塑性固体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/04 23:30 UTC 版)
グリースは非ニュートン流体の塑性流体であり、加わられる剪断応力によってその粘度を変化させる。これに対して液体の潤滑油はニュートン流体であり、一定の温度では剪断応力に関わらず粘度が一定である。潤滑油のようなニュートン流体の(絶対)粘度はニュートンの粘性法則の比例定数(粘性係数)であり、計算者は剪断速度と掛けることによって剪断応力を導き出すことができる。このようにニュートン流体とグリースで粘度の意味合いと用途が大きく異なる。絶対粘度と区別するため、グリースのような非ニュートン流体の粘度は見かけ粘度(apparent viscosity)という。 剪断応力がない、または非常に小さいとき、グリースは固体である。流動性はない。このとき、グリース内部では増稠剤の繊維状の高分子同士は化学的な相互作用により結合している。この結合の発生を架橋(cross-linking)という。この相互作用により繊維は網目状の立体構造(網目構造、network structure)を形成している。グリース内部で基油は網目構造の間隙を満たしている。この網目構造が、微小な剪断応力範囲でグリースを固体にしている。網目構造が形成されてグリースが固体となっている状態をゲル状態といい、網目構造による高い粘性を構造粘性(structural viscosity)という。 剪断応力がある量以上となるとグリースは液体(ゾル状態)となる。この状態変化の境界、ゲル状態がゾル状態へ変化するための最低の剪断応力の大きさを降伏値(yield value)という。降伏値を上回る剪断応力が加えられると、グリースの繊維間の相互作用は切断され、網目構造は崩壊する。このとき構造粘性は消失している。そしてグリースは液体のゾル状態になる。 ゾル状態では剪断応力が大きくなるほど見かけ粘度は小さくなる。この粘度低下をずり流動化(ずり減粘、shear-thinning)という。ずり流動化の原因はゾル状態では繊維は徐々に分離し方位性配列するためである。方位性配列とは、分離が進行して繊維が剪断応力の方向に並び、粘度への寄与を小さくすることである。 一方、ゾル状態で剪断応力が小さくなると見かけ粘度は増加する。この粘度増加をずり粘稠化(shear thickening)という。ずり粘稠化は繊維の方向が無秩序に戻ることに伴う。剪断応力が降伏値を下回った時、再び繊維間は架橋し、立体構造は復活する。そしてグリースはゲル状態に戻る。
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