作品の構成と注目点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/04 13:44 UTC 版)
作品の主題は、当時の一般的なものである。しかし、カラヴァッジョのキューピッドの描き方は、きわめて強いリアリズムという点で独特である。例えば、同時代のバッティステッロ(ナポリ王国、1578年-1630年)の 眠るキューピッド のキューピッドと比較すると、バッティステッロのそれは理想化され、ほとんど個性がない、美しい少年であるが、カラヴァッジョのキューピッドはきわめて個性的で、魅惑的ではあるがちっとも美しくなく、歯も笑みもゆがんでいる。この絵を見る者は、もし道でこのキューピッドに出会ったらすぐに彼と見分けるだろう。カラヴァッジョの与える衝撃は、劇的な明暗法(キアロスクロ)と写真のような写実性のみならず、寓意と現実の混交である。だからこそ、この絵は、あたかも少年が、舞台用の羽根を背中につけ、矢を手に握って絵を描いてもらい、ごきげんな時間を過ごしているさまを思い起こさせる。このことから、カラヴァッジョが実在のモデルを前にしてこの絵画の製作にあたったことは明確と思われるが、同時に、この作品は、現在フィレンツェのヴェッキオ宮にあるミケランジェロの彫像 『勝利の天才』 の姿と紛れもなく類似しており、カラヴァッジョはこの作品を念頭においていただろうと思われる。 画家のオラツィオ・ジェンティレスキはこの絵を「地上の愛」(Earthly Love)と名づけた。この作品はまたたくまにローマの知識人サークルの注目を集めた。本作に着想を得て、ある詩人はすぐに三つのマドリガーレを書くし、ほかの詩人はラテン語のエピグラムを書くといった具合だった。このエピグラムで、はじめてこの作品はヴェルギリウスの「愛は全てを征服する」と並べられたのだが、この文言が作品の題名として用いられるようになるのは、批評家ジョヴァンニ・ピエトロ・ベローリが1672年に著したカラヴァッジョの伝記が最初であった。
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