思考と認識のコントロール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/16 06:15 UTC 版)
「ニュースピーク」の記事における「思考と認識のコントロール」の解説
2050年までには - たぶんもっと早めに - 旧語法に関する実際的な知識はことごとく消滅してしまっているだろうね。過去の全文学も抹殺されているだろう。チョーサー、シェイクスピア、ミルトン、バイロン - 彼らだって新語法の版でしか存在すまい。全く異質のものに変わっているばかりではない、実際にはもとの姿とは正反対のものにさえ変わっているのだ。党の文学だって変わるよ。スローガンも変わるね。自由の概念が廃棄されたら、「自由は屈従である」というスローガンの存在価値はあるだろうか。思想の全潮流は一変してしまうだろう。現実にいまわれわれの理解しているような思想は存在しなくなる。正統とは何も考えないこと - 考える必要がなくなるということだ。正統とは意識を持たないということになるわけさ — 新語法の専門家サイムの、主人公に対する言葉(オーウェル『1984年』) ニュースピークの基本的な原理は、表す言葉が存在しないもののことは考えることができない、ということにある。たとえば、自由の必要性を訴えたいとき、蜂起を組織するとき、これを言い表す「自由」や「蜂起」といった単語がなければ自由を訴えたり組織をつくったりすることは可能かどうかである。「われわれの言語の限界は、われわれの世界の限界でもある」ともいえる。 ニュースピークの最終版が完成し、普及した暁にはもはや党や政府に対し反抗を行うことはできなくなるであろうと考えられている。また過去との完全な断絶も実現する。過去の文献がたまたま生き残っても、思想的な内容の含まれない文章か正統的思想で書かれた文章しか読めないニュースピーク話者には、内容を理解し翻訳することすら不可能になると考えられる。オーウェルはアメリカ独立宣言の有名な一節に対し、これを原文の意味を失わずニュースピークに変えるのは困難であり、せいぜい全文を「思想犯罪」の一語に置き換えるか、絶対権力の賞賛という正反対の意味へ全訳するしかないだろうと述べている。 しかし、人口の85%を占める「プロレ」(プロレタリアートの略、抑圧されている一般大衆)にまでニュースピークが普及するかは疑問があるものの、プロレは政治に関わることのない下層階級として無視されている。また、過去の文学や文献を全面的にニュースピークに置き換えることは多大な時間がかかるため、旧語法の完全廃止は2050年という遠い未来に設定されている。
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