複素数の冪根
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/15 01:15 UTC 版)
複素数 a に対して、その冪根は極形式を用いれば簡単に表すことができる。a = 0 のときはその冪根は 0 のみであると定め、以下 a ≠ 0 として、 a = r e i θ ( r > 0 , 0 ≤ θ < 2 π ) {\displaystyle a=re^{i\theta }\ (r>0,0\leq \theta <2\pi )} をその極形式表示とする。 まず、r > 0 に対して xn = r を満たす x > 0 はただ一つ存在する。それは r n {\displaystyle {\sqrt[{n}]{r}}} である。このとき、n個の複素数 α k = r n exp ( θ + 2 k π n i ) , ( k = 0 , 1 , ⋯ , n − 1 ) , {\displaystyle \alpha _{k}={\sqrt[{n}]{r}}\exp \left({\frac {\theta +2k\pi }{n}}i\right),\qquad \left(k=0,1,\cdots ,n-1\,\right),} はすべて代数方程式 αkn − a = 0 を満たす。代数学の基本定理より、複素数係数の n次方程式の解は n個であるから、a の n乗根は以上ですべて得られている。 ここで注意すべき点は、根号 (radical sign, radix) n {\displaystyle {\sqrt[{n}]{\;}}} は元となる複素数 a の絶対値 r = |a| 以外に対しては一意な意味を持たないことである。つまり、一般の複素数 a に対して a n {\displaystyle {\sqrt[{n}]{a}}} などと書いても、それだけではこの記号に何の意味も発生しないということである。もう少し別な言い方をすれば、根号関数 n : R + → R {\displaystyle {\sqrt[{n}]{\;}}:\mathbb {R} _{+}\rightarrow \mathbb {R} } (ここで R + {\displaystyle \mathbb {R} _{+}} は正の実数全体)は定義可能だが、 n : C + → C {\displaystyle {\sqrt[{n}]{\;}}:\mathbb {C} _{+}\rightarrow \mathbb {C} } を定める方法は無条件には存在しないというような形で述べることもできる。 しかしながら、例えば二次方程式 ax2 + bx + c = 0 の解の公式に現れる根号付きの数 D ( D = b 2 − 4 a c ) {\displaystyle {\sqrt {D}}(D=b^{2}-4ac)} を、その中に現れる複素数 D の平方根の任意に選んだ 1 つと解釈することにすれば、もう一方の解は − D {\displaystyle -{\sqrt {D}}} に対応し、根の公式はそのまま任意の二次方程式に通用する。このことは 2つの冪根同士は 1 の原始冪根を掛ける違いしか持たないことに起因する。そういった背景により、「どれなのかは論理的に区別して指定できない」のだけれども、ある規約の下で根号 n {\displaystyle {\sqrt[{n}]{\;}}} を用いることは少なくない。虚数単位である − 1 {\displaystyle {\sqrt {-1}}} はその最も簡単な例である。 数の範囲を実数に限るのであれば、別な意味づけをすることもある。n が奇数のときは、負の実数 x の n乗根は実数の範囲にただ1つだけ存在することから、これを x n {\displaystyle {\sqrt[{n}]{x}}} と記すのである(立方根を参照)。
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