近年の臨床研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 09:35 UTC 版)
カテニンと関係したがんに対する新たな治療法の可能性を調査する、実験室レベルや臨床レベルでの研究が多数行われている。インテグリンアンタゴニストや5-フルオロウラシルとクレスチン(PSK)を用いた免疫化学療法は有望な結果が得られている。PSKはNF-κBの活性化を阻害することでアポトーシスを促進する。がんでβ-カテニンレベルが上昇している場合には通常NF-κBはアップレギュレーションされ、アポトーシスが阻害されている。そのため、PSKによるNF-κBの阻害はβ-カテニンレベルが高い患者の治療に利用することができると考えられる。 現行の治療技術とカテニン関連要素を標的とした治療の併用は、短期的には最も有効な治療法である可能性がある。短期ネオアジュバント放射線療法によるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の破壊は手術後の臨床的再発の防止に有用である可能性があるが、このコンセプトに基づいた適切な治療法の決定にはさらなる研究が必要である。 実験室レベルの研究においても、将来的な臨床研究のための治療標的が示唆されている。VEGFR1(英語版)やEMT(英語版)は、がんの発生や転移の防止に理想的な標的である可能性がある。5-アミノサリチル酸(ASA)はβ-カテニンとその核への局在を減少させることが、結腸がん患者や患者から単離されたがん細胞で示されており、大腸がんに対する化学的予防薬として有用である可能性がある。さらに、アシルヒドラゾンは多くのがんの特徴となっているWntシグナルを阻害することが示されている。アシルヒドラゾンはβ-カテニンを不安定化し、Wntシグナル伝達を破壊してがんと関係した異常な細胞成長を防ぐ。また、E-カドヘリン/カテニン接着系をアップレギュレーションすることで接着や接触阻害の破壊を防ぎ、がんの転移の促進を防ぐ治療概念もある。そうした手法の可能性の1つとして、マウスモデルではRasの活性化阻害剤を用いた接着系の機能性向上が行われている。他のカテニンやカドヘリン、細胞周期の調節因子もさまざまながんの治療に有用である可能性がある。 近年の実験室レベルや臨床レベルでの研究ではカテニンと関係したさまざまながんの治療に対する有望性が示されている一方で、Wnt/β-カテニン経路によってさまざまに異なる作用や機能が生じることが示されており、またその一部は抗がん作用を示す可能性さえある。そのため、単一の正しい治療標的といったものを見つけることは困難である可能性がある。
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