タバコと医療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 04:10 UTC 版)
西欧医学において、タバコは新大陸で発見された後にヨーロッパに輸入されるまで、未知の物質だった。しかしヨーロッパの人々は煙の効能について無知だったわけではない。香料は古代より用いられており、大麻の葉を燃やせば精神を活性化する効果のあることがスキタイ人やトラキア人には知られていた。古代ギリシアの医学者であるヒポクラテスも、咳に悩んでいた大プリニウスがそうしたように、煙を吸入することは「婦人病」によいと述べている。ヨーロッパの探検家がタバコを学んだインディアンも、その葉を宗教行事などさまざな目的に使用していた。そしてヨーロッパ人はすぐにそこには医学的な使用法もあることに気がつくのである。フランスの外交官であったジャン・ニコは鎮痛剤代わりの湿布としてタバコを使いはじめ、ニコラス・モナルデスはタバコが有効であるとする膨大な数の疾患を挙げて、これを持ち上げた。それは例えばガンであり、頭痛、呼吸障害、胃痛、痛風、腸内寄生虫、婦人病であった。当時の西欧医学は四体液説に非常な重きをおいており、わずかな間ではあったが、タバコはまさに万能薬として扱われた。薬局方においては、特定の疾患からくる寒気や眠気に有効であると記され、それらがタバコのもつ水分を吸収する効能、身体を温める効能から説明されたが、これはつまり健康な人間にとってきわめて重要な要素である「調和」を保つものであったとされていたのである。感染を阻むために、タバコの煙は建物を燻すものとしても使われた。 呼吸器を刺激するために、タバコの煙を直腸管から注入する治療を最初におこなったのは、北アメリカ大陸のインディアンである。また初期の例としては、1686年のトーマス・サイデンハムの記録がある。サイデンハムは腸閉塞の治療のため、まず瀉血を行い、続いてタバコの煙の浣腸を行ったのである。 であるからして、私は、腕に瀉血を施してから一時間ないし二時間後に、くだすための強力な浣腸剤をいれることが最適であるとみている。そして、タバコの煙こそがもっとも強力かつ効果的だと思われる。煙を、向きを反対にしたパイプから大きな膀胱を使って内臓まで送り込む。一度やってみてから、用便させても、導管が下まで広がっていなければ、少し間を置きながら繰り返すのがよい。 —Thomas Sydenham 19世紀オランダの農夫たちは、下剤が必要な馬によくタバコの煙を浣腸した。アメリカの人類学者であるフランク・スペックの報告によれば、北アメリカ大陸の先住民であるカトーバ族も自分たちの馬にこの治療をおこなっていた。
※この「タバコと医療」の解説は、「タバコ浣腸」の解説の一部です。
「タバコと医療」を含む「タバコ浣腸」の記事については、「タバコ浣腸」の概要を参照ください。
- タバコと医療のページへのリンク