浸透圧ストレスとは? わかりやすく解説

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浸透圧ショック

(浸透圧ストレス から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/12 02:47 UTC 版)

等浸透圧(isotonic)溶液中では、細胞内外への水の移動は等しい。高浸透圧(hypertonic)溶液中では、水は細胞外へ流出し、細胞は収縮する。低浸透圧(hyporonic)溶液中では、水は細胞内へ流入し、細胞は膨潤する。

浸透圧ショック(しんとうあつショック、: osmotic shock)または浸透圧ストレス(しんとうあつストレス、: osmotic stress)は、細胞周囲の溶質濃度(浸透圧)の急激な変化によって引き起こされる生理的機能不全である。こうした条件下では、細胞膜を越える水輸送に急激な変化が生じる。高浸透圧条件下(基質、その他何らかの溶質濃度が高い状態)では、浸透圧によって水は細胞から流出する。こうした条件下では、基質や補因子の輸送も阻害され、そのため細胞は「ショック」状態となる。反対に、低浸透圧条件下(溶質濃度が低い状態)では水が細胞内に大量に流入し、細胞は膨潤して破裂するか、もしくはアポトーシスが引き起こされる[1]

全ての生物は浸透圧ショックに応答する機構を備えている。細胞には周囲の浸透圧に関する情報をもたらすセンサーやシグナル伝達ネットワークが存在し[2]、こうしたシグナルは極限的状況に対処するための応答を活性化する[3]細胞壁を持つ細胞は、細胞壁が細胞の形状を維持する役割を果たすため、浸透圧ショックへの耐性が高い傾向にある[4]単細胞生物は環境に直接さらされているため浸透圧に対して脆弱であるが、哺乳類のような大きな動物も一部の条件下ではこうしたストレスを受けることがある[5]。現在の研究においても、細胞や組織への浸透圧ストレスがヒトの多くの疾患に大きく寄与している可能性が示唆されている[6]

真核生物では、カルシウムが浸透圧ストレスに対する主要な調節因子の1つとして作用する。高浸透圧ストレスや低浸透圧ストレス下では、細胞内のカルシウム濃度が上昇する。

ストレスからの回復と耐性の機構

高浸透圧ストレス

カルシウムは、高浸透圧ストレスと低浸透圧ストレスの双方において、ストレスからの回復と耐性に大きな役割を果たしている。高浸透圧ストレス条件下では細胞内のカルシウム濃度は上昇し、この現象はセカンドメッセンジャー経路の活性化に重要な役割を果たしている可能性がある[7]

カルシウムを介したセカンドメッセンジャー経路によって活性化される因子の1つが、MAPキナーゼHog1である。Hog1は高浸透圧ストレス条件下で活性化され[8]、ストレス後の細胞内のグリセロール産生の増加を担う。より具体的には、Hog1はグリセロールの産生や取り込みを担う遺伝子を活性化するシグナルをへ送ることで機能する[8]

低浸透圧ストレス

低浸透圧ストレスからの回復は、主にいくつかのイオンや分子の流入や流出によって行われる。回復過程では細胞外のカルシウムの流入が生じることが示されており、それによって細胞の透過性が変化している可能性がある[9]

低浸透圧ストレスは、ATPの細胞外への放出とも関連している。ATPはプリン受容体英語版を活性化するために利用される[10]。これらの受容体は、細胞膜の両側でナトリウムカリウム濃度を調節している。

一部の生物では、低浸透圧ストレスと関連したアミノ酸の流出はフェノチアジンによって阻害される[9]

