累積選択
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/17 07:34 UTC 版)
進化論の反対者は「不完全な眼、不完全な翼などは役に立たない」と述べる。これを説明するのが累積的選択である。原始的な状態と比べてわずかでもその形質を持つことが生存と繁殖に有利さをもたらすのであれば、その形質は種内に広がる。その状態よりもさらに一歩進んだ形質を持つことが同じように有利さをもたらすなら、また種内にその進んだ形質は広がる。 イギリスの生物学者リチャード・ドーキンスはキノボリウオを例に次のように説明した。「もしあなたが魚であって、基本的には水中で生活しているが、時には干ばつを生き抜くために危険を冒して陸へ上がり、あちこち泥んこの水たまりを転々と移動するとなれば、半分の肺どころか、100分の1の肺からでも利益を受けるだろう」。全く肺がなければ地上に飛び出ることはできないが、100分の1の肺でもあればわずかに地上を移動することができ、100分の2の肺であればそれより長い距離を移動することができる。移動可能な距離が長ければ長いほど、干ばつから逃れられる可能性が高まるのである。 では100分の2の肺が一般的に見られるようになった群れではどうだろうか。そこには変異に由来する個体差があり、相変わらず100分の1の肺しか持たずに生まれてくる者もいれば、100分の3の肺を持って生まれてくる者もいる。平均すれば100分の3の肺を持つ者の方がより生きながらえる可能性が高い。つまりいずれは100分の3の肺が一般的に見られるようになり、そのあとには100分の4の肺が・・・と考えられる。現実では選択圧は多様なので、肺の容量が必ずしもキノボリウオの生存に有利になるとは限らないが、不完全な性質は無意味であるとは言えないのである。そもそも『完全な性質』というものは無いのであり、『不完全な性質』というのは現世生物を完全な性質を持つものと仮定しての相対評価に過ぎない。 冒頭で述べた「不完全な眼」についても、明暗を僅かながら見分ける能力であっても、それを持つ生物の生存確率には影響しえる。またムササビの横膜のように、現世生物においても、滑空はできても飛行できない、言わば「不完全な翼」が役立っている例もある。 その一方で、ドーキンスのあげた例は、「不完全な性質であっても無意味でないもの」を抽出したに過ぎないという意見もある。例えばカレイやヒラメのような身体の片方に両眼が寄った形態は、現在のような「完全な状態」であれば意味があるが、進化の過程としての中途半端に片側に眼が寄りつつある状態は、その生物の生存のためにどういった役に立つのか、という疑問点がある。
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