電気機器における定格
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/11 06:46 UTC 版)
電気を用いる機器やシステムでは、設計上安定して使用できる電圧や電流があり、これを定格としている。ただし、一般に定格の値は余裕を持って定められており、一時的であれば定格を超えて使用できる場合もある。この場合は、一瞬たりとも超えてはならない値として絶対最大定格または瞬間最大などが別途定められている。 例えば、電動機(モーター)は多数の巻線により磁界を発生させることから、その絶縁性能を確保することが一つの制限となる。絶縁性能を確保するには、決められた電圧を守ることのほか、決められた温度以上とならないようにすることが重要である。モーターに大電流を流し続けると温度が上昇し、やがて絶縁性能を確保できなくなる。また、効率の悪化を招くこともある。そこで、製造者がそうした不都合を考慮して適当と考えた、流し続けてもよい電流値を定格電流と呼び、そのとき発揮できる性能を定格出力や定格速度などと定めている。定格は、一般にその機器に取り付けられた銘板に記載されている。 電気機器を連続的に使い続けた場合、発熱と放熱・冷却がつりあって温度が一定となった時点で許容できる温度以下であれば、問題なく使用できる。また、一時的に大きな出力を出したとしても、それが十分短時間であれば温度上昇は許容できる範囲に収まるので、やはり問題なく使用できる。このことから、連続的に用いる場合と、短時間で用いる場合の定格は異なってくる。連続的に使用することを前提にした定格を連続定格(continuous rating)、短時間で使用することを前提にした定格を短時間定格(short-time rating)、断続的に使用することを前提にした定格を反復定格(intermittent-service rating)と呼ぶ。短時間定格は、前提とする使用時間をつけて30分定格とか1時間定格などの呼び方をする。 通常は連続定格を前提にするが、クレーンや電車の電動機はその使用条件から短時間定格を前提とした設計をすることが普通である。一概にはいえないが、同じ機械の連続定格と短時間定格では、短時間定格の方が20 - 30%程度大きくなる。 例えば、実際の電車の走行を考えてみると、大きな電流を連続して流すことはあまり行われない。駅を発車した電車は、速度を上げるためモーターに電流を流すが、一定の速度に到達すると電流を切り、惰性で走行することが一般に行われる(右図)。これは摩擦が小さく走行抵抗が低い鉄道の特性によるもので、モーターに電流が流れるのは短時間に限られる。また、駅で停車している間もモーターは無負荷であり、電流は流れない。電流が流れていない間にモーターは十分冷却されるので、連続して電流を流し続ける場合に比べて大きな電流を流しても許容温度に達することはない。 このように、電車に搭載されているモーターの連続定格と、実際の電車走行におけるモーターの使用条件は、大きく異なっている。したがって電車のモーターでは、短時間使用であることを前提に、連続定格を大きく超えた短時間定格の範囲で使用することがしばしば行われる。公称数値は1時間定格でも、実際の使用範囲はその2倍以上にも達することが多い(後述する速度比)。ただし新幹線では速度域が高く空気抵抗が大きいため、一定の速度に達しても速度を維持するために常に電流を流している。そのため、連続定格を基準とした電動機・制御となっている。
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