超現実数とは? わかりやすく解説

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超現実数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/05 13:43 UTC 版)

A visualization of the surreal number tree.

数学における超現実数(ちょうげんじつすう、: surreal number)の体系は、全順序付けられた真のクラスとして実数のみならず(任意の正実数よりも絶対値が大きい)無限大および(任意の正実数よりも絶対値が小さい)無限小まで含む。超現実数の体系は、四則演算(加減乗除)など実数が持つ多くの性質を共有しており、順序体を成す[注釈 1] 超現実数をフォンノイマン–ベルナイス–ゲーデル集合論 (NBG) において定式化するならば、超現実数体は(有理数体、実数体、有理函数体、レヴィ゠チヴィタ体準超実数体超実数体などを含む)すべての順序体をその部分体として実現できるという意味で普遍的な順序体となる[1]。超現実数は、すべての超限順序数も(その算術まで込めて)含む。あるいはまた、(NBGの中で構成した)超実体の極大クラスが超現実体の極大クラスに同型であることが示せる(大域選択公理英語版を持たない理論では必ずしもそうならないし、またそのような理論において超現実数体が普遍順序体になるとも限らないことに注意する)。

概念史

1907年にハンス・ハーンは、形式冪級数の一般化としてハーン級数英語版を導入した。またフェリックス・ハウスドルフは、順序数α に対する ηα-集合英語版と呼ばれる順序集合を導入し、それと両立する順序群や順序体の構造を求めることができるかを問うた。Alling (1962) は修正された形のハーン級数を用いて適当な順序数 α に対してそのような順序体を構成し、α をすべての順序数全体の成すクラスを亙って動かすことで、超現実数体に同型な順序体のクラスを与えた。

それとは別の定義および構成法が、ジョン・ホートン・コンウェイにより、囲碁寄せについての研究から導かれている[2]。コンウェイの構成法は1974年にドナルド・クヌースの著書 Surreal Numbers: How Two Ex-Students Turned on to Pure Mathematics and Found Total Happiness[注釈 2] に取り入れられた。対話形式で書かれたこの本においてクヌースは、コンウェイが単に「数」と呼んでいたものに「超現実数」という新たな名を付けた。のちにコンウェイもクヌースのこの造語を受け入れ、1976年には超現実数を用いてゲームを解析する On Numbers and Games英語版 を著した[3]

概観

コンウェイの構成法[3]では、超現実数は、大小関係を表す順序 (二つの超現実数 a, b に対し ab または ba が成立する。ab かつ ba がともに成立するとき ab は同値であると言い、同じ数を表すものと理解する)を伴って、段階を踏んで構成される。各段階における数は、既に構成された既知の超現実数からなる部分集合のの形をしており、そのような数からなる部分集合 L, R が与えられ、L のすべての元が R のすべての元よりも真に小さいときに、対 {L  |  R}L のすべての元と R のすべての元との間に値を持つ中間数を表すものとなる。

このとき、全く異なる部分集合の対が結局は同じ数を定義するということが起こり得る —たとえ LL′ かつ RR′ となる場合であってさえも、二つの対 {L  |  R}, {L′  |  R′} が同じ数を定義しうる—(同様の現象は、有理数を整数の商として定義するときにもあったことである。例えば 1/22/4 は同じ有理数の異なる表現である)。ゆえに厳密を期すならば、超現実数とはそのような同じ数を指す {L  |  R} なる形式の表現からなる同値類のことと言うべきである。

構成の緒段(第零世代)では、既存の数は何もないのだから、表現には空集合しか用いようがない。表現 {  |  }L および R が空集合という意味であり、これを 0 と呼ぼう。段階を踏んでいけば

注釈

  1. ^ NBGを用いたオリジナルの定式化において、超現実数の全体は集合でない真のクラスを成すのだから、厳密に言えばを成すというのはミスフレージングである。この区別は重要であって、文献によっては体の算術的性質を満たす真の類は "Field" や "FIELD" と呼んでいる場合もある(そのようなことをしている日本語文献があるかはわからないが、さしあたって「体」とかとか区別をつけることはできるだろう)。真の(つまり集合となる)体を得る方法としてグロタンディーク宇宙を一つ決めてその中で構成をするという手段が考えられる。それで得られるものは、適当な強到達不能基数を持つ集合であったり、用いた集合論によってはε0のような適当な可算順序数において停止する超限帰納法による構成となったりする。
  2. ^ 直訳は「超現実数 – 二人の元学生は如何にして純粋数学に熱中し、そして完全な幸福を得たか」となるだろうか。和訳本の一つ (松浦俊輔訳、柏書房、2004年) には『至福の超現実数―純粋数学に魅せられた男と女の物語』とタイトルが付けられている。
  3. ^ この場合、yL = {2} の元は 2 しかないから、定義式において yLy の部分は数の計算 2 − 3 = −1 に単純化できる。同様に yR は空集合で、とるべき元は存在しないから、定義式において yR を含むふたつの式は考える必要がない。
  4. ^ 二進分数全体の成す集合は、この種の群および環のうち非自明でもっとも単純な例になっている。つまり、誕生日が ω = ω1 = ωω0 より小さい超現実数の全体である。
  5. ^ この間隙の定義は、デデキント切断の条件から「L および R が空でなく、また L が最大元(存在すれば R の最小元とも一致する)を持たない」という条件が落ちている。
  6. ^ 重要なことに、コーシー列全体の成す集まりがNBG集合論においてクラスを成すという主張は存在しない。
  7. ^ これらの等式の最も自明に見えるものでさえ、その中に超限帰納法が隠されていることを思えば、これら一つ一つが別々の定理を成していると考えるに十分であろう。

出典

  1. ^ Bajnok, Béla (2013). An Invitation to Abstract Mathematics. "Theorem 24.29. The surreal number system is the largest ordered field" 
  2. ^ a b O'Connor, J.J.; Robertson, E.F., Conway Biography, http://www-history.mcs.st-andrews.ac.uk/Biographies/Conway.html 2008年1月24日閲覧。 
  3. ^ a b c d e Conway 1976.
  4. ^ a b c d van den Dries & Ehrlich 2001.
  5. ^ a b Gonshor 1986.
  6. ^ a b Rubinstein-Salzedo, Simon; Swaminathan, Ashvin (19 May 2015). "Analysis on Surreal Numbers". arXiv:1307.7392v3 [math.CA]。
  7. ^ Surreal vectors and the game of Cutblock, James Propp, August 22, 1994.
  8. ^ Alling 1987.

参考文献

関連文献

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