非減衰動吸振器
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/10 14:11 UTC 版)
最も単純な減衰の無い2自由度系の線形ばね質量系について考える。ばねkmで支えられた質量mmからなる主系(制振対象)に、ばねkaと質量maからなる従系(動吸振器)が取り付けられたモデルが、動吸振器の最も単純なモデルとなる。このモデルでは、2つの質量は質点(ある一点に質量が集中している)とし、ばねの重さは考えない。質点mm、maの変位(ばねkm、kaがともにつり合っている位置からの移動量)をそれぞれxm、xaと表すこととし、時刻をtとおくと、主系が力振幅f0、角振動数Ωの調和振動形の加振力を受けるとき、運動方程式は以下のようになる。 m m x ¨ m + k m x m + k a ( x m − x a ) = f 0 cos ( Ω t ) {\displaystyle m_{m}{\ddot {x}}_{m}+k_{m}x_{m}+k_{a}(x_{m}-x_{a})=f_{0}\cos(\Omega t)} m a x ¨ a + k a ( x a − x m ) = 0 {\displaystyle m_{a}{\ddot {x}}_{a}+k_{a}(x_{a}-x_{m})=0} この系全体としての固有振動数ω1、ω2は次のように求まる。 ( ω 1 ω 2 ) = ω m 2 + ( μ + 1 ) ω a 2 ∓ [ ω m 2 + ( μ − 1 ) ω a 2 ] 2 + 4 μ ω a 4 2 {\displaystyle {\dbinom {\omega _{1}}{\omega _{2}}}={\sqrt {\frac {\omega _{m}^{2}+(\mu +1)\omega _{a}^{2}\mp {\sqrt {\left[\omega _{m}^{2}+(\mu -1)\omega _{a}^{2}\right]^{2}+4\mu \omega _{a}^{4}}}}{2}}}} ここで、 ω a = k a m a , ω m = k m m m , μ = m a m m {\displaystyle \omega _{a}={\sqrt {\frac {k_{a}}{m_{a}}}},\qquad \omega _{m}={\sqrt {\frac {k_{m}}{m_{m}}}},\qquad \mu ={\frac {m_{a}}{m_{m}}}} である。このとき各質点の振幅倍率は以下のように得られる。 X m x s t = ω m 2 ( ω a 2 − Ω 2 ) ( ω 1 2 − Ω 2 ) ( ω 2 2 − Ω 2 ) {\displaystyle {\frac {X_{m}}{x_{st}}}={\frac {\omega _{m}^{2}(\omega _{a}^{2}-\Omega ^{2})}{(\omega _{1}^{2}-\Omega ^{2})(\omega _{2}^{2}-\Omega ^{2})}}} X a x s t = ω m 2 ω a 2 ( ω 1 2 − Ω 2 ) ( ω 2 2 − Ω 2 ) {\displaystyle {\frac {X_{a}}{x_{st}}}={\frac {\omega _{m}^{2}\omega _{a}^{2}}{(\omega _{1}^{2}-\Omega ^{2})(\omega _{2}^{2}-\Omega ^{2})}}} ここで、Xm/xstの式に注目すると、ωa = Ωのとき、Xm/xst = 0となる。すなわち加振力の振動数Ωが既知のとき、動吸振器の単体固有角振動数ωaをΩと一致させるように設計することで、主系の振動を完全に消失させることができる。このような手法を同調(tuning)とよぶ。このように補助質量体に主系の振動を吸収させるが動吸振器の基本原理である。このように、連結された振動系で1つの振動系の振動が極小になることを反共振(英語版)とよぶ。 また、ωa = Ωのときの従系質量体の振動変位の解は、 x a = f 0 k a cos ( Ω t + π ) {\displaystyle x_{a}={\frac {f_{0}}{k_{a}}}\cos(\Omega t+\pi )} となり、振幅f0 / kaで、位相は加振力と180°ずれて振動する。さらに、このときの従系質量体がばねを通じて主系質量体へ及ぼす力Faは、xm = 0なので、 F a = − k a ( x m − x a ) = f 0 cos ( Ω t + π ) = − f 0 cos ( Ω t ) {\displaystyle F_{a}=-k_{a}(x_{m}-x_{a})=f_{0}\cos(\Omega t+\pi )=-f_{0}\cos(\Omega t)} となり、加振力を完全に打ち消すような力が、従系から主系へ加わっていることがわかる。 以上のように、理論上はωaをΩと一致させるように設計すれば主系の振動を0にできるが、実際にはΩが一定値に限定できる場合は少ない。共振曲線を見ると、Ω/ωa=1の反共振点のすぐそばにω1、ω2による共振点が存在する。すなわち、Ωが反共振点から変動すると振幅はすぐに大きくなる傾向がある。一方、主系・従系質量比μ = ma/mmに注目すると、μが大きいほど(=従系質量が主系質量に近いほど)、反共振点から離れても振幅倍率の立ち上がりが緩やかである。振動抑制の観点からは、このように主系・従系質量比を大きく取る方が都合が良いが、実際の設計ではそのような大きな動吸振器を付けることは通常は制約がある。このような欠点を解決するため、下記の減衰付動吸振器が有用となる。
※この「非減衰動吸振器」の解説は、「動吸振器」の解説の一部です。
「非減衰動吸振器」を含む「動吸振器」の記事については、「動吸振器」の概要を参照ください。
- 非減衰動吸振器のページへのリンク