テンソル場のリー微分
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/13 19:59 UTC 版)
もっと一般に、多様体 M 上の (p, q)-階可微分テンソル場 T と可微分ベクトル場(つまり接束 TM の可微分切断)Y が与えられたとき、テンソル場 T のベクトル場 Y に沿った微分が定義される。 φ: M × R → M をベクトル場 Y のベクトルフローが誘導する M 上の局所微分同相全体のなす 1-径数部分半群とし、φt(p) := φ(p, t) と記す。つまり十分小さな t に対する φt はいずれも M のある近傍から別のある近傍への微分同相になっており、またとくに φ0 は恒等写像(これは微分同相写像のひとつ)である。このとき、テンソル場 T のリー微分は、各点 p において ( L Y T ) p = d d t | t = 0 ( ( ϕ t ) ∗ T ϕ − t ( p ) ) {\displaystyle ({\mathcal {L}}_{Y}T)_{p}=\left.{\frac {d}{dt}}\right|_{t=0}\left((\phi _{t})_{*}T_{\phi _{-t}(p)}\right)} . と置くことによって定義される。ここで (φt)* は微分同相 φt に沿った押し出し (pushforward) である。別な言葉で言えば、テンソル場 T とベクトル場 Y によって与えられる微分同相の無限小生成作用素が与えられたとき、テンソル場 T のベクトル場 Y に沿うリー微分というのは、Y が与える無限小微分同相下における T の無限小変化のことに他ならない。 これは解析的な定義であるが代数的な定義を与えることもできる。テンソル場のリー微分の代数的な定義は以下の 4 つの公理に従って与えられる: 公理 1. 関数のリー微分は関数の方向微分である。つまり f が M 上の実数値関数ならば次が成り立つ; L Y f = Y ( f ) = ∇ Y f . {\displaystyle {\mathcal {L}}_{Y}f=Y(f)=\nabla _{Y}f.} 公理 2. ベクトル場のリー微分はリー括弧積である。つまり X がベクトル場ならば次が成り立つ; L Y X = [ Y , X ] . {\displaystyle {\mathcal {L}}_{Y}X=[Y,X].} 公理 3. 微分形式のリー微分は内部積と外微分との反交換子である。つまり α が微分形式ならば次が成り立つ; L Y α = i Y d α + d i Y α . {\displaystyle {\mathcal {L}}_{Y}\alpha =i_{Y}d\alpha +di_{Y}\alpha .} 公理 4. リー微分はライプニッツ則に従う。つまり S, T がテンソル場ならば次が成り立つ; L Y ( S ⊗ T ) = ( L Y S ) ⊗ T + S ⊗ ( L Y T ) . {\displaystyle {\mathcal {L}}_{Y}(S\otimes T)=({\mathcal {L}}_{Y}S)\otimes T+S\otimes ({\mathcal {L}}_{Y}T).} ここから明示的な形でテンソル場のリー微分の定義を述べるならば、(p, q) 型のテンソル場 T を余接束 T*M の滑らかな切断 α1, α2, ..., αq および接束 TM の滑らかな切断 X1, X2, ..., Xp たちを変数とする実数値の可微分重線型写像 T(α1, α2, ..., X1, X2, ...) と見なして、次の式 ( L Y T ) ( α 1 , α 2 , … , X 1 , X 2 , … ) = Y ( T ( α 1 , α 2 , … , X 1 , X 2 , … ) ) {\displaystyle ({\mathcal {L}}_{Y}T)(\alpha ^{1},\alpha ^{2},\ldots ,X_{1},X_{2},\ldots )=Y(T(\alpha ^{1},\alpha ^{2},\ldots ,X_{1},X_{2},\ldots ))} − T ( L Y α 1 , α 2 , … , X 1 , X 1 , … ) − T ( α 1 , L Y α 2 , … , X 1 , X 1 , … ) − ⋯ {\displaystyle {}-T({\mathcal {L}}_{Y}\alpha ^{1},\alpha ^{2},\ldots ,X_{1},X_{1},\ldots )-T(\alpha ^{1},{\mathcal {L}}_{Y}\alpha ^{2},\ldots ,X_{1},X_{1},\ldots )-\cdots } − T ( α 1 , α 2 , … , L Y X 1 , X 2 , … ) − T ( α 1 , α 2 , … , X 1 , L Y X 2 , … ) − ⋯ {\displaystyle {}-T(\alpha ^{1},\alpha ^{2},\ldots ,{\mathcal {L}}_{Y}X_{1},X_{2},\ldots )-T(\alpha ^{1},\alpha ^{2},\ldots ,X_{1},{\mathcal {L}}_{Y}X_{2},\ldots )-\cdots } によって T の Y に沿うリー微分を定義するということになる。 さて、ここで述べた解析的および代数的な二つの定義は互いに等価である。このことは、押し出しと微分法に対するライプニッツ則の性質を用いることで証明することができる。
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