再会拒否
『今昔物語集』巻15-15 比叡山を出奔した長増が、数十年後、伊予国で思いがけず弟子僧と再会する。乞食姿の長増は出奔の理由などを述べた後、とめる弟子僧を振り切って走り去り、再び行方知れずになる〔*『古事談』巻3-36・『発心集』巻1-3の類話では、それぞれ平燈大徳・平等供奉のこととする〕。
『撰集抄』巻3-2 「我(西行)」は、住吉の社に集まる乞食や不具者たちの中に、唖(おし)の物乞いを見かけ、それが天台山(=比叡山)の静円供奉(ぐぶ)だったので驚いた。静円供奉は、唖の真似までして世を捨て、世から捨てられようとしていたのだ。彼は「人目もあるゆえ、夜あらためて会おう」と「我」に約束したが、そのまま姿をくらましてしまった。
『撰集抄』巻3-6 法印隆明が播磨の明石に住んでいた時のこと。仔犬を抱いた裸の乞食僧がやって来たので、見ると、驚いたことに、それは清水寺の宝日聖人だった。隆明が「何というお姿でしょう」と嘆くと、宝日はほほえみ、「まことに物に狂ひ侍るなり」と言い捨てて、木暗き茂みの中に走り込んで姿を消してしまった。
『発心集』巻1-1 川の渡し守りとなった玄賓が、越の国へ赴く弟子に姿を見られる。弟子はいったんそのまま通り過ぎ、帰洛時にあらためて対面のため渡し場を訪れると、すでに玄賓はいなかった〔*『古事談』巻3-7に同話〕。
『西鶴置土産』巻2-2「人には棒振虫同前に思はれ」 ぼうふら売りに落ちぶれたもと大尽が、かつての遊び仲間たちと偶然再会する。彼と女房子供の極貧の暮らしぶりを目にした仲間たちは、数日後、家に金を届けるが、その時すでに一家は何処へか立ち退き、空き家になっていた。
★3.世を捨てた夫が、自分の所在を妻に知らせず、対面もしない。
『大和物語』第168段 深草の帝の御大葬の夜、良少将(=良岑宗貞)は出奔し法師となる。妻子が長谷寺に参籠し、「良少将の消息を知らせ給え」と祈る。その夜、たまたま良少将も長谷寺で勤行していたが、妻子と対面したい心をおさえ、身を隠したまま一夜を泣き明かす。
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