比較沈み込み学と日本海溝のプレート間地震
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 04:07 UTC 版)
「東北地方太平洋沖地震及び津波のメカニズム」の記事における「比較沈み込み学と日本海溝のプレート間地震」の解説
2004年に発生したスマトラ島沖地震以前に知られていたマグニチュード9クラスの超巨大地震は、Mw9.5とされるチリ地震を始め、形成後比較的短い期間で海洋プレートが沈み込む場所で発生していた。この事実に注目し、プレートの沈み込み方と発生する地震の形態との関係を探る比較沈み込み学が提唱されるようになった。 比較沈み込み学ではチリのようなマグニチュード9クラスの超巨大地震が起こるチリ型の沈み込み帯から、巨大地震が発生しない伊豆・小笠原海溝やマリアナ海溝のようなマリアナ型の沈み込み帯まで、各沈み込み帯には巨大地震の起きやすさに差が見られるとした。例えば千島海溝はチリ型に近く、日本海溝、特に南部はマリアナ型に比較的近いのではないかと考えられた。 どうしてチリの沈み込み帯では超巨大地震が発生し、伊豆・小笠原海溝やマリアナ海溝では発生しないのか、これは沈み込む海洋プレートの年齢に原因があるとの説が唱えられた。チリのような形成後比較的短期間の若い海洋プレートが沈み込む場合、年齢が高い海洋プレートよりも温度が高くかつ密度が低いため、プレートの浮力が大きくなる。更に沈み込む角度が年齢が高い海洋プレートよりも小さくなるため、陸のプレートと海洋プレート間の密着度が高い上に接する面も広くなる。その上若いプレートは速度が速いため、大きなひずみが溜まりやすく超巨大地震を引き起こすとされた。 東北地方沖の日本海溝に沈み込む太平洋プレートは、海洋プレートの中でも特に古い、形成後約1億3000万年のプレートである。そのためプレート境界の密着度は低く、マグニチュード9クラスの超巨大地震は発生し得ないと考えられた。しかし2004年に発生した、Mw9.1のスマトラ島沖地震は、古いプレートの沈み込み帯で速度も遅い場所で発生しており、比較沈み込み学による巨大地震の発生仮説の有効性に疑問が生まれた。そこでそもそも過去数回しか知られていないマグニチュード9クラスの超巨大地震と、各プレート沈み込み帯の特性を結びつけるのにはデータ不足ではないかとの意見が出されるようになった。しかしスマトラ島沖の超巨大地震後も、比較沈み込み学による巨大地震の発生仮説には抜本的な見直しは行なわれず、日本海溝でマグニチュード9クラスの超巨大地震が発生する可能性について想定されることなく、2011年3月11日を迎えることとなった。
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