真獣下綱
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/04 09:05 UTC 版)
| 真獣類 Eutheria  | 
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| 地質時代 | |||||||||||||||||||||
| 前期白亜紀 - 完新世(現代) | |||||||||||||||||||||
| 分類 | |||||||||||||||||||||
 
      
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| 学名 | |||||||||||||||||||||
| Eutheria Gill, 1872[1]  | 
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| 和名 | |||||||||||||||||||||
| 真獣類 | |||||||||||||||||||||
| 上目 | |||||||||||||||||||||
真獣下綱(しんじゅうかこう、学名:Eutheria)あるいは正獣下綱(せいじゅうかこう)は、獣類に属する哺乳類の一群である。有胎盤類の他、ジュラマイアなどいくらかの絶滅分類群を含む。階級を付けない場合は真獣類、正獣類ともいう。なお、真獣類という語を獣亜綱(真獣亜綱)の意味で使う文献もあるが[3]、ここでは真獣下綱を指すものとして扱う。
概要
哺乳類の現生種はおよそ4300種だが、うち約4000が真獣下綱である。また生物地理的な分布においては、オーストラリア区に限られる原獣亜綱(カモノハシ目 / 単孔類)やオーストラリア区及び新北区、新熱帯区のみとなる後獣下綱(有袋類)などとは異なり、ほぼ全世界に分布している[3]。
形態
有袋類との相違点を以下に述べる。
- 脳函
 - 有袋類と比しても拡大が著しい[4]。
 - 歯
 - 有袋類が基本的に50本の歯を持つのに対し、真獣下綱では44本となる。またともにトリボスフェニック(tribosphenic)型後臼歯を持つが、その形態は異なる。この大臼歯の数も、有袋類は4本であるが、真獣類では3本となる。[5]
 - 骨格
 - 有袋類にある前恥骨(袋骨)を持たない[6][4]。ただし、初期群には持つものもいる。
 - 胎生
 - 真獣下綱、後獣下綱はともに胎生であるが、真獣下綱は胎盤が形成される点が異なる。また、有袋類は膣及び子宮が一対であるのに対し、真獣下綱では膣は一つ、子宮はネズミ目やウサギ目を除いては一つに癒合している。[7]
 
分類
上位分類
現生哺乳類の多数は有胎盤である。その他に、別の絶滅哺乳類の系統である単孔類と有袋類の2つが生き残る。真獣類を他と区別する点は妊娠中に胎児を胎盤を通して成長させることにある(有袋類であるフクロアナグマは例外的に胎盤を有する)。有性生殖をし、仔は充分に成長するまで母親に懐胎されている。近縁の後獣下綱と同じく胎生である。全ての大陸と全ての大洋にみられる。
- 原獣亜綱 Prototheria / Australosphenida
 - 全獣類 Holotheria 
    
- 獣亜綱(真獣亜綱) Theria 
      
- †パッポーテリウム科 Pappotheriidae(†は絶滅)
 - 後獣下綱 Metatheria
 - 真獣下綱 Eutheria
 
 
 - 獣亜綱(真獣亜綱) Theria 
      
 
有胎盤類
真獣類が1880年にトマス・ヘンリー・ハクスリーによって導入されたとき、その語はそれまで使われていた有胎盤類 (Placentalia) よりも範囲が広くされ、冠系統としての有胎盤類と有袋類よりも有胎盤類に近い絶滅種群が含まれる。
現在、有胎盤類は、有袋類・単孔類を除く現生哺乳類の最も新しい共通祖先とその子孫と定義される[10][11]。これは一般に、真獣類より狭いクレードであり、真獣類と後獣類が分岐してから、有胎盤類が放散する以前に、有胎盤類に繋がる系統から分岐した原始的な真獣類が含まれない。 Maureen A O’Learyらによる研究では、有胎盤類の共通祖先は中生代と新生代の境目、いわゆるK-T境界の後に現れたとしている。[12]
下位分類
知られている最古の真獣下綱に属する種が中国の白亜紀下層から出土したエオマイア・スカンソリアである。これは紛れも無い真獣類であったが、その臀部は充分に成長した仔を産むのには狭すぎる。このことから、初期の真獣類では、胎児の成長に胎盤の果たす役割は些細なものであったと結論付けられる。
その他にも有胎盤類ではない複数の絶滅分類群が報告されている。
また、現生群は全て有胎盤類であり、異節上目、アフリカ獣上目、真主齧上目、ローラシア獣上目という四つの大グループに分類される。このうち真主齧上目とローラシア獣上目は近縁で、北方真獣類(ボレオユーテリア)を形成する[13]。これと残り二つのグループの分岐順には様々な説が存在した。遺伝子を解析した結果においても、使用する遺伝子によって結果が異なったからである。
しかしLINE配列の解析を行っていた東工大大学院の岡田典弘教授らのグループは祖先多型[注 1]が存在し、その状態が解消される前に3つの系統がほぼ同時期に、急激に分岐したと結論付けた[14][15]。
これらの3系統は、ミトコンドリアDNAと地理などの分析により1億2000万年から1億500万年前に分岐したとされる[16][17]。
- (基盤的な化石真獣類) 
     
