本来的代示
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/06/14 04:41 UTC 版)
代示は、項辞(terminus)と項辞を使って話されているところのものとの意味論的な関係である。だから、例えば、「もう一杯飲みなさい」というときの「杯」という項辞は杯に入ったワインを代示している。 論理学的な意味での項辞の「代示物(suppositum)」とは項辞が指示する対象を指す(文法学において「suppositum」という言葉は異なる意味で用いられる)。ただし、代示は、代示より古くから使われていた「表示(significatio)」とは異なる意味論的関係である。表示は言語の特性によって調停された言辞と対象との関係である。ラテン語の「Poculum」は英語で「cup」が表示するものを表示している。表示は言辞に対して意味を課することだが、代示は意味を持つ項辞を、何かの代理を務めているとみなすことである。ペトルス・ヒスパヌスによれば、 代表作用とは項辞(terminus)をなんらかの事物に代わるものとして受け通ることである。ところで代表作用と表示作用(significatio)とは異なる。というのは、表示作用とは、音声を事物にあてはめることによって事物を表示するようにすることであるのに対して、代表作用とはすでに事物を表示している項辞それ自体を他の何かに代わるものとして受け取ることだからである。 — ペトルス・ヒスパヌス『論理学綱要』6巻8章 先ほどの「もう一杯飲みなさい」という例によって二者の違いが容易に理解できる。今言辞としての「杯」は対象としての杯を表示するが、項辞としての「杯」は盃の中に入っているワインを代示するのに使われる。 中世の論理学者は代示を様々な種類に区別したが、そのさまざまな種類をそれぞれ指す専門語、それらの関係、そしてそれらが意味することは複雑になり、論理学者の間で意味が大きく違った。ポール・スペードのウェブサイトにはこれに関する一連の有益な図式がある。最も重要な区別はおそらく質料代示(suppositio materalis)、単純代示(suppositio simplex)、個体代示(suppositio personalis)、非本来的代示の四つであろう。項辞が質料的に代示するというのは、表示するものよりむしろ言辞や銘文の代理を務めるのに項辞が使われている場合を指す。例えば「Cup is a monosyllabic word」という文では、「cup」という項辞を、ある種の陶器をではなくむしろ「cup」という言辞を(言い換えれば「cup」という言葉それ自体を)代示するのに使っている。今日の私たちが鍵かっこをつけて表すようなことを中世には質料的代示と呼んでいたわけである。オッカムによれば(『大論理学』I64,8)、「単純代示は、項辞が魂の傾向を代示するときに起こるが、指し示しているわけではない。」 単純代示という考えは、項辞が物体それ自体ではなくむしろ人の持つ概念の代理をするときに生じる。「Cups are an important type of pottery」という文では、「cups」という項辞はある特定の杯の代理を務めているわけではなく、人の心の中にある概念としての杯の代理を務めている(オッカムや多くの中世の論理学者によればこの通りであるが、ジャン・ビュリダンはこれとは違う考えを持つ)。対照的に個体代示は、項辞が、それが表示するもの自体を代示している場合を指す。「Pass me the cup」という文では、「cup」という項辞が英語で「cup」と呼ばれている物体の代理を務めているため、この場合は個体代示に該当する。項辞が非本来的代示になっているのは、既出の「Drink another cup」の例のように、項辞がある物体を代示しているが、それが表示するのとは別の物体を代示している場合である。
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