演奏者による版・稿選択
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/20 06:14 UTC 版)
「ブルックナーの版問題」の記事における「演奏者による版・稿選択」の解説
演奏者が実際にブルックナーの交響曲を演奏する際に、どの版・稿を選択しどのように演奏するか、その考え方や実情には一貫した傾向があるわけではなく、ケースバイケースと言うほかない。以下の説明は、その背景、現状のいくつかを列挙したものである。 ノヴァーク版(またはその後登場した新しい校訂譜)で演奏するとき、オーケストラが使用する楽譜(パート譜)は、基本的には、国際ブルックナー協会からレンタルする必要がある。一方、ハース版や改訂版は、古いリプリント譜が安価で市販されていることがあり、楽団がその譜面を購入・所有している、あるいは友好関係にある楽団から借用使用する状況がありえる。 概して、版・稿問題に強い拘りを見せる指揮者と、それほどではない指揮者がいる。前者の場合、複数の版・稿のスコアを比較検討した上で、使用する版・稿を指定することもあるし、特定の版・稿に固執することもある。後者の場合、「単純に最もあたらしい校訂譜(ノヴァーク版)を使用する」場合もあれば、「たまたま入手した譜面を使用する」場合もある。 冷戦時代(東西ドイツ分裂時代)には、ノヴァーク版はウィーン、ハース版はライプツィヒより出版され続け、西側諸国ではハース版が入手できず、一方東側諸国ではノヴァーク版が入手できない状況にあった。この影響で、西側の指揮者やオーケストラはノヴァーク版を、東側指揮者やオーケストラはハース版を使う傾向にあると指摘する研究者もいる。 指揮者が版・稿に強く拘らない場合、とりあえず入手できたパート譜に対して、指揮者がどうしても気になるスコアとの相違点のみ変更を指示して修正対処する、ということもある。例えば交響曲第7番で、ハース版または改訂版のパート譜を用いながら、部分的にノヴァーク版に従って修正する例がある(その結果例えば、第1楽章のオーケストレーションがハース版だが第2楽章の打楽器の追加はノヴァーク版、といった状況が起こりえる)。また交響曲第8番で、ハース版を用いながら、第3楽章・第4楽章のカットのみノヴァーク版に従っている例がある。こういった処置は、CDの解説書で丁寧に解説されていることはほとんどない(著名指揮者の著名録音での処置は、評論家の書籍などで解説されていることがある)。CDのヒアリング上は、複数の版・稿を折衷した演奏に聞こえる。 特に交響曲第4番で顕著な現象だが、第2稿(ハース版またはノヴァーク版)を用いながらも、部分的に第3稿に倣った改編(強弱の表情、旋律のオクターブ上昇、シンバルの追加など)を、指揮者があえて指示することがある。この形での録音も複数残されている。これもCDのヒアリング上は、複数の版・稿を折衷した演奏に聞こえる。 一方、指揮者が版・稿に拘りを見せたり、独自の校訂した譜面を用いる場合も、もちろん少なくない。これらの問題は版の選択から始まってすべて演奏者(指揮者)の解釈の相違と言う形で処理される。
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