歌う鐘 The Singing Bell
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「アシモフのミステリ世界」の記事における「歌う鐘 The Singing Bell」の解説
※初出『F&SF』1955年1月号。ウェンデル・アース博士もの。 (歌う鐘とは、月面上の軽石が圧力で固まったとき、中に真空の空洞ができたものである。これを叩くと空洞に入っている岩屑が、なんとも言えぬ哀愁に満ちた音色を出す。ヒビの入っていないものは極めて貴重で、地球上には1ダースもなく、どんなに高値でも欲しがる者には事欠かない。これを無許可で発掘することは厳罰に処せられる。) ベイトンがレストランにいるとき、盗品故買人であるコーンウエルが声をかけてきた。歌う鐘の隠し場所が書かれた地図を持っているという。月で鉱山師をしていた男が、どっさり集めて隠しておき、処分先を探すため地球に来ているあいだに事故にあって死んだらしい。ベイトンが宇宙船を操縦することができるので、話しかけてきたのだ。ベイトンは8月10日に出発すると言った。彼は何年も前から8月中は山荘で一人暮らしをしていたので、その期間なら地球を離れても怪しまれないからだ。 7月末になるとベイトンは山荘に行き、近くの馴染みの店でいつもの年と同じ量の食糧などを買った。いつもの年と同じように、山荘の周りに磁力網を張り巡らせ他人との接触を断った。月面に滞在しているあいだに不要となる食糧などは、分子まで分解する機械で処理した。8月9日に、彼は自家用飛行機で指定の場所に着いた。宇宙船はコーンウエルが準備していた。2日間かけて月に飛んだ二人は、地図をもとにして宝探しを始めた。地図が不十分だったので隠し場所を見つけるまでに2週間もかかったが、ベイトンの想定内の日数だった。歌う鐘は2ダースもあり、それらを船に積みこんでからベイトンは熱線銃を取り出した。コーンウエルの死体を月に残したまま、ベイトンは8月29日に地球に戻ってきた。歌う鐘を隠したあとで、宇宙船を自動操縦で打ち上げ、原子炉を自爆させて証拠を隠滅した。 自家用飛行機で山荘に戻ったベイトンのもとに、警察がやって来たのは半日後だった。警察もベイトンが怪しいとにらんでいたのだ。死体を月に残したのも、警察に挑戦しようとする彼の性格のあらわれだった。でも決定的な証拠がない。8月中にベイトンの姿を見た者は地球上に一人もなく、彼自身もアリバイを証明できないと言っている。困った警察はウェンデル・アース博士に相談した。博士自身も、ヒビ割れたものではあるが歌う鐘を所有しており、その希少さを理解していた。 アース博士とベイトンが会わせられたとき博士は、地球を離れて宇宙に行った者は身近にあるものを忘れてしまうと話した。そして自分が持っている歌う鐘を、おもむろにベイトンに放り投げた。鐘を受け取ったベイトンに対して、博士は投げ返してくれと言う。ベイトンが投げた歌う鐘は、博士の手前に落ちて壊れた。アース博士が言った。「しばらく地球を離れていた者は、重力の強さを忘れてしまう」。ベイトンは逮捕され、博士は事件を解決した報酬としてヒビのない歌う鐘を要求した。
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