旧世界と新世界の文明の衝突
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 22:57 UTC 版)
「エマニュエル・トッド」の記事における「旧世界と新世界の文明の衝突」の解説
トッドは家族構造と人口統計に基づいて世界を認識している。このため、サミュエル・P・ハンティントンの『文明の衝突』を全くの妄想と見なしている。 ハンティントンは同書で世界を 8 文明に分け、カトリックおよびプロテスタントからなる西欧文明が、イスラム文明および中華文明と対峙しているとした。これに対しトッドは、イスラム圏で着実に識字率が上がり、出産率が下がっていることを示し、イスラム圏はむしろ西欧に近付きつつあることを指摘した。この近代化の過程では必ず伝統の崩壊による混乱が生じるのであって、イスラム圏は現在この移行期危機を経験しているに過ぎず、他の地域と本質的な違いは無いと述べた。また、世界の歴史は主に先進国で形作られるのであって、イスラム圏はそもそも最重要の地域ではないとした。 またハンティントンは、日本は単独で日本文明を構成し、現在は西欧文明に従っているが、いずれ中華文明に従うだろうと予想した。このような日本特殊論は以前から一般的であり、日本人を本質的に異質な民族と見なす主張は多い。しかしトッドは家族構造の研究を通じて、日本が非常にヨーロッパ的であり、特にドイツやスウェーデンに近いことを見出し、日本特殊論を否定した。トッドは、この発見は生涯最大の衝撃の一つであったと述べている。トッドは頻繁に日本に言及するが、それは日本がヨーロッパと同類であるという確信に基づいている。 日米欧は世界経済の三極であるが、ヨーロッパ経済の中心はドイツであり、社会的、長期的、工業的である点で日本経済とよく似ている。これに対しアメリカ経済は個人主義的、短期的、脱工業的であり、資本主義の形態が異なる。また日欧は長い農業の歴史を持ち、資源の希少性を十分に認識しているが、アメリカは技術を持った人々が未墾の土地に作った社会であり、資源の希少性に一度も直面していない。トッドはこれらから、特殊なのはアメリカであって、真の文明の衝突は旧世界と新世界の間で起きており、現在の問題は日欧の連係の弱さにあるとした。この点で、欧米を一つの文明にまとめたハンティントンを根本的に否定した。
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