化学浸透
英訳・(英)同義/類義語:chemiosmosis, chemiosmotic theory
細胞内で起こるエネルギー変換を説明する機構で、電子伝達系で生じたエネルギーを利用してプロトンを膜輸送して(膜を浸透させて)膜を介した濃度勾配を作り、その濃度差をATP合成を行う。
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化学浸透説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/14 14:53 UTC 版)
ピーター・ミッチェルは1961年に化学浸透仮説を提唱した。その理論は、呼吸を行う細胞でのATP合成のエネルギーの大部分は、グルコースなどの高エネルギー分子の分解によって形成されたNADHやFADH2のエネルギーを利用した、ミトコンドリア内膜を挟んだ電気化学的勾配に由来することを示唆するものであった。 グルコースのような分子は代謝によって、高エネルギー中間体としてアセチルCoAを産生する。ミトコンドリアマトリックスにおけるアセチルCoAの酸化は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)やフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)といったキャリア分子の還元と共役している。キャリア分子はミトコンドリア内膜の電子伝達系に電子を伝達し、その後電子伝達系の他のタンパク質へと伝達されてゆく。エネルギーはマトリックスからプロトンを汲み出すために用いられ、エネルギーは膜を挟んだ電気化学的勾配の形で貯蔵される。プロトンはATP合成酵素を通って内膜を越えてマトリックスへ戻る。ATP合成酵素を経由して戻るプロトンの流れは、ADPと無機リン酸を結合させてATPを形成するのに十分なエネルギーを提供する。電子伝達系の最後のポンプで電子とプロトンは酸素分子に取り込まれ、水分子が形成される。 この理論は当時としては急進的な提案であり、良く受け入れられなかった。当時広く行き渡っていたのは、電子伝達のエネルギーは安定な高ポテンシャル中間体として貯蔵される、というより保守的な考えであった。この古いパラダイムの問題点は、そのような高エネルギー中間体が見つかっていないこと、そして電子伝達系によるプロトンの汲み上げの証拠が無視できないほど強くなっていたことであった。次第に化学浸透仮説を支持する証拠が積み上げられていき、1978年にミッチェルはノーベル化学賞を受賞した。 化学浸透との共役は、ミトコンドリア、葉緑体、そして多くの細菌と古細菌におけるATP産生で重要である。
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