人物の印象
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/23 15:43 UTC 版)
牧野信一は小柄で、33歳の時にも25歳くらいにしか見えなかったと、宇野浩二は述懐している。 中原中也は同人雑誌の相談の集まりに、部外から見物にやって来た牧野と1933年(昭和8年)5月に初対面するが、その時の牧野は久留米絣を着ていて、すでに酔いながら、「僕、邪魔しないからねえ、邪魔しないからねえ」と入ってきたという。また二か月後、同人の谷丹三に誘われて牧野の住まいを訪ねた時の印象について中原は、浴衣一枚の胸をはだけて、まだ一字も書いていない原稿用紙を前に座っていた牧野を見て、自分たちが来るまで、ずっとそこで悩んで頭をかかえていたに違いないと思ったとし、その印象と死について以下のように語っている。 その手クビは細かつた。格別細い感じがした。其処に月光的な悲哀が漂つてゐた。牧野さんの作品には明るい風景が出て来るし、陽に透いた桜の葉のやうな色や又赤い色があるが、その赤はうでた小海老の赤である。斯の如き男にとつて、世間は荒いが、さもなくば衒学的(ペダン)に思はれたであらう。その中間はすつかりの空虚であつた。彼がもしそのことを歎いたとして、当今人々は云ふのである。「それはお前だけのことだ、お前の註文があるだけのことだ」と。けれどもそのお前自身にしてみれば、その註文を抱いてこそ生きてゐるやうなものでもあるのだ。 分類が終るや能事足れりとなす所に、現代インテリの過ちがあり、恐らくこの過ちが彼を不幸にした大きい理由であつたと云へよう。 — 中原中也「思ひ出す牧野信一」 坂口安吾は、自身の作品を牧野が褒めてくれる時に「ねえ、ほんとに、なんとも言へない蒼ざめた君の姿があの中にあるんだよ」と言っていたことに触れて、以下のように語っている。 牧野さんは理屈の言へない人で、自分の血族と血族にあらざる者とを当にただ次のやうな言葉によつて区別してゐた。「あれはほんとの蒼ざめた悲しさの分る人だよ」 — 坂口安吾「牧野さんの死」
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