エスター (映画)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/11 14:11 UTC 版)
| エスター | |
|---|---|
| Orphan | |
| 監督 | ジャウム・コレット=セラ |
| 脚本 | デヴィッド・レスリー・ジョンソン |
| 原案 | アレックス・メイス |
| 製作 | ジョエル・シルバー スーザン・ダウニー ジェニファー・デイヴィソン・キローラン レオナルド・ディカプリオ |
| 製作総指揮 | スティーヴ・リチャーズ ドン・カーモディ マイケル・アイルランド |
| 出演者 | ヴェラ・ファーミガ ピーター・サースガード イザベル・ファーマン |
| 音楽 | ジョン・オットマン |
| 撮影 | ジェフ・カッター |
| 編集 | ティム・アルヴァーソン |
| 製作会社 | ダーク・キャッスル・エンターテインメント アッピアン・ウェイ・プロダクションズ |
| 配給 | |
| 公開 | |
| 上映時間 | 123分 |
| 製作国 | |
| 言語 | 英語 アメリカ手話 |
| 製作費 | $20,000,000[1] |
| 興行収入 | |
| 次作 | エスター ファースト・キル |
『エスター』(原題:Orphan)は、2009年のアメリカ合衆国のホラー映画。監督はジャウム・コレット=セラ、出演はヴェラ・ファーミガとイザベル・ファーマンなど。R15+指定。
ある家族に養子として引き取られた9歳の少女エスターが巻き起こす惨劇を描いている[3]。北米では2009年7月24日に公開され、日本では2009年10月10日に公開された。原題は「孤児」の意味。
公開から13年後の2022年に、前日譚を描く続編『エスター ファースト・キル』の制作が発表された[4]。
ストーリー
かつて3人目の子供を流産したケイト・コールマンは、家族との幸せな日々を送りながらも心の傷が癒える事はなかった。状況を改善するため、彼女とその夫ジョンは孤児院を訪ね、エスターという9歳の少女を養子として引き取る。エスターは少々変わっているがしっかり者で落ち着いており、すぐに手話を覚えて難聴を患う義妹マックスとも仲良くなる。一方で、義兄ダニエルはエスターのことを歓迎していなかった。
共に暮らし始めると、エスターは謎のこだわりや習慣を持っていることが明らかになっていく。加えて、ダニエルが傷つけてしまい苦しんでいる鳩を石で叩き潰すなど、不気味で攻撃的な一面も見せ始めた。
ある晩、エスターにジョンとの性行為を見られたケイトは、彼女に行為の意味を「愛を表現しあう」と説明するが、エスターからは冷たく「知ってる、ファックでしょ」と返され、彼女に不信感を抱く。弾けないと言っていたピアノを完璧に弾くエスターを見たケイトはさらに不信感を募らせるが、エスターを信じるジョンはケイトに反発し、2人は口論になってしまう。
そんな中、夫妻のもとに孤児院からシスター・アビゲイルが訪ねてくる。彼女曰く、エスターが以前いた学校では喧嘩や泥棒騒ぎ、事故の現場には必ずエスターの姿があり、彼女が住んでいた家と家主である親類も放火によって失われたのだという。3人の会話を聞いていたエスターは、ジョンの書斎からツリーハウスの鍵やハンマー、拳銃を盗み出すとマックスを連れ出て先回りし、帰路につくシスター・アビゲイルの車の前にマックスを突き飛ばす。シスター・アビゲイルは間一髪のところでマックスを避け事なきを得るが、彼女に駆け寄ったところを背後からエスターにハンマーで殴り殺されてしまう。エスターはマックスを共犯者にして死体を隠蔽すると、ツリーハウスに証拠を隠していく。その様子を目撃したダニエルも彼女に脅され、子供達はエスターに逆らえなくなる。
夫妻はエスターを馴染みのカウンセラーのもとに連れて行くが、彼女と話したカウンセラーはケイトにこそ問題があると指摘してきた。エスターの強かさを知ったケイトは独自に調べた結果、エスターには人格障害があると確信し、彼女がロシアにいた頃の情報を問い合わせるが、そんな情報はないと返答されてしまう。危機感を覚えたエスターはジョンに取り入り始め、ケイトの仕業に見せかけて自ら腕の骨を折るなど、密かに工作してケイトが孤立するように仕向けていった。ケイトはエスターの持っていた聖書を調べ、そこに刻印された文字から彼女がエストニアの精神病院にいたことを突き止める。
