保護に向けた現状調査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 03:43 UTC 版)
「十六島ホタルエビ発生地」の記事における「保護に向けた現状調査」の解説
国の天然記念物として指定されていた十六島ホタルエビ発生地は、通年でホタルエビが見られたわけではなく、ある一定の条件が揃ったときに出現することが分かっており、晴天の長く続いた夏の蒸し暑い夜に多く、水温25-28℃、水素イオン濃度 pH7.4-7.6の弱アルカリ性という、発光バクテリアの培養に適した条件下であることにくわえ、指定地の中でも利根川本流に近い水門に隣接した水路の、水流がほとんど停滞した場所に多くみられた。 ホタルエビ発生地の水路が利根川に近い理由は、利根川本流から運ばれる微量の塩分が発光バクテリアに必要なためであるが、そもそも発光バクテリアは海水の塩分濃度とほぼ同じ3パーセントを必要とする海の生物である。それにも関わらず十六島のある佐原は利根川河口の銚子市から約40キロメートルも上流に位置しており、本来であれば河水中に塩分は含まれないが、利根川河口から佐原付近までは川床勾配がほとんどない平坦な地形で、しばしば海水が佐原付近まで遡上し塩害をもたらしている。十六島のホタルエビ発生地付近で採取された発光バクテリアの塩分濃度は0.5パーセントであることが調査で判明していたが、これは塩分濃度の低い環境に長期間生存した発光バクテリアが低濃度に順応したものと推察された。 しかし、1960年代に入ると周辺水田の圃場整備による小規模河川の埋め立て、水質汚濁等など、周辺環境の急激な変化により淡水エビ自体が激減し、ホタルエビの姿も急速に減少し始めた。 事態を憂慮した千葉県では1970年(昭和45年度)に、千葉県教育委員会が調査主体となって十六島ホタルエビ発生地の保護対策に乗り出した。千葉県教育委員会は生物発光の専門家として神奈川県横須賀市の横須賀市博物館(現、横須賀市自然・人文博物館)館長(当時)の、羽根田弥太に調査を依頼し、国の天然記念物に指定されている佐原市佐原ニ字向津、砂場、荒川地内の水路一帯の現状調査が羽根田により行われた。羽根田は東京慈恵会医科大学に勤務していた1936年(昭和11年)から1942年(昭和17年)の間、毎年佐原と諏訪湖でホタルエビを調査しており、当時の佐原ではホタルエビが小川で発光する様子が舟の上からでも複数見られ、採集も容易であったという。 調査の結果、天然記念物指定地内では汚水や埋め立てなどにより、ヌカエビ自体の生息が困難な状況であり、このエリアでのホタルエビの再出現は絶望的であることが判明した。 しかし、指定地外の利根川沿岸各所にはホタルエビ出現の可能性のある、微量の塩分を含む水路が多数存在するため、千葉県教育委員会では広域的範囲を対象地とする調査を改めて羽根田に依頼し、ホタルエビの出現する可能性のある翌年の夏季を待つこととなった。
※この「保護に向けた現状調査」の解説は、「十六島ホタルエビ発生地」の解説の一部です。
「保護に向けた現状調査」を含む「十六島ホタルエビ発生地」の記事については、「十六島ホタルエビ発生地」の概要を参照ください。
- 保護に向けた現状調査のページへのリンク