鉛毒の過剰摂取
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/26 04:45 UTC 版)
「ベートーヴェンの死」の記事における「鉛毒の過剰摂取」の解説
ベートーヴェンの死因については論争がある。アルコール性の肝硬変、梅毒、感染性の肝炎、鉛中毒、サルコイドーシス、ホイップル病(英語版)の可能性が提起されている。2008年には、オーストリアの病理医であるクリスティアン・ライターは、ベートーヴェンを診ていた医師のアンドレアス・ヴァヴルフが鉛をもとにした治療薬を誤って過剰量使用して彼を死に至らしめたと主張した。ライターによると、ヴァヴルフは治療薬を腹水を緩和するために用い、鉛が肝臓に入り込んで彼の命を奪ったのだという。しかし、ライターの仮説はヴァヴルフが書き記した「傷は常に乾燥状態に保たれた」という指示書と符合しない。加えて、ヒトの毛髪は鉛汚染を検出するには極めて不向きな材料であり、適切な学術的文献が未出版の状態ではライターの仮説は疑わしいものと考えておかねばならない。 2010年、アンドルー・C.・トッドはベートーヴェンの頭蓋骨片2つを用いて鉛の検出を行い、その鉛濃度は当時の56歳男性として想定されるよりも高くないと結論付けた。しかし、その後の研究でカリフォルニア大学バークレー校のティム・ホワイトは、検証された頭蓋骨片がベートーヴェンのものではなかったと断定している。 とはいうものの、死を招いた原因が鉛中毒である可能性は依然として存在する。蝸牛の神経が萎縮しているという検死の結果は、鉛などの重金属による軸索変性を示唆する証拠のひとつである。長期間にわたる低濃度の鉛への暴露は、亜急性の中毒による運動神経障害に伴い引き起こされる古典的下垂手(wrist drop)よりも、むしろ知覚的、自律的な進行の遅い聴覚の機能不全を発現させる。ベートーヴェンを診た医師らは彼がアルコール依存であると看做しており、彼はとりわけ鉛で汚染されてしまったワインを好んでいた。従って、ベートーヴェンが聴力を失った原因は鉛で汚染されたワインを日常的に摂取していたことであるとすると、他の理由を立てるよりもうまく説明することができるのである。
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