出典

  1. ^ “Mechanisms of suicidal erythrocyte death”. Cellular Physiology and Biochemistry 15 (5): 195–202. (2005). doi:10.1159/000086406. PMID 15956782. 
  2. ^ “Evolution of osmotic stress signaling via MAP kinase cascades”. The Journal of Experimental Biology 201 (Pt 22): 3015–21. (November 1998). doi:10.1242/jeb.201.22.3015. PMID 9787121. http://jeb.biologists.org/cgi/reprint/201/22/3015. 
  3. ^ “Osmotic stress sensing and signaling in animals”. The FEBS Journal 274 (22): 5781. (November 2007). doi:10.1111/j.1742-4658.2007.06097.x. PMID 17944944. 
  4. ^ Unique Characteristics of Prokaryotic Cells”. 2024年5月11日閲覧。
  5. ^ “Intracellular water homeostasis and the mammalian cellular osmotic stress response”. Journal of Cellular Physiology 206 (1): 9–15. (January 2006). doi:10.1002/jcp.20445. PMID 15965902. 
  6. ^ “The role of hyperosmotic stress in inflammation and disease”. Biomolecular Concepts 3 (4): 345–364. (August 2012). doi:10.1515/bmc-2012-0001. PMC 3438915. PMID 22977648. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3438915/. 
  7. ^ Erickson, Geoffrey R.; Alexopoulos, Leonidas G.; Guilak, Farshid (2001). “Hyper-osmotic stress induces volume change and calcium transients in chondrocytes by transmembrane, phospholipid, and G-protein pathways”. Journal of Biomechanics 34 (12): 1527–1535. doi:10.1016/S0021-9290(01)00156-7. PMID 11716854. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0021929001001567. 
  8. ^ a b Kim, Jiyoung; Oh, Junsang; Sung, Gi-Ho (2016). “MAP Kinase Hog1 Regulates Metabolic Changes Induced by Hyperosmotic Stress”. Frontiers in Microbiology 7: 732. doi:10.3389/fmicb.2016.00732. PMC 4870262. PMID 27242748. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4870262/. 
  9. ^ a b Pierce, Sidney K.; Politis, Alexander D.; Smith, Laurens H.; Rowland, Laura M. (1988). “A ca2+ Influx in Response to Hypo-Osmotic Stress May Alter Osmolyte Permeability by a Phenothiazine-Sensitive Mechanism”. Cell Calcium 9 (3): 129–140. doi:10.1016/0143-4160(88)90016-4. PMID 3138029. https://dx.doi.org/10.1016/0143-4160%2888%2990016-4. 
  10. ^ Shahidullah, M.; Mandal, A.; Beimgraben, C.; Delamere, N.A. (2012). “Hyposmotic Stress Causes ATP Release and Stimulates Na,K‐ATPase Activity in Porcine Lens”. Journal of Cellular Physiology 227 (4): 1428–1437. doi:10.1002/jcp.22858. PMID 21618533. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jcp.22858. 

関連項目


浸透圧ストレス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/02 16:19 UTC 版)

塩生植物」の記事における「浸透圧ストレス」の解説

過剰な塩類さらされ植物最初に受けるのが、浸透圧によるストレス(英:osmotic stress)であると言われる浸透圧溶液中の溶質の数に比例し水溶液場合溶媒であるは、溶質の数の多い方から、溶質の数が少ない方へと移動しようとする。淡水比べて植物の体内存在するには多く溶質溶け込んでいるため、周囲淡水であれば植物浸透圧に従って容易に外部から取り込むことができる。しかし、塩類が根周囲高濃度溶解しているほど、植物の体内存在する水の浸透圧近付く。さらに塩類高濃度溶解していると、もはや、植物の体内が、根周囲へと吸い出される方向浸透圧作用し植物を吸うことができなくなるため、乾燥ストレス受けた時に似た状態に陥る。こうなると植物体に充分に行き渡らなくなるため、一般的な経路による光合成において電子供与体として必要な不足して光合成行いにくくなる小さくなる新しが出るのが遅れる、側芽が出なくなるなどの影響が出る。

※この「浸透圧ストレス」の解説は、「塩生植物」の解説の一部です。
「浸透圧ストレス」を含む「塩生植物」の記事については、「塩生植物」の概要を参照ください。

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