養蚕用練炭開発の成功
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 03:11 UTC 版)
この危機を救ったのが養蚕用の練炭という新たな需要の獲得であった。養蚕では、まずカイコの孵化までの期間、そして孵化後も適切な温度、湿度のもと管理する必要がある。そして適温、適湿の保持にはカイコの健全な発育を助けるという目的の他に、生産される生糸の品質管理という重要な目的があった。カイコが繭を作る時期に80パーセント以上という高い湿度であった場合、湿気の影響で繭の糸が絡みやすくなってしまう。すると生産される生糸の量が減少するのみならず、繭の屑が多くなる、生糸が切れやすくなって繰糸作業が困難となる、更には品質も低下するといった問題が生じる。そのためカイコが繭を作る時期には、保温よりも湿気の除去を行って湿度を管理することが重要な課題となる。 養蚕時には数万匹のカイコの餌として新鮮なクワの葉が与えられるため、蚕室は高湿度となりがちである。一方、繭を作る時期になるとカイコは糞、尿に加えて生糸を吐くので、カイコはより多くの水分を放出することになり、やはり湿度が高くなりがちになる。高湿度が生糸の品質に重大な影響を与えるわけであるから、繭を作る時期のカイコの場合、蚕室の湿気の除去と換気を目的として火力を用いるようになった。つまり当時の養蚕ではカイコの孵化を助け、生育に適した温度、湿度を保つとともに、生糸の品質保持のために火力を用いていたため、寒冷期のみならず一年中、火力を必要とした。 養蚕用の火力としては当初、木炭や薪が使用されていた。その後、練炭が注目されるようになったが、当初は練炭の原料炭が粗悪であったり、蚕室での練炭の使用法が確立されていなかったことなどからトラブルも発生していた。大嶺無煙炭鉱株式会社は養蚕に火力が不可欠で、多くの養蚕家が多量の木炭を使用していたことに着目し、養蚕用の練炭開発を開始した。灰分が多いために海軍用練炭、カーバイド原料としては期待に応えられなかった大嶺炭田の無煙炭であったが、養蚕用の練炭原料としては大きな強みがあった。養蚕用の練炭原料は他の用途よりも硫黄分が少なくなければならなかったが、大嶺炭田の無煙炭の硫黄分はホンゲイ炭と並んで他の無煙炭よりも少なかった。 大嶺無煙炭鉱株式会社は養蚕用として粉炭から八寸練炭を開発して試験使用したところ、成績良好の上に費用も木炭の約3分の1という結果が出た。そのため更に主要製糸工場、養蚕関連の機関に依頼して試験を重ねた結果もやはり良好であった。そこで大嶺無煙炭鉱株式会社は宣伝用のパンフレットを作成して全国の養蚕関係者に配布したり、各地で講演会を開催するなどPRに努めた結果、一気に需要が高まって、滞貨の粉炭は一掃されたのみならず一転して供給不足に陥るほどになった。 また、小塊炭についても小塊無煙炭用のストーブが開発され、小塊炭そしてストーブの販売でも利益が上がるようになった。大嶺炭田北部の大嶺無煙炭鉱株式会社は、粉炭が多い大嶺炭田内では珍しく塊炭を多く産出したという特徴があったが、企業努力によって塊炭、中塊炭、小塊炭、粉炭それぞれについての販路開拓に成功し、大嶺炭田での炭鉱経営の基礎を作り上げた。
※この「養蚕用練炭開発の成功」の解説は、「大嶺炭田」の解説の一部です。
「養蚕用練炭開発の成功」を含む「大嶺炭田」の記事については、「大嶺炭田」の概要を参照ください。
- 養蚕用練炭開発の成功のページへのリンク