- †エオマイア属 Eomaia
 - †ササヤマミロス属 Sasayamamylos
 - †アジオリクテス類 Asioryctitheria 
       
- †アジオリクテス科 Asioryctidae
 - †ケナレステス科 Kennalestidae
 
 - †ザランブダレステス科 Zalambdalestidae
 - †マダガスカル獣目 Bibymalagasia
 
 - 大西洋類 Atlantogenata 
     
- 異節上目 Xenarthra
 - アフリカ獣上目 Afrotheria 
       
- アフリカトガリネズミ目 Afrosoricida
 - イワダヌキ目(岩狸目) Hyracoidea
 - ハネジネズミ目(長脚目) Macroscelidea
 - ゾウ目(長鼻目) Proboscidea
 - ジュゴン目(海牛目) Sirenia
 - ツチブタ目(管歯目) Tubulidentata
 
 
 - 北方真獣類 Boreoeutheria 
     
- 真主齧上目 Euarchontoglires 
       
- ヒヨケザル目(皮翼目) Dermoptera
 - ウサギ目(兎形目) Lagomorpha
 - サル目(霊長目) Primates
 - ネズミ目(齧歯目) Rodentia
 - ツパイ目(登木目) Scandentia
 
 - ローラシア獣上目 Laurasiatheria 
       
- ネコ目(食肉目) Carnivora
 - 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
 - コウモリ目(翼手目) Chiroptera
 - センザンコウ目(鱗甲目) Pholidota
 - 真無盲腸目 Eulipotyphla
 - ウマ目(奇蹄目) Perissodactyla
 
 
 - 真主齧上目 Euarchontoglires 
       
 
 
過去の分類
かつては体型などから真獣下綱を化石種も含めて4つの「区」に分けていた。(†は目単位で化石種)
- 有爪区 Unguiculata
    
    
- 食虫目
 - 皮翼目
 - 翼手目
 - 霊長目
 - †裂歯目 Tillodontia
 - †紐歯目
 - 貧歯目
 - 有鱗目(=鱗甲目)
 
 - 山鼠区 Griles
    
    
- 齧歯目
 - 兎目
 
 - 無足区 Mutica 
    
- 鯨目
 
 - 猛獣有蹄区 Ferungulata
    
-  猛獣上目 Ferae 
      
- 食肉目
 
 - 原蹄上目 Protungulata
 - 近蹄上目 Paenungulata
 -  中軸上目 Mesaxonia 
      
- 奇蹄目
 
 -  側軸上目 Paraxonia 
      
- 偶蹄目
 
 
 -  猛獣上目 Ferae 
      
 
有爪区は原始食虫類から直接分離したと考えられたもので、山鼠区はネズミとウサギの仲間を束ねたもの、体形が他の哺乳類と大きく異なるクジラは独立の区に入れられ、当時単系統と考えられてた有蹄類全般と体型的に近い食肉目は一つの区に束ねられていた[21]。
 
