イッツ・ハードとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > イッツ・ハードの意味・解説 

イッツ・ハード

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/12 06:42 UTC 版)

『イッツ・ハード』
ザ・フースタジオ・アルバム
リリース
録音 1982年6月
ジャンル ハードロック
時間
レーベル ポリドール・レコード
ワーナー・ブラザース
プロデュース グリン・ジョンズ
専門評論家によるレビュー
オールミュージック
チャート最高順位
11位、 8位
ゴールドディスク
ゴールド(アメリカレコード協会
ゴールド(Music Canada)
ザ・フー アルバム 年表
Hooligans
(1981年)
イッツ・ハード
(1982年)
Who's Greatest Hits
(1983年)
テンプレートを表示

イッツ・ハード』(It's Hard)は、イギリスロックバンドザ・フーオリジナルアルバム1982年発表。イギリスで11位[1]アメリカで8位[2]を記録。

解説

解散前最後の、そしてジョン・エントウィッスルおよびケニー・ジョーンズが参加した最後のオリジナルアルバムである。前作『フェイス・ダンシズ』で復活を印象付けて見せたザ・フーであったが、キース・ムーン死去後、ソロ活動が活発になり始めたピート・タウンゼントに対し、ジョーンズが「いい楽曲をソロの方に回している」と批判し、さらにそのジョーンズのドラムプレイにロジャー・ダルトリーが文句をつけるなど、バンド内の亀裂が徐々に明るみに出始めた[3]。メンバーの不仲に加え、妻との関係も悪化していたタウンゼントは、1度は断ったドラッグに再び手を出すようになり、1981年9月には一時心肺停止になるほどの深刻な状況にまで陥った[4]。リハビリを経て回復はしたものの、バンドの終焉はもはや誰の目から見ても明らかだった。4作目のソロアルバム『チャイニーズ・アイズ』の制作を終えたタウンゼントは、アメリカでの配給先であるワーナー・ブラザースともう1枚ザ・フーのアルバムを作るという契約を消化するために、新作アルバムの制作に着手する[5]

プロデューサーに旧知のグリン・ジョンズを迎え、1982年6月より、サリー州にあるジョンズ所有のターン・アップ・ダウン・スタジオでレコーディングを開始する。ゲストには前々作『フー・アー・ユー』(1978年)にも参加したアンディ・フェアウェザー・ロウに加え、アメリカのピアニスト、ティム・ゴーマンも加わった。ゴーマンの起用はキーボードに加えシンセサイザーを扱えたこともあった。彼は直後の「フェアウェル・ツアー」にも参加している[5]。なお、『チャイニーズ・アイズ』発表に合わせたインタビューで、タウンゼントはザ・フーの解散と、次にリリースされるアルバムが最後になることを明言しており、本作制作時にはバンドの解散は決定事項だったと思われる[6]

本作発表時のインタビューで、タウンゼントは「俺がバンドのために書いた曲は、すごく上手くいったと思うよ」「新作はザ・フーのこれまでの作品の中でも一番攻撃的だ」と本作に対する自信をのぞかせたが、ダルトリーは本作を嫌っており、1994年のインタビューで、本作完成時タウンゼントに「こんなゴミは出すべきじゃない」と言い放ったことを明かしている[7]

本作からは「アセーナ」[8][9][注釈 1]、「エミネンス・フロント」、「イッツ・ハード」の3枚がシングル・カットされ、このうち「アセーナ」はアメリカで28位まで上昇し、バンド最後(2022年時点)のアメリカでのトップ40ヒットとなった[2]。パッケージはシングルスリーヴ。表ジャケットは、ピンボールの代わりにコンピューターゲームに夢中になる少年をバックに、それぞれ異なった方向に視線を向けて佇むメンバーを写したものである。裏ジャケットのメンバーの絵は、当時最新鋭のコンピューターグラフィックを用いて描かれた。アートワークを担当したのは、ダルトリーのいとこのグレアム・ヒューズ[10]。前作に引き続き、内袋に歌詞とクレジットが記載されている。

評価

『イッツ・ハード』は1982年9月にリリースされたが、イギリスでは『セル・アウト』(1967年)以来15年ぶりにトップ10入りを逃した[1]。アメリカでは8位につけたものの、『トミー』(1969年)以来獲得し続けたプラチナディスクに届かず、ゴールド認定にとどまっている。 批評家筋からの評価もおおむね否定的なものが多く、ローリングストーン誌は「アルバム全体にグループの再燃した絆と再発見された価値観が伝わってくるような活気に満ち溢れている」と好意的に評したが[11]オールミュージックでは「印象に残るメロディーとエネルギーがほとんどない」[12]ロバート・クリストガウからは「古典的なひどいイギリスのアートロックに最も近いもの」などと手厳しく批評された[13]。本作のリリースから間もなく、バンドは「フェアウェル・ツアー」を開催、12月17日のトロント公演を最後に、ザ・フーはその歴史に一旦終止符を打った[5]。バンドは3年後のライヴ・エイドで再結成され、1989年から本格的にツアー活動を再開するが、新作アルバムが制作されるのは、本作から24年後のことになる。

