心地よい破滅
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/05 16:24 UTC 版)
第二次世界大戦後のイギリスのSF小説家の間では、破滅後を描いたフィクションが大流行した。これらの多くに共通する特徴は「心地よい破滅」(cosy catastrophe)と呼ばれる。 「心地よい破滅」という語は、もともとイギリスのSF小説家・評論家のブライアン・オールディスが、SF史を概説した書籍『十億年の宴』の中で、当時の破滅ものSFの典型を揶揄して用いた言葉である。彼の批判した典型的な破滅ものの筋書きとは、我々の文明が崩壊し、一握りの生存者を除いてばたばたと人が死ぬ絶望的な状況にもかかわらず、主人公ら生存者たちは遠く離れた安全地帯にいて災厄を傍観していたり、無人の都市で残されたぜいたく品をあさるなどある面で楽しい冒険をしたりし、最終的には自分たちの文明観をもとにささやかなコミュニティを再建して、破滅の起こった原因や文明が滅んだ原因に対して達観した立場から考察を加える、というものだった。イギリスの小説家ジョン・ウィンダムの著作『トリフィドの日』は、流星雨のあとで世界の人口のほとんどが目が見えなくなり、主人公をはじめ流星雨を見なかった人たちが社会の崩壊や疫病、食人植物と戦いながら地方へ逃れる話であるが、オールディスがこれらの破滅ものを批判する際に代表として挙げている。 「心地よい破滅」は戦後イギリスの終末ものSFの典型として語られるが、その初期の形態は、1890年にアメリカの政治家・小説家イグネイシャス・ロヨラ・ドネリー(Ignatius L. Donnelly)が「Edmund Boisgilbert」の変名で発行した小説『Caesar's Column』にすでに見られる。この小説では20世紀末を舞台にし、世界を覆った寡占に対して労働者が起こした暴動により文明が崩壊する様を描くが、主人公はウガンダの高地に建設されたヨーロッパ人の入植地にいて難を逃れている。また1900年頃に書かれ流行した災害小説の一種で、より限定した範囲での破滅を描いたもの(たとえば火山噴火がロンドンとテムズ川流域を破壊する『テムズ・ヴァレイの大災害』〈グラント・アレン〉、大火災の煙と霧が合わさって人間を窒息させる黒いスモッグを起こす『The Four Day's Night』〈フレッド・M・ホワイト〉など)も「心地よい破滅」と呼ばれる。その「心地よさ」は破滅の範囲が非常に限られていること、主人公はどこか安全な場所で難を逃れて破滅を見ていることから来ている。
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