恋のピンチ・ヒッター
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/27 16:58 UTC 版)
「恋のピンチ・ヒッター」 | ||||||||
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ザ・フー の シングル | ||||||||
A面 | 恋のピンチ・ヒッター | |||||||
B面 | ||||||||
リリース | ||||||||
規格 | 7インチ・シングル | |||||||
録音 | 1966年2月 ロンドン オリンピック・スタジオ[2] | |||||||
ジャンル | ロック | |||||||
時間 | ||||||||
レーベル |
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作詞・作曲 | ピート・タウンゼント | |||||||
プロデュース | ピート・タウンゼント | |||||||
チャート最高順位 | ||||||||
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ザ・フー シングル 年表 | ||||||||
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「恋のピンチ・ヒッター」(Substitute)は、イングランドのロックバンド、ザ・フーの楽曲。1966年に4枚目のシングルとしてリリースされた[注釈 1]。作詞、作曲とプロデュースはピート・タウンゼント。オリジナルアルバムには未収録。
解説
前作「マイ・ジェネレーション」までのプロデューサーだったシェル・タルミーと決別した後の最初の作品で、タウンゼントが自らプロデュースした。全英2位を記録した前作に続き、全英5位につけるヒットとなった。この曲はタウンゼントのデモ・テープ[注釈 2]から作られた最初の作品であった[2]。アコースティックギターが使用され、前作に比べキャッチーな曲調になっている。人種問題に敏感なアメリカでは「俺は白人に見えるが俺の親父は黒人だ」という歌詞が「俺は前に進もうとしてるのに足が後に向かう」に変更されている[2]。この曲のリアル・ステレオ・バージョンは存在しない[4]。
発表以来、ザ・フーのコンサートの常連曲となっており、『ライヴ・アット・リーズ』(1970年)や『ワイト島ライヴ1970』(1996年)、『フーズ・ラスト』(1984年)等、数々の公式ライブアルバムに収録されている。
2022年にローリング・ストーン誌の「ザ・フーの史上最高の50曲」で11位[5]、2023年にペースト誌の「ザ・フーの史上最高の20曲」で13位[6]、2020年にギターワールド誌の「偉大なる12弦ギターソング」で18位[7]に選ばれている。
シングル発表をめぐるトラブル
本作をシングル発表する前の1966年1月、ザ・フーはタルミーのプロデュースで「サークルズ」と「インスタント・パーティ」[注釈 3]をレコーディングする[8]。それから間もなく、彼等は印税の取り分をめぐる対立からタルミーとの契約を破棄し[8]、ブランズウィック・レコードからエージェントのロバート・スティグウッドが設立したリアクション・レコードへ移籍した。
彼等は「サークルズ」を自分達のプロデュースで録音し直し、それをB面に収録した本作のシングルを3月4日にリアクション・レコードから発表した[9]。だがタルミーは「サークルズ」が著作権侵害に当たるとして[注釈 4]裁判所にシングルの発売の即時停止を訴えた[10]。彼等はこの動きを見越してB面収録曲の曲名が「インスタント・パーティ」となった[注釈 5]シングル[11]も同日に発売していたが無駄に終わり[10]、両方のシングルとも発売5日後の3月8日に発禁処分を受けてしまった。
35,000枚もの予約を受けていた事もあって彼等は「サークルズ」を収録していないシングルの発表を急ぎ、この処分に抵抗する意味もこめて、"The Who Orchestra"名義の「ワルツ・フォー・ザ・ピッグ」という、タルミーを揶揄した曲名を持つインストゥルメンタルをB面に収録したシングルを3月14日に発売した[12]。この曲はスティグウッドがマネージメントしていたグレアム・ボンド・オーガニゼーション(GBO)が演奏したもの[13]で、彼等は一切関わっていない[注釈 6][注釈 7][14][15]。
このため本作のシングルはイギリスでは3つのバージョンが存在することになる[9][11][12]。
このように「恋のピンチ・ヒッター」は様々な問題に苛まれたが、UKチャートの5位に入るヒットとなった。この人気に乗じてアメリカでも5月7日にB面に"The Who Orchestra"「ワルツ・フォー・ザ・ピッグ」を収録したシングルが発表された[注釈 8][16]が、チャートインしなかった[14]。