リイシュー

1997年リミックス/リマスターCDがリリースされる。ボーナストラックには、解散前最後のライヴとなった1982年12月16日のトロント公演から4曲が収録された。2011年、オリジナルのマスターテープから起こされたリマスター版が日本限定でリリースされる(紙ジャケット仕様)。リマスタリングはいずれもジョン・アストリーが担当。

収録曲

※特記なき限り、作詞作曲はピート・タウンゼント。

A面
# タイトル 作詞 作曲・編曲 時間
1. 「アセーナ - Athena」    
2. 「イッツ・ユア・ターン - It's Your Turn」(ジョン・エントウィッスル)    
3. 「クックス・カウンティー - Cooks County」    
4. 「イッツ・ハード - It's Hard」    
5. 「デンジャラス - Dangerous」(エントウィッスル)    
6. 「エミネンス・フロント - Eminence Front」    
B面
# タイトル 作詞 作曲・編曲 時間
7. 「戦争は知らない - I've Known No War」    
8. 「ワン・ライフズ・イナフ - One Life's Enough」    
9. 「ワン・アット・ア・タイム - One at a Time」(エントウィッスル)    
10. 「ホワイ・ディド・アイ・フォール・フォー・ザット - Why Did I Fall for That」    
11. 「ア・マン・イズ・ア・マン - A Man Is a Man」    
12. 「クライ・イフ・ユー・ウォント - Cry If You Want」    
1997年リイシューCDボーナストラック
# タイトル 作詞 作曲・編曲 時間
13. 「イッツ・ハード(ライヴ) - It's Hard (Live)」    
14. 「エミネンス・フロント(ライヴ) - Eminence Front (Live)」    
15. 「デンジャラス(ライヴ) - Dangerous (Live)」    
16. 「クライ・イフ・ユー・ウォント(ライヴ) - Cry If You Want (Live)」    

パーソナル

※リイシューCD記載のクレジットに準拠

ザ・フー

参加ミュージシャン

スタッフ

  • グリン・ジョンズ - プロデューサー、レコーディング・エンジニア
  • ジョン・アストリー、アンディ・マクファーソン、ボブ・ラドウィック - リイシューCDプロデューサー、リミックス、リマスタリング
  • ビル・カービシュリー、ロバート・デューセンバーグ、クリス・チャールズワース - リイシューCDエグゼクティヴ・プロデューサー
  • グレアム・ヒューズ - 写真撮影、カバー・デザイン
  • リチャード・エヴァンズ - リイシューCDアート・ディレクター

ヒットチャート

週間チャート

Chart Peak
Position
オーストラリア[14] 55
オランダ[15] 43
ノルウェー[16] 28
スウェーデン[17] 47
アメリカBillboard 200[2] 8
全英アルバムチャート[1] 11

ゴールドディスク

認定
カナダ (Music Canada)[18] ゴールド
アメリカ合衆国(RIAA)[19] ゴールド

脚注

出典

  1. ^ a b c The Who | full Official Chart History | Official Charts Company
  2. ^ a b c The Who Chart History
  3. ^ 『フー・アイ・アム』ピート・タウンゼント著、森田義信訳、河出書房新社刊、2013年ISBN 978-4-309-27425-6、297頁
  4. ^ レコード・コレクターズ増刊 『ザ・フー アルティミット・ガイド』ミュージック・マガジン刊、2004年、140頁
  5. ^ a b c アルバム『イッツ・ハード』2011年版リマスターCD付属の犬伏功による解説より。
  6. ^ アルバム『イッツ・ハード』1997年版リミックス/リマスターCD付属の保科好宏による解説より。
  7. ^ Archived copy”. 20 February 2015時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年1月16日閲覧。
  8. ^ Doscogs”. 2023年9月22日閲覧。
  9. ^ Townshend (2013), pp. 325–328.
  10. ^ レコード・コレクターズ増刊 『ザ・フー アルティミット・ガイド』ミュージック・マガジン刊、2004年、11頁
  11. ^ Parke Puterbaugh (30 September 1982). "It's Hard”. ローリング・ストーン. 2022年3月3日閲覧。
  12. ^ It's Hard - The Who”. オールミュージック. 2022年3月3日閲覧。
  13. ^ Robert Christgau: Consumer Guide Jan. 25, 1983”. 2022年3月3日閲覧。
  14. ^ Kent, David. Australian Chart Books 1940–2005 
  15. ^ Dutch Chart”. dutchcharts.nl. 03 March 2022閲覧。
  16. ^ Norwegian Chart”. norwegiancharts.com. 03 March 2022閲覧。
  17. ^ Swedish Chart”. swedishcharts.com. 03 March 2022閲覧。
  18. ^ Gold/Platinum - Music Canada
  19. ^ Gold & Platinum - RIAA

注釈

  1. ^ タウンゼントがアメリカの女優テレサ・ラッセルに魅せられた書いた曲。

参考文献

外部リンク




英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  イッツ・ハードのページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「イッツ・ハード」の関連用語

イッツ・ハードのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



イッツ・ハードのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのイッツ・ハード (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS