鉧押し(けらおし)法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 09:57 UTC 版)
いちど銑鉄を作ってからそれを錬鉄や鋼に卸すズク押しに対し、「鉧押し(けらおし)」は砂鉄から直に鋼を作りだす直接製鋼法に分類される。ただし、後述するようにケラ押しでは通常、鋼の他にそれを超える量の銑鉄や不均質鋼などができ、それらは主に錬鉄に仕上げられるため、厳密には「直接製鋼法兼間接製鉄法」である。 天文年間(1532 - 1554年)には播磨国で「千種鋼」の生産が始まっているが、より大規模なものになるのは近世になってからである。近世のケラ押しは「三日押し」とも呼ばれるが、それはズク押しよりも日数を短縮することで、錬鉄よりも原価の低い鋼が出来る割合を増やし、操業を合理化したことによる。 ケラ押しの主原料である真砂砂鉄(まささてつ)は不純物が少なく、また粒が大きく還元の進む速度が遅いため、銑鉄と共により炭素量の低い「鉧(けら)」と呼ばれる大きな鉄塊が炉の底に生成される特性をもつ。ケラはさまざまな性質の鉄が混在する塊であり、その中には純度の極めて高い鋼(後に「玉鋼(たまはがね)」と呼ばれる)が含まれている。なお、炉から引き出されたケラの冷却方法の違いにより、大きな池に浸けて急冷する「水鋼(みずはがね)」と、そのまま放置して徐冷する「火鋼(ひはがね)」とに区分されるが、いずれの方法でも鋼そのものの品質に差異は出ない。 1750年代にケラを大ドウと呼ばれる巨大な装置で割って鉄を各種類に選別する技術が開発されたことや、1790年代の錬鉄価格の暴落を背景とし、19世紀初頭には出雲国を中心にズク押しと並行して盛んに操業されるようになった。ズク(銑鉄)の多くは錬鉄に仕上げられ、ケラの中の鋼はそのままで商品として出荷されたが、当時のケラ押しによって生産される錬鉄と鋼の比率は約3:1であった。 このケラ押しは、ズク押しに較べ操業された地域や時代は限定されていたものの、直接製鋼法としては世界的に見ても珍しい形で発展を遂げた。
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