なおタルミーは、自分が本作もプロデュースしたと主張している[2]。彼はさらに本作のシングルの売上に対抗するために、自分がプロデュースしたアルバム『マイ・ジェネレーション』からバンド側に無許可でシングルをカットして、ブランズウィック・レコードから発表し続けた。その第一弾が皮肉にも「リーガル・マター」(法的問題)であり、彼はB面に自分がプロデュースした「サークルズ」を「インスタント・パーティ」と改題して収録して3月7日に発表した[14][17]。続いて「ザ・キッズ・アー・オールライト」[18]、「ラ・ラ・ラ・ライズ」[19]と執拗にシングル・カットを繰り返したが、いずれもチャートの上位には届かなかった[20]。
脚注
注釈
- ^ ザ・ハイ・ナンバーズ名義のシングル『ズート・スーツ/アイム・ザ・フェイス』(1964年)を含めると5枚目に当たる。
- ^ タウンゼントの編集アルバム『アナザー・スクープ』(1987年)に収録された。
- ^ 「ディオン・アンド・ザ・ベルモンツ風のパロディ曲」で、未発表のままお蔵入りとなり、2002年に発表された『マイ・ジェネレーション』のデラックス・エディションで「インスタント・パーティ・ミクスチャー」と改題されてようやく日の目を見た。
- ^ 彼は「自分がプロデュースした作品の著作権は自分にある」と主張していた。
- ^ 音源は同じ「サークルズ」である。上記の「ディオン・アンド・ザ・ベルモンツ風のパロディ曲」ではない。
- ^ 元々はGBOのドラマーで後にクリームのメンバーになるジンジャー・ベイカーが書いた'Ode to a Toad'という曲で、GBOのアルバム制作の過程で録音されたものの、未発表のままお蔵入りになっていた。スティグウッドはシングルを一刻も早く発売する為に、ベイカーに金を支払い、作者の名前をHarry Butcherに変えて、GBOの録音をそのまま用いた。
- ^ このため、「ワルツ・フォー・ザ・ピッグ」を収録したザ・フーの公式作品は非常に少なく、日本独自の編集版『エキサイティング・ザ・フ―』(1967年)と、ザ・フーの全シングルを網羅したCD5枚組ボックス『Maximum As&Bs』(2017年)にのみ収録されている。
- ^ 編集されてイギリス版よりも一分近く短くなった。
出典
- ^ a b c d 『エニウェイ・エニハウ・エニウェア』アンディ・ニール、マット・ケント著、佐藤幸恵、白井裕美子訳、シンコーミュージック刊、2008年、324-325頁。
- ^ a b c d 『エニウェイ・エニハウ・エニウェア』アンディ・ニール、マット・ケント著、佐藤幸恵、白井裕美子訳、シンコーミュージック刊、2008年、107頁。
- ^ WHO | Artist | Official Charts
- ^ 『ア・クイック・ワン』コレクターズ・エディション(2012年)付属の犬伏功による解説より。
- ^ “The Who's 50 Greatest Songs” (英語). www.rollingstone.com. 2024年5月29日閲覧。
- ^ “The Who's 20 Greatest Songs of All Time” (英語). www.pastemagazine.com/. 2024年5月29日閲覧。
- ^ “The greatest 12-string guitar songs of all time” (英語). www.guitarworld.com (2020年5月20日). 2021年12月26日閲覧。
- ^ a b 『エニウェイ・エニハウ・エニウェア』アンディ・ニール、マット・ケント著、佐藤幸恵、白井裕美子訳、シンコーミュージック刊、2008年、106頁。
- ^ a b “www.thewho.com”. 2025年1月27日閲覧。
- ^ a b 『エニウェイ・エニハウ・エニウェア』アンディ・ニール、マット・ケント著、佐藤幸恵、白井裕美子訳、シンコーミュージック刊、2008年、108頁。
- ^ a b “www.thewho.com”. 2025年1月27日閲覧。
- ^ a b “www.thewho.com”. 2025年1月27日閲覧。
- ^ Baker, Ginger; Baker, Ginette (2010). Ginger Baker: Hellraiser. London: Bonnier Books. pp. 95-96. ISBN 978-1-84454-966-5
- ^ a b c 『エニウェイ・エニハウ・エニウェア』アンディ・ニール、マット・ケント著、佐藤幸恵、白井裕美子訳、シンコーミュージック刊、2008年、109頁。
- ^ 5CDボックス『Maximum As&Bs』(2017年)付属のマーク・ブレイクの解説より。
- ^ “Discogs”. 2025年2月9日閲覧。
- ^ “www.thewho.com”. 2025年1月28日閲覧。
- ^ “www.thewho.com”. 2025年1月28日閲覧。
- ^ “www.thewho.com”. 2025年1月28日閲覧。
- ^ レコード・コレクターズ増刊『ザ・フー アルティミット・ガイド』(2004年)125頁
外部リンク
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