両作品の差異
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/27 23:24 UTC 版)
ルーヴル・ヴァージョンに比べると、ロンドン・ヴァージョンの方が、人物がやや大きく描かれている。両作品における構成上のもっとも大きな相違は画面右側の天使の描写である。ロンドン・ヴァージョンでは天使の右手が自身の膝に置かれているのに対し、ルーヴル・ヴァージョンではヨハネを指差している。さらに天使の視線が、ロンドン・ヴァージョンでは穏やかに伏せられているの対し、ルーヴル・ヴァージョンでは鑑賞者のほうを向いているように見える。 全体的にロンドン・ヴァージョンの方が、衣服を着用している人物の肉体表現なども含めて外形が明確に描かれている。背景の岩場もロンドン・ヴァージョンが極めて詳細に描かれているのに比べると、ルーヴル・ヴァージョンはぼんやりとしている。人物の顔の明暗表現も、ロンドン・ヴァージョンの方がくっきりとしている。ルーヴル・ヴァージョンでの人物の顔や姿形の描写は繊細であり、スフマート技法の多用によって、微妙にぼやけた表現となっている。ルーヴル・ヴァージョンの色使いは穏やかで温かみを感じさせるが、これは画肌表面に塗布されたワニスの色調によるところが大きい。ほかに色使いの差異として天使が着用するローブがある。ロンドン・ヴァージョンの天使のローブには赤色は使用されていないが、ルーヴル・ヴァージョンのローブは鮮やかな赤色と緑色が使用されている。また、ロンドン・ヴァージョンには頭上の円光、ヨハネが持つ細長い十字架といった聖人を象徴するエンブレムが描かれているが、ルーヴル・ヴァージョンにはこれらのエンブレムは描かれていない。ナショナル・ギャラリーの館長マーティン・ディヴィス (en:Martin Davies (museum director)) は「確かなことはいえない」としながらも、これら金色で描かれているエンブレムは、他の画家によって描き足されたのではないかという可能性を示唆した。周囲に描かれている植物もルーヴル・ヴァージョンの方が写実的に描かれているのに対し、ロンドン・ヴァージョンには空想的な植物が描かれている。
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