрт (tüört) - tüör-tüü tüör-te tüörd
5 биэс (bies) bies-če bies-tii bies-te bieh-i
6 алта (alta) - alta-lïï alta-ta alta-nï
7 сэттэ (sette) - sette-lii sette-te sette-ni
8 аҕыс (aɣïs) - aɣïs-tïï aɣïs-ta aɣïs-ï
9 тоҕус (toɣus) - toɣus-tuu toɣus-ta toɣuh-u
10 уон (uon) uon-ča uon-nuu uon-na uon-u
11 уон биир (uon biir)
20 сүүрбэ (süürbe) süürbe-čče süürbe-lii süürbe-te süürbe-ni
30 отут (otut)
40 түөрт уон (tüört uon)
50 биэс уон (bies uon)
60 алта уон (alta uon)
70 сэттэ уон (sette uon)
80 аҕыс уон (aɣïs uon)
90 тоҕус уон (toɣus uon)
100 сүүс (süüs)
1,000 тыһыынча (tïhïïnča)
10,000 уон тыһыынча (uon tïhïïnča)
1,000,000 мөлүйүөн (mölüjüön)

第一語基に付加する概数接辞・分配数接辞・回数接辞はこの順で付加される(uon-ča-lïï-ta「約10回ずつ」)。

数詞語幹の第二語基とそれに付加する接尾辞
数字 第二語基 序数 (-Is)

「~番目」

集合数 (-IA)

「~つで、~人で」

集合数 (-IAn)

「~つで、~人で」

限界数 (-IAjAx)

「~だけ、~だけの」

月名 (-IńńI)

「~月」

1 biir biir-is - - -
2 ikk ikk-is ikk-ie ikk-ien ikk-iejex -
3 üs üh-üs üh-üö üh-üön üh-üöjex -
4 tört törd-üs törd-üö törd-üön törd-üöjex -
5 bes beh-is beh-ie beh-ien beh-iejex -
6 alt alt-ïs alt-ïa alt-ïan alt-ïajax alt-ïńńï
7 sett sett-is sett-ie sett-ien sett-iejex set-ïńńï
8 axs axs-ïs axs-ïa axs-ïan axs-ïajax axs-ïńńï
9 toxs toxs-us toxs-uo toxs-uon toxs-uojax toxs-uńńu
10 on on-us on-uo on-uon on-uojax ol-uńńu
20 süürbes süürbeh-is - - süürbeh-iejex -

サハ語にある二つの集合数の形式は、接尾辞-IAによる集合数は無生物にも使えるが、接尾辞-IAnは無生物に使いにくいという違いがある。

動詞

E. I. Korkina (1970)は以下の時制を列挙している:現在‐未来時制、未来時制、そして8種類の過去時制(未完了を含む)である。

サハ語の未完了は二つの形式をもつ。すなわち分析的形態と統語的形態である。両形式とも、全てのテュルク諸語に共通するアオリスト接尾辞 -Ar に基づいている。

分析的形態は、過去の相を表すにもかかわらず、共通テュルク語の過去接尾辞を欠いている。これはテュルク諸語において非常に異例なことである。これについては、ツングース語族のエヴェン語からの影響の一つであると考える者もいる。

Биһиги

иннибитинэ

бу

кыбартыыраҕа

оҕолоох

ыал

олорбуттар.

Биһиги иннибитинэ бу кыбартыыраҕа оҕолоох ыал олорбуттар.

我々の前は、子供を持つ家族がここに住んでいた。

エヴェンキ語/エヴェン語との接触の影響で、サハ語は命令形を即時的命令と未来的命令の二種類発達させた。

肯定命令 否定命令
即時的命令 -∅/-(I)ŋ -ma-∅/-ma-(I)ŋ
未来的命令 -A:r/-A:r-(I)ŋ -(I)m-A:r/-(I)m-A:r-(I)ŋ

即時的命令の例:

Николай

Атласов

алаадьыны

буһарыы

туһунан

кэпсиирин

истиҥ

Николай Атласов алаадьыны буһарыы туһунан кэпсиирин истиҥ

オラディの作り方についてニコライ・アトラソフの話を聞け.

共通トルコ語には名詞由来接尾辞 -LA が存在し、名詞から動詞を作るために用いられる(例えば、ウズベク語 tishla = 「噛む」、tish = 「歯」から作られる)。この接尾辞はサハ語にも存在する(母音調和により様々な形態をとる)が、サハ語はさらに一歩進めている。理論上、任意の名詞にこの名詞由来接尾辞を付けることで動詞を作ることが可能である。

その他

サハ語にはラクダやゾウなど、サハ共和国に生息していない動物を指す単語が多く存在する[13]

脚注

  1. ^ Russian Census 2002. Распространенность владения языками (кроме русского)(Knowledge of languages other than Russian)(ロシア語)
  2. ^ "[1] Ethnologue"
  3. ^ 江畑(2020)では/ň/と表記される。
  4. ^ 江畑(2020)では/ž/と表記される。
  5. ^ 江畑(2020)では/ʁ/と表記される。
  6. ^ 江畑(2020)では/j/と表記される。
  7. ^ 江畑(2020)では/j/と区別されない。
  8. ^ Johanson 2021, p. 315.
  9. ^ Krueger 1962, p. 48-49.
  10. ^ Stachowski & Menz 1998, p. 419.
  11. ^ Johanson 2021, p. 316.
  12. ^ 江畑 2020, p. 51-56.
  13. ^ 米原万里『マイナス50℃の世界』清流出版、2006年。ISBN 978-4-86029-189-1 

関連項目

参考文献

  • Johanson, Lars (2021). Turkic. Cambridge: Cambridge University Press. pp. 20, 24.
  • Krueger, John R. (1962). Yakut Manual. Bloomington: Indiana University Press.
  • Stachowski, Marek; Menz, Astrid (1998). "Yakut". In Johanson, Lars; Csató, Éva Á. (eds.). The Turkic Languages. Routledge.
  • Johanson, Lars (2021). Turkic. Cambridge: Cambridge University Press. pp. 20, 24.
  • 江畑冬生『サハ語文法―統語的派生と言語類型論的特異性―』勉誠出版、2020年3月25日. ISBN 978-4-585-28049-1.

外部リンク




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