不当利得の返還
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/05 16:37 UTC 版)
取消しの遡及効により、取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされる(121条)。まだ履行されていない債務は初めから発生しなかったこととなり、既に履行された債務については不当利得の返還義務が生じる。 当該返還義務の範囲は2017年改正(2020年4月施行予定)で新設の121条の2で定められることとなった(取消しにより初めから無効になった場合を含め、無効・取消しの返還義務については121条の2の規定による)。 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う(第1項)。 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う(第2項)。 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする(第3項)。制限行為能力者であることを理由とする取消しの場合には更に手厚い保護を与え、当該制度の実効性を高めるために、善悪を問わずに、返還義務の及ぶ範囲を703条に規定した範囲、つまり現存利益のみに限定している(121条の2第3項、旧121条但書)。判例によれば他人への債務の弁済や生活費に充てたときは現存利益は存在するが(大判昭7・10・26民集11巻1920頁)、賭博などで浪費されてしまった場合には現存利益は存在しないとする(最判昭50・6・27金判485号20頁)。なお、詐欺や強迫による意思表示の場合については、このような規定は設けられていない。制限行為能力者が取り消す場合にも詐欺・強迫を理由とする場合には121条但書の適用はない(通説)。 なお、消費者契約法6条の2に特則がある。 通説によれば物権的請求権と不当利得返還請求権は競合して認められるとするが、給付利得の不当利得返還請求権が認められることになるとする説など見解は分かれ対立がある。当事者間の返還義務は原則として同時履行の関係に立つが、詐欺者には同時履行の抗弁は認められないとされる。
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