一方で、マックスからシスター・アビゲイル殺害について聞き出したダニエルは証拠を回収しようとするが、嗅ぎ付けたエスターによってツリーハウスに放火され閉じ込められてしまう。なんとか脱出したものの、落下して頭を打ったところをエスターに殺されかけるが、マックスの体当たりによって未遂に終わり、ダニエルは搬送されて一命を取りとめる。エスターは病院でダニエルを再び殺そうとして失敗するも、それを知って激昂したケイトは鎮静剤を打たれて病院で一晩過ごすことになった。
ケイト不在の自宅でエスターがジョンに色仕掛けを行うと、異性として好意を向けられていると気付いたジョンは彼女を拒絶する。その頃、病院にいるケイトは携帯電話に連絡をくれた精神病院の医師によって、エスターは下垂体機能低下症による成長ホルモン異常を原因とした発育不全のため外見が幼いだけで、実際にはリーナ・クラマーという33歳の大人であることを知らされていた。医師の話によると、エスターことリーナは非常に暴力的な人物で、医師の知る限り少なくとも推定で7人を殺害して精神病院に入院させられたが、現在は脱走して行方知れずとなっているという。彼女の恐ろしい経歴を知ったケイトは自宅へ戻るため車を飛ばすが、電話を掛けてもジョンは一向に応答しない。
自宅に着くとジョンはエスターに刺殺されており、ケイトもマックスを探すうちエスターに肩を撃たれてしまう。やがてマックスが窮地に陥るが、これをなんとか救ったケイトは自宅から離れ、通報で駆けつけたパトカーを見て安堵する。しかし、追ってきたエスターが襲い掛かってきてケイトと格闘戦になり、2人はやがて氷の割れた湖に落ちる。なんとか脱出したケイトは足を掴むエスターを蹴落とすと、マックスを抱いてパトカーのもとへと向かった。
登場人物
※括弧内は日本語吹替
- ケイト・コールマン
- 演 - ヴェラ・ファーミガ(八十川真由野)
- 主人公。3人目の子供を流産したことがトラウマとなり、悪夢に苦しめられている。元アルコール依存症患者。
- 孤児院から引き取ったエスターと心を通わせようとするが、ある日を境にエスターを不信に思うようになり、やがて彼女の過去を調べ始める。
- エスター
- 演 - イザベル・ファーマン(矢島晶子)
- コールマン夫妻が孤児院から引き取った少女。ロシア出身。9歳。
- 頭がよく、絵を描くことが得意。首と両手首には常にリボンを巻き、それを外そうとすると大声で叫ぶ、歯医者を嫌う、入浴時は必ず浴室を施錠する、といった謎めいた部分を持つ。
- ジョン・コールマン
- 演 - ピーター・サースガード(佐久田修)
- ケイトの夫。設計士をしており、自宅にいることが多い。10年ほど前に浮気していた過去がある。
- 精神が不安定になったケイトを立ち直らせるため、養子を迎えることを提案する。エスターを信じきっており、彼女を不審に思うケイトに非協力的な態度を取る。
- ダニエル・コールマン
- 演 - ジミー・ベネット(津々見沙月)
- コールマン夫妻の息子。
- 義理の妹となったエスターを不気味に感じ、快く思っていない。
- マックス・コールマン
- 演 - アリアーナ・エンジニア(台詞なし)
- コールマン夫妻の娘。難聴を患っており、手話と読唇術で会話を行う。
- 仲良くなったエスターを実の姉のように慕い、彼女の頼みを喜んで聞くようになる。
- シスター・アビゲイル
- 演 - CCH・パウンダー(磯辺万沙子)
- エスターがいた孤児院のシスター。
- 引き取られたエスターの様子を不審に思い、彼女が孤児院に来る前の様子を調べ上げる。
- バーバラ
- 演 - ローズマリー・ダンズモア(久保田民絵)
- ブラウニング
- 演 - マーゴ・マーティンデイル(福田如子)
- バラバ
- 演 - カレル・ローデン(木下浩之)
- 日本語吹替版制作スタッフ
演出:伊達康将、翻訳:埜畑みづき、調整:オムニバス・ジャパン、制作:東北新社
スタッフ
- 監督:ジャウム・コレット=セラ
- 製作:ジョエル・シルバー、スーザン・ダウニー、ジェニファー・デイヴィソン・キローラン、レオナルド・ディカプリオ
- 製作総指揮:スティーヴ・リチャーズ、ドン・カーモディ、マイケル・アイルランド
- 共同製作:リチャード・ミリッシュ、デイビッド・バレット、エリック・オルセン
- 原案:アレックス・メイス
- 脚本:デヴィッド・レスリー・ジョンソン
- 撮影:ジェフ・カッター
- プロダクションデザイン:トム・マイヤー
- 衣装デザイン:アントワネット・メッサン
