安心していられる場所の喪失
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/21 00:07 UTC 版)
「解離性同一性障害」の記事における「安心していられる場所の喪失」の解説
心的外傷はPTSDなど様々な現れ方をするが、柴山雅俊は解離性障害が重症化しやすい特徴を「安心していられる場所の喪失」ととらえている。柴山は自らが関わった解離性障害者42人を、自傷傾向や自殺企画が反復して見られる患者群23名とそうでない19名に分けて、患者の生育環境との相関を見た結果、DIDを含む解離性障害の症状を重くする要因は、日本の場合、家庭内の心的外傷では両親の不仲であり、家庭外の心的外傷では学校でのいじめであるとする。「安心していられる場所の喪失」とは、本来そこにしかいられない場所で「ひとりで抱えることができないような体験を、ひとりで抱え込まざるをえない状況」に追い込まれ、逃げることもできずに不安で不快な気持ちを反復して体験させられるという状況である。 自分を肉体的、あるいは精神的に傷つけた相手が、本来なら自分を癒すはずの相手であるために心の傷を他者との関係で癒すことができない。こうして居場所の喪失、逃避不能、愛着の裏切り、孤独、現実への絶望から、空想への没入と逃避、そして解離へと至るのではないかとする。ジェフリー・スミス (Smith. J.) は2005年の「DID(解離性同一性障害)治療の理解」の中でこう述べている。 「解離性記憶喪失を感情的トラウマのための一種の回路遮断機と見なすならば、記憶喪失の引き金となりうるほどの深刻なトラウマは何か、という疑問が生じる。第一の、そして最重要の要素は、私見では孤独感、すなわち安心してその事象を分かちあえる人間の欠如である。」 スミスが扱ったケースはいかにもアメリカ的な児童虐待であったが、それでも柴山と同じ結論に至っている。「安心していられる場所の喪失」も心の傷ではあるが、PTSDでイメージしやすい戦争体験、災害、犯罪被害、事故、性暴力などと比べると性格が異なる。先に触れたネグレクトもこの問題に関係する。ここで、クラフトの四因子論でいえば4番目の「十分な慰め」の欠如が、むしろ重要な要因として浮かび上がってくる。
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