種の利益と群選択
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/05 02:02 UTC 版)
「ヴェロ・コプナー・ウィン=エドワーズ」の記事における「種の利益と群選択」の解説
ウィン=エドワーズはそれまで広く信じられてきた「生物は種の保存や維持のために行動する」という漠然とした概念を定式化しようと努めた。そして個体数調節や自己犠牲的な行動を行う「利他的な」個体が多い群れは、そのようなことを気にとめない「利己的な」個体が多い群れよりも長く存続するはずで、結果的に自然選択は個体よりも群れなどの集団に強く影響すると主張し、このメカニズムを群選択(集団選択)と名付けた。 彼自身も自覚していたように、著書の出版直後から激しい論争が起きた。彼の立場を支持した初期の人々にロバート・アードリー、コンラート・ローレンツ、ローレンツの教え子のイレネウス・アイブル=アイベスフェルト(後に反対に転向)らがいる。一方で、ジョン・メイナード=スミス(1963)、デイビッド・ラック(1966)、ジョージ・クリストファー・ウィリアムズ(1966,1971)、リチャード・ドーキンス(1976,1982)らによって厳しく批判された。たとえばウィン=エドワーズは鳥類で個体密度が増加すると一腹卵数が減ることについて、資源の乱費による群れの絶滅を避けるため、親は敢えて(子育てする能力があるにもかかわらず)一腹卵数を制限しているのだと主張した。これに対してラックは巣にヒナを加えることで巣立ちできる子の数が何も手を加えない時より減ることを示した。そして、親が一腹卵数を制限するのは、獲得できる資源の量が少ない環境ではエサが多くの子に分散され無事に育つ子の数が減るためで、親は最も効率よく自分の子を最大化できるような繁殖戦略を採っている(=繁殖についてそのような遺伝的傾向を持つ個体が自然選択によって数を増してゆく)のだと反論した。 ウィン=エドワーズは1978年に群選択が成り立たないことを率直に認め主張を撤回したが、1980年代初頭にはデイビッド・スローン・ウィルソンらが主張した新たな群選択(マルチレベル選択)を支持した。彼の理論と種の利益論法(ただし後年、種の利益論法を擁護するために群選択を提唱したのではないと述べている)は現在のほとんどの動物行動学者と進化生物学者から受け入れられていない。しかし、彼の主張は「種の利益」という漠然とした概念の問題点を明らかにし、膨大な動物行動研究を刺激した。そのため動物行動学や行動生態学の発展に大きく貢献したと評価する人々もいる。
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