- 編集:ティム・アルヴァーソン
- 音楽:ジョン・オットマン
- 製作スタジオ:ダークキャッスル・エンタテインメント
- 日本語字幕翻訳:小寺陽子
- 日本語吹替翻訳:埜畑みづき
製作
2007年11月29日の『バラエティ』誌は、ワーナー・ブラザースが配給するダーク・キャッスル・エンターテインメント製作の映画『エスター』に、ピーター・サースガードとイザベル・ファーマンが出演することを報道した。監督は以前にもダークキャッスル製作のホラー映画『蝋人形の館』(2005年)を手がけたジャウム・コレット=セラが務め、アレックス・メイスの原案をもとにデヴィッド・レスリー・ジョンソンが脚本を書くと報じられた[5][6]。
監督に就任したジャウム・コレット=セラは、ポランスキーやヒチコック、それにブニュエルといった心理描写に長けている映画監督の大ファンで、これらの監督から大いにインスピレーションを受けていた[7]。2009年4月のインタビューで、『エスター』はどれぐらい重い話になるか? と質問されたコレット=セラは、笑いながら「そうですね、かなりヘビーな話です」と発言し、「『エクソシスト』級のヘビーさと言うにはちょっと無理があるかも知れないけど、このジャンルのファンなら満足できるものが見られると思います」と語った[8]。
この映画の企画は、2007年5月に逮捕されたチェコ国籍の女性、バルボア・スクルロヴァの事件に触発されたものだった。クララ・マウエロヴァ、カテリーナ・マウエロヴァという姉妹の家庭と養子縁組した13歳の孤児の少女アンナは、重度の精神疾患を持っていたクララを支配して家を乗っ取り、クララの7歳の男児オンドレイを地下室に閉じ込めて虐待の末に餓死させた。近隣住民の通報で姉妹が逮捕され、子供だったアンナは児童養護施設に保護された後、そこから失踪し、数百人の警察官が行方を追ったが足取りはつかめなかった。養子縁組をした時の書類以外は、アンナの存在に関する資料が何もなかったためである。警察当局の捜査の結果、「13歳のアンナ」の正体は、バルボア・スクルロヴァという名の小柄な34歳の中年女性であることが明らかになった。養子縁組の手続きをした裁判官は、「13歳のアンナ」の印象について、いつも玩具を手に持って、大きなテディベアの影に隠れているような子だったと話した[9][10]。
その後、30代女性のバルボア・スクルロヴァは盗み出した個人情報を悪用し、13歳の少年や少女に化けて欧州各国の当局を欺いていたことが判明し、この事件はチェコ国内を震撼させた。スクルロヴァは頭髪を剃りあげ、包帯を胸に巻いて乳房が目立たないようにし、アダムという13歳の孤児の少年になりすまして学校に通ったところを逮捕されたのだ。学校の教師も福祉施設の職員も彼女の正体に気付かなかったという[11]。
デヴィッド・レスリー・ジョンソンは脚本を執筆するにあたって養子や養父・養母に関する多くのリサーチを行ない、実際に養子縁組をした友人から話を聞くなど、出来るだけこの問題に配慮しようと考えた。しかしこの映画は養子縁組そのものに焦点を当てたものではないとジョンソンは言う。「近所のターゲットやウォルマートに出かけて、若い女の子向けの刺激的な服を見ると分かりますが、子供が子供らしく過ごせる時間がどんどん減っているのを感じます。私たちの社会が、子供をあまりにも早く大人にさせようとしている。これは私にとって憂慮すべきことで、『エスター』は養子縁組とは関係ない、そういった自分の懸念の中から生まれた話です。これは年齢以上に賢い子の話で、この物語を伝える唯一の手段が、子供を欲しがっている家庭に彼女を養子縁組させることでした」とジョンソンはテーマについて言及している[12]。
キャスティング
本作でマックスを演じたアリアーナ・エンジニアは、実際に聴覚障害を持っており、作中で披露する手話や読唇術も日常的に使用している。俳優エージェントのブレンダ・キャンベルは、朝の犬の散歩をしている時に、母親のアンと手話で話しているアリアーナを偶然見かけた。『エスター』の製作者たちが、“手話が使えるブロンドヘアの女の子”という条件で子役を捜していることを知っていたキャンベルは、アリアーナがぴったりだと考えた。2007年10月、キャンベルは『エスター』のキャスティング・ディレクターにアリアーナを紹介し、才能ある少女に感銘を受けたスタッフはロサンゼルス行きの飛行機にアリアーナを乗せて、 レオナルド・ディカプリオが持つ製作会社に連れて行った[13]。
イザベル・ファーマンはクラシックなドレスを着て、首と手首にリボンを巻いてエスター役のオーディションを受けた。脚本でのエスターは、“白い肌、プラチナブロンドの髪を持つ繊細な顔立ち”として描かれ、ファーマンの容姿は一致していなかったが、製作者たちは彼女の芝居に深い感銘を受け、起用を決めた。後のインタビューでファーマンは、『危険な関係』(1988年)のグレン・クローズと、『羊たちの沈黙』(1991年)のアンソニー・ホプキンスの演技を参考にしたと語っている[14]。オーディションに立ち会っていた監督のコレット=セラは「イザベル(ファーマン)が現われた時、私たちが求めていたブロンドの女の子とは大きく異なる容姿でした。しかし台本を読んだイザベルの台詞のひとつひとつに強い信念が込められていて、我々は彼女を気に入って、イザベルにぴったりなキャラクターを創ることにしました。彼女はとても素晴らしい目をしていて、どこか不気味なところもあります」と、起用の決め手について話した[7]。
撮影
映画の大部分はカナダのトロント、モントリオールで撮影された[15]。映画の製作中、アリアーナの父親は仕事を休んで、娘が出演中のトロントの撮影現場を訪れた。アリアーナは映画出演の経験が全くなかったにもかかわらず、撮影を楽しんでセットにいる人々と写真を撮って過ごし、特に助監督とはすぐに打ち解けて「撮影現場は最高」と父親に伝えていた。『エスター』の共演者たちと連絡を取り合っているかと聞くと、アリアーナは「みんなと連絡を取っているよ。特にお母さん役のヴェラ・ファーミガと!」と手話で答えた[13]。
脚本では秋が舞台であることを想定しており、屋外撮影も秋に対応した準備を進めていたが、2007年12月に主要撮影が始まる前にロケ地のトロントが記録的な大雪に見舞われたことで、冬の話に変更せざるを得なくなった。そのためにエスターとダニエルの学校で行なわれる、(10月の)ハロウィン・カーニバルのエピソードがカットされることになった[14]。しかしコレット=セラは、「冬の環境は孤独感を演出できるのでホラー映画に最適だ。映画の雰囲気を決定づけるのに役立ちます」と、舞台の変更を肯定的に受け止めた[8]。
酔ったジョンをエスターが誘惑するシーンは、本来は公開版よりも長く、より性的な描写になる予定だった。しかし、このシーンのシナリオに憤慨したファーマンの両親が、性的な部分を失くすよう書き直さなければ娘を降板させるとクレームを付けたことで、内容と台詞の多くをカットして撮影を進めることになった。エスターが養父を性的に誘惑する理由は脚本の初期稿に詳しく書かれており、エスターの実父は娘が幼少の頃から性的虐待を繰り返し、それが原因で大人になった彼女は子供を作れない身体になっていた。エスターは父とその愛人を殺害して売春婦になった。殺人罪で逮捕された後、エスターは警察に捕まらなくて済むように子供を演じるようになり、トラブルを起こすたびに孤児院に送られた。子供のような身体に精神を閉じ込められていると思ったエスターは自己嫌悪と共に、新しい父親のもとで、子供の頃に求めていた本当の愛を探し、大人の女、そして恋人になりたいと願っているというものだった[14]。
セックスで悶える痴態をエスターに見られたケイトが弁解に行くシーンで、エスターが「I know. They fuck.(知ってるわ、ヤッてたんでしょ)」とケイトを馬鹿にする台詞は、10代のファーマンがファックというスラングを何回も言い直さなくて済むように、コレット=セラが1、2回のテイクで撮影を終える配慮をしたという[14]。ケイトと対決の末にエスターが氷の張った池の底に沈んで行くラストシーンは、本作の製作を務めるディカプリオの主演作『タイタニック』(1997年)で、彼が演じるジャックが極寒の海に沈むシーンに似せたオマージュとして撮られている[14]。
幼少期を寄宿学校で過ごし、普通の家庭環境で育たなかったコレット=セラは、エスターのキャラクターに共感し、「冒頭に時間があれば、エスターをもっと掘り下げたかった」と明かした。「残念ながら孤児院にいた頃のエスターの描写が短いんです。もっと時間があったら、私自身の個人的な生活の側面を加えて彼女のキャラクターを描けたでしょう。普通の家庭環境から離れることは、人間としてとても強くなりますからね」とコレット=セラは語った[7]。
反響
2009年7月10日の『ロサンゼルス・タイムズ』は、同月24日公開予定の『エスター』に、孤児や養子に対するネガティブな印象を助