注釈
- ^ 祖先に異なるSINE配列を持った複数のグループが存在した事。通常はこの状態は長続きせず、いずれ一つの配列パターンに落ち着く。
 
出典
- ^ Gill, T. 1872. Arrangement of the families of mammals. With analytical tables. Prepared for the Smithsonian Institution. Smithsonian Miscellaneous Collections 230: i–vi, 1–98.
 - ^ Rook, Deborah L.; Hunter, John P. (April 2013). “Rooting Around the Eutherian Family Tree: the Origin and Relations of the Taeniodonta”. Journal of Mammalian Evolution 21: 75–91. doi:10.1007/s10914-013-9230-9.
 - ^ a b 遠藤秀紀「正獣類の多様化(1)主役の中の主役」『哺乳類の進化』東京大学出版会、2002年、48–49頁。
 - ^ a b 『哺乳類の進化』 50頁
 - ^ 『絶滅哺乳類図鑑』 12頁
 - ^ 『絶滅哺乳類図鑑』 41頁
 - ^ 『「退化」の進化学』 75 - 76頁
 - ^ a b 哺乳類の系統分類(渡邊誠一郎)
 - ^ Ji, Q., Luo, Z-X., Yuan, C-X.,Wible, J.R., Zhang, J-P. and Georgi, J.A. (April 2002). “The earliest known eutherian mammal”. Nature 416 (6883): 816–822. doi:10.1038/416816a. PMID 11976675 2008年9月24日閲覧。.
 - ^ Archibald, J David (2001), “Eutheria (Placental Mammals)”, Encyclopedia of Life Science
 - ^ Carter, A.M.; Mess, A. (2007), “Evolution of the Placenta in Eutherian Mammals”, Placenta 28 (4): 259–62
 - ^ http://www.sciencemag.org/content/339/6120/662
 - ^ レトロポゾンが書き込んだ哺乳類の歴史(2006.05.23)
 - ^ 産経ニュース 【科学】哺乳類の進化 大陸分裂→3系統に分岐
 - ^ 『ありえない!? 生物進化論』 82–86頁
 - ^ Springer, Mark S.; Murphy, William J.; Eizirik, Eduardo; O’Brien, Stephen J. (2003). “Placental mammal diversification and the Cretaceous–Tertiary boundary”. Proceedings of the National Academy of Sciences 100 (3): 1056–1061. doi:10.1073/pnas.0334222100. PMC 298725. PMID 12552136.
 - ^ Nishihara, H.; Maruyama, S.; Okada, N. (2009). “Retroposon analysis and recent geological data suggest near-simultaneous divergence of the three superorders of mammals”. Proceedings of the National Academy of Sciences 106 (13): 5235–5240. doi:10.1073/pnas.0809297106.
 - ^ “Eutheria phylogeny”. Mikko’s Phylogeny Archive. 2006年3月8日閲覧。
 - ^ Connor J. Burgin, Jane Widness & Nathan S. Upham (2020). “Introduction,” In: Connor J. Burgin, Don E. Wilson, Russell A. Mittermeier, Anthony B. Rylands, Thomas E. Lacher & Wes Sechrest (eds.), Illustrated Checklist of the Mammals of the World, Volume 1, Lynx Edicions, Pages 23-40.
 - ^ スティーヴ・パーカー編、日暮雅通・中川泉 訳「第7章 哺乳類」『生物の進化大事典』養老孟司 総監修・犬塚則久 4-7章監修、三省堂、2020年、416-417頁。
 - ^ a b 『原色現代科学大事典 5動物II』、宮地伝三郎(責任編集者)、株式会社学習研究社、1968年、p.395-400。
 - ^ 『標準原色図鑑全集20 動物II』、林壽郎、株式会社保育社、1968年、p.XI。(ただしこちらは化石種は未記載)
 - ^ 毛利孝之・金子たかね「見直される哺乳類の系統分類」『西日本畜産学会報』第51巻、日本暖地畜産学会、2008年、5-12頁。
 
参考文献
- 遠藤秀紀『哺乳類の進化』東京大学出版会、2002年、48–50頁。 ISBN 978-4-13-060182-5。
 - 富田幸光『絶滅哺乳類図鑑』伊藤丙雄、岡本泰子、丸善、2002年、12, 41頁。 ISBN 4-621-04943-7。
 - 犬塚即久『「退化」の進化学』講談社〈ブルーバックス〉、2006年、75–76頁。 ISBN 4-06-257537-X。
 - 北村雄一『ありえない!? 生物進化論』ソフトバンククリエイティブ〈サイエンス・アイ新書〉、2008年、82–86頁。 ISBN 978-4-7973-4592-6。
 
関連項目
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