ミミズパイプヘビ属
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/03 14:03 UTC 版)
ミミズパイプヘビ属 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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キナバルミミズパイプヘビ Anomochilus monticola
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Anomochilus Berg, 1901 |
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タイプ種 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Anomalochilus weberi Lidth de Jeude, 1890[1] |
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シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
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種 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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ミミズパイプヘビ属(ミミズパイプヘビぞく、学名:Anomochilus)は、ヘビの属の1つ。本属のみでミミズパイプヘビ科を構成する。3種が分類されており、学名からanomochilidsと呼ばれる。dwarf pipesnakes、lesser pipesnakes、giant blind snakesといった英名がある[2][3]。1890 年に A. weberi のみを含む単型属として、Anomalochilus という学名で設立されたが、この学名は既に甲虫の属に使用されていたため、1901年に改名された。体は小型かつ円筒形で、短い円錐形の尾と、首と連続する小さく丸い頭を持つ。背面は黒から紫がかった茶色で、腹面は暗褐色または黒色である。尾の周りにはオレンジがかった赤い縞模様があり、吻部と腹部にはさまざまな淡い模様がある。全種がスンダランドの固有種であり、マレー半島、スマトラ島、ボルネオ島で見られる。
地下生活に適応しており、標高220-1,513mの低地および山地の熱帯雨林に生息する。食性や繁殖については不明な点が多いが、ミミズ、ヘビ、トカゲなどを捕食していると考えられており、ミジカオヘビ上科の中で唯一の卵生である。国際自然保護連合のレッドリストでは、2種がデータ不足、1種が低危険種に指定されている。
分類と系統
1890年にオランダの爬虫類学者であるTheodorus Willem van Lidth de Jeudeにより、ウェーバーミミズパイプヘビの記載と同時に設立された[4]。学名は古代ギリシア語で「異常な唇」を意味する[5]。Anomalochilus という学名は既に甲虫の属に使用されていたため、1901年に博物学者のCarlos Bergは本属を Anomochilus に改名した[5]。レオナードミミズパイプヘビは、1940年にイギリスの爬虫類学者であるMalcolm Arthur Smithにより、マレーシアのパハン州から収集された2つの標本に基づいて新種記載された[6]。キナバルミミズパイプヘビは、ボルネオ島のキナバル山で採取された標本に基づき、2008年にインドの爬虫類学者であるIndraneil Dasらによって新種記載された[7]。
当初はパイプヘビ科に分類され、その後はサンゴパイプヘビ科に移動され、1975年にはアメリカの爬虫類学者であるSamuel B. McDowellによってミジカオヘビ科に分類された[8]。1993年、アメリカの爬虫類学者であるDavid Cundallらはミジカオヘビ科を3つの科に分割し、パイプヘビ科を復活させ、本属を独自の科であるミミズパイプヘビ科に分類した[9]。その後の遺伝学的研究により、パイプヘビ科はミミズパイプヘビ科に対して側系統である可能性が高いことが示され[10]、2022年の研究では、本属を以前の科に戻すことが推奨された[11]。
本属には3種が分類されている。3種ともボルネオ島に分布しており、この島が本属の起源と考えられる。パイプヘビ科と近縁であり、同科に分類されることもある。本属とパイプヘビ属は、ミジカオヘビ科に最も近縁な分岐群を形成している。以下の系統樹は2022年の研究に基づき、本属と他の科との系統関係を示している[11]。
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下位分類
和名は田原(2022)および中井(2021)を参考とした[12][13]。
- レオナードミミズパイプヘビ (レナードパイプヘビ) Anomochilus leonardi M. A. Smith, 1940 (Malayan giant blind snake or Leonard's dwarf pipesnake)
- キナバルミミズパイプヘビ (キナバルパイプヘビ) Anomochilus monticola Das, Lakim, Lim & Hui, 2008 (Kinabalu giant blind snake or Mount Kinabalu dwarf pipesnake)
- ウェーバーミミズパイプヘビ (ウェーバーパイプヘビ) Anomochilus weberi (Lidth de Jeude in Weber, 1890) (Sumatran giant blind snake or Weber's dwarf pipesnake)
形態
小型かつ円筒形のヘビであり、小さく丸い頭と短い円錐形の尾が特徴である[3]。頭部は首と連続しており、穴を掘って生活する種であるが、吻には穴を掘るための部位は無い[2]。背面は通常、均一な黒色から紫がかった茶色で、腹面は暗褐色または黒色であり、黄色または白色の斑点が見られることが多い。吻には黄色の模様があり、尾にはオレンジ色または赤色の帯がある[2][3]。
頭部と目が小さいこと、額の鱗が大きいこと、鼻板が1枚で第2上唇板に接していること、頬板と眼前板がないこと、眼後板が1枚しかないこと、オトガイ溝が無いことなどで、他の属と区別できる[7]。歯列はヘビの中でも独特で、翼状骨と口蓋骨に歯がなく、上顎歯は斜めに4本しかない[2]。
種ごとの形態的特徴は、Das (2010)およびDas and colleagues (2008)に基づく[3][7]。
画像 | 名称 | 長さ | 体色 | 鱗 |
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レオナードミミズパイプヘビ | 全長22.8cm | 体側面に淡い縞模様は無く、脊椎に沿って大きな淡い斑点があり、背面は光沢のある黒から紫がかった茶色で、腹面は黒く、尾下板は赤色である。 | 腹板は214–252枚、頭頂板は単一 | |
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キナバルミミズパイプヘビ | 頭胴長50.7–50.9cm、全長52.12cm | 体側面に淡い縞模様は無く、脊椎に沿った斑点も無い。側面には淡黄色の鱗が1つだけある。背面は光沢のある青黒色。腹面は暗褐色。 | 腹板は258–261枚、頭頂板は単一 |
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ウェーバーミミズパイプヘビ | 全長22.8cm | 側面に淡い縞模様があり、脊椎に沿って大きな淡い斑点がある。背面と腹面ともに黒色。 | 腹板は242–248枚、頭頂板は2枚 |
分布と生息地
3種全てがスンダランドの固有種で、マレー半島、スマトラ島、ボルネオ島で見られる[7]。レオナードミミズパイプヘビはマレー半島と東マレーシアのサバ州に分布し、ウェーバーミミズパイプヘビはスマトラ島とカリマンタン島に分布する。キナバルミミズパイプヘビはサバ州のキナバル自然公園から知られているのみである[3]。穴を掘る種であり、低地や山地の熱帯雨林、多くの場合小川の近くの落ち葉の中に生息する[2]。レオナードミミズパイプヘビは標高220-500mの平地や丘陵林に生息し、キナバルミミズパイプヘビは標高1,450-1,513mの山地林に生息し、ウェーバーミミズパイプヘビは標高300-1,000mの山地林に生息する[3][14][15][16]。
生態と行動
地下生活に適応した爬虫類である。その生態は十分に研究されておらず、食性や繁殖習性についてはほとんど分かっていない[3]。口が小さく、方形骨が短く、下顎の溝が欠如しているため、他のヘビのように口を大きく開けることが出来ない。そのため、ミミズのような細長い無脊椎動物や、ヘビや小型のトカゲなど、小さく細い脊椎動物を餌としていると考えられる[2]。ウェーバーミミズパイプヘビは一度に4個の卵を産むことが知られているが、その他の種の繁殖については記録が無い[3]。ミジカオヘビ上科の中では唯一卵生であり、その他の属は全て子ヘビを出産する[2]。
人との関わり
ウェーバーミミズパイプヘビとキナバルミミズパイプヘビはIUCNによりデータ不足に分類されており、レオナードミミズパイプヘビは低危険種に分類されている。3種とも非常に少数の標本しか知られていないため、推定個体数や明確な分布域は不明である。キナバルミミズパイプヘビとレオナードミミズパイプヘビは、それぞれキナバル自然公園とタマンネガラから知られている。森林伐採と都市化により、ウェーバーミミズパイプヘビの生息地の喪失が起こっている[14][16][15]。
出典
- ^ “Anomochilus weberi (LIDTH DE JEUDE, 1890)”. The Reptile Database. 2023年9月18日閲覧。
- ^ a b c d e f g O'Shea, Mark (2023) (英語). Snakes of the World: A Guide to Every Family. Princeton: Princeton University Press. pp. 91–93. ISBN 9780691240671. OCLC 1356003917
- ^ a b c d e f g h Das, Indraneil (2010) (英語). Field Guide to the Reptiles of South-East Asia. London: New Holland Publishers. pp. 257. ISBN 978-1-4729-2057-7. OCLC 455823617
- ^ van Lidth de Jeude, Theodorus Willem、Universiteit van Amsterdam. 著「Reptilia from the Malay Archipelago. II. Ophidia」、Weber, Max 編『Zoologische Ergebnisse einer reise in Niederländisch Ost-Indien』 1巻、E.J. Brill、Leiden、1890年、180–181頁。doi:10.5962/bhl.title.52289 。
- ^ a b Berg, Charles (1901). “Herpetological notes”. Comunicaciones del Museo Nacional de Buenos Aires 1: 289. OCLC 8651583 .
- ^ Smith, Malcolm A. (1940). “XLVII.— A new Snake of the Genus Anomochilus from the, Malay Peninsula” (英語). Annals and Magazine of Natural History 6 (35): 447–449. doi:10.1080/03745481.1940.9723701. ISSN 0374-5481 .
- ^ a b c d Das, Indraneil; Lakim, Maklarin; Lim, Kelvin K. P.; Hui, Tan Heok (2008). “New Species of Anomochilus from Borneo (Squamata: Anomochilidae)” (英語). Journal of Herpetology 42 (3): 584–591. doi:10.1670/07-154.1. ISSN 0022-1511 .
- ^ McDowell, S. B. (1975-02-24). “A Catalogue of the Snakes of New Guinea and the Solomons, with Special Reference to Those in the Bernice P. Bishop Museum. Part II. Anilioidea and Pythoninae”. Journal of Herpetology 9 (1): 1–79. doi:10.2307/1562691. JSTOR 1562691 .
- ^ Cundall, David; Wallach, V.; Rossman, Douglas A. (1993). “The systematic relationships of the snake genus Anomochilus” (英語). Zoological Journal of the Linnean Society 109 (3): 275–299. doi:10.1111/j.1096-3642.1993.tb02536.x .
- ^ Gower, D. J.; Vidal, N.; Spinks, J. N.; McCarthy, C. J. (2005). “The phylogenetic position of Anomochilidae (Reptilia: Serpentes): first evidence from DNA sequences” (英語). Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research 43 (4): 315–320. doi:10.1111/j.1439-0469.2005.00315.x. ISSN 0947-5745 .
- ^ a b Li, Peng; Wiens, John J. (2022). “What drives diversification? Range expansion tops climate, life history, habitat and size in lizards and snakes” (英語). Journal of Biogeography 49 (2): 237–247. Bibcode: 2022JBiog..49..237L. doi:10.1111/jbi.14304. ISSN 0305-0270 .
- ^ 田原 2022, p. 367.
- ^ 中井 2021, p. 335.
- ^ a b Iskandar, D.; Jenkins, H.; Das, I.; Auliya, M.; Inger, R.F.; Lilley, R. (2012). “Anomochilus monticola”. IUCN Red List of Threatened Species 2012: e.T191983A2023863. doi:10.2305/IUCN.UK.2012-1.RLTS.T191983A2023863.en 2023年6月27日閲覧。.
- ^ a b Grismer, L. (2012). “Anomochilus leonardi”. IUCN Red List of Threatened Species 2012: e.T1555A727213. doi:10.2305/IUCN.UK.2012-1.RLTS.T1555A727213.en 2023年6月27日閲覧。.
- ^ a b Das, I. (2012). “Anomochilus weberi”. IUCN Red List of Threatened Species 2012: e.T192155A2048153. doi:10.2305/IUCN.UK.2012-1.RLTS.T192155A2048153.en 2023年6月27日閲覧。.
参考文献
- 田原義太慶『大蛇全書』グラフィック社、2022年3月25日。 ISBN 978-4-7661-3558-9。
- 中井穂瑞領、川添宣広 写真『ヘビ大図鑑 ナミヘビ上科、他編:分類ほか改良品種と生態・飼育・繁殖を解説』誠文堂新光社〈ディスカバリー生き物・再発見〉、2021年5月。 ISBN 978-4-416-52162-5。
関連項目
- ミミズパイプヘビ属のページへのリンク