京劇の伴奏楽器として
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/27 13:56 UTC 版)
京劇では、しばしば演員の声腔と同じメロディを演奏して音を重ねるが、場合によっては別の旋律を重ねたり、「加花」と言われる装飾音を用いる場合がある。 かつては、演員(京劇の俳優)は専属の琴師(京胡の演奏家)を抱えていて、二人三脚で作品を作っていた。演じる対象の性質を捉えて、言葉の裏にある感情を表現するために、どのような京胡演奏のサポートを受けるかは重要だったので、たいてい共同作業は長期に亘り、いつも決まった琴師の伴奏を伴うのが普通であった。それゆえ「一流の角儿には、必ず一流の琴師が伴う」ものであった。琴師は、単なる一伴奏者の立場を超えて、絶対的信頼関係にあり、舞台を引導する場合すらあった。「覇王別姫」で剣の舞を舞う虞美人を演じる梅蘭芳が、琴師の王少卿に「ここはあなたの場面です。あなたが自由に拉いて下さい。わたしがあなたに合わせて舞いますから。」と言ったエピソードは有名である。 京劇の俳優には、個性や得意な演目があるので、これらは流派として後に引き継がれた。それゆえ、伴奏する京胡にも、流派毎の伴奏の様式がある。よく引き合いに出されて比較されるのは、梅派と程派の違いである。梅蘭芳は、高貴で上品な女性を演ずるのを得意としていたので、その音楽、伴奏は、優雅でゆったりとしたものであった。一方、程硯秋は、地位の低い抑圧された女性の感情を表現したので、伴奏される京胡の演奏は、細かい音型が連なって複雑な心の揺れを巧みに表出するものであった。この2者は、芸風の違いから異なったレパートリーを持っていたが、例外は「玉堂春」で、この作品だけは、どちらも演ずることができた。それゆえ、両者の目指す表現の違いが、はっきりとわかるので、比較研究の対象になってきた。 京胡の音域は9,10度ほどで、それ以上に広げて演奏も可能だが、高域は使わない。この狭い音域の中で、これまで数多くの優れた作品、流派が生まれてきた。多くの流派を学ぶのは問題ないが、プロを目指す人など特定の流派のみを掘り下げて学ぶ場合もある。中国で京胡を拉くような話をすると「流派は何ですか?」とあいさつがわりに質問される。北京の天壇、北海、前海付近では、愛好家の人々が、京胡、月琴など持ってきて、歌いたい人の伴奏を務めて楽しんでいる様子を毎日のように見ることができる。
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