粘着と列車抵抗に基づく牽引定数の計算
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/19 08:34 UTC 版)
「粘着式鉄道」の記事における「粘着と列車抵抗に基づく牽引定数の計算」の解説
ここでは、機関車が最大でどの程度の客車を牽引することができるのかを計算してみる。粘着係数が0.2の状態で、100 tの機関車が牽引したとすると、引張力を20 t発揮することができる。鉄道車両の列車抵抗は、車種にもよるが動き始める時点で重量1 tあたり2 kg程度とされる。このことから機関車自体の抵抗は0.2 t程度で、引張力の20 tから差し引いて19.8 tの力で客車を引くことができる。客車1両あたり50 tとすると、この列車抵抗は1両あたり0.1 t程度である。したがって、最大で198両の客車を牽引することができることになる。 これは、列車が動き出すために必要な最低条件を計算したものである。列車抵抗は速度が上がるにつれて大きくなるため、実際にこれだけの車両を牽引しようとしても全く速度を出すことができない。また現実的には駅の番線の長さなどで制約される。 上記では平地にいるときの最大牽引両数を算出したが、次は12 パーミルの勾配の斜面にいる列車を想定する。12 パーミルは、1000 m水平に進む間に12 m登る勾配であるので、この勾配の角度をθと置くと、三角関数より、tan θ = 0.012である。逆算するとθ ≈ 0.687°なので、θ微小としてtan θ ≈ θ、sin θ ≈ θ、cos θ ≈ 1と置いて計算すると、sin θ ≈ 0.012、cos θ ≈ 1となる。したがって、100 tの機関車に掛かる重力は、斜面平行方向と斜面垂直方向に成分を分解して考えると、平行方向が100 t × sin θ = 1.2 t、垂直方向が100 t × cos θ = 100 tとなる。このことから、斜面にいることによる輪重の減少はほとんど無視でき、引張力は平地時と変わらず20 tを発揮できると見なせる。一方で列車抵抗の変化は、機関車自体の本来持っている抵抗は0.2 tで、これに重力の斜面平行方向成分である1.2 tが加わるので、合計して機関車の列車抵抗は1.4 tとなる。同様に客車の列車抵抗も、重力斜面平行方向成分が加わって1両あたり0.7 tとなる。このことから、客車を牽引するために使える18.6 tを0.7 tで除すると26.6となり、この客車に対する最大牽引両数は26両となる。現実には軸重移動の問題が生じ空転しやすくなるために、さらに牽引可能数は厳しくなる。このように、少しでも勾配があると牽引力は大きく落ちることになる。こうしたことから、牽引力を保つためにトンネル、切り通し、築堤、橋などを用いて線路をできるだけ水平に保つことが重要となる。 実際の列車の運行計画を作るにあたっては、列車ごとに要求される最高速度からその速度での列車抵抗を勘案し、その路線にあるもっとも急な勾配でも問題なく走行できるような機関車の牽引力と客車の連結両数を算定することになる。これを実際に計算すると、上で計算した値よりもかなり小さな両数しか牽引できないことが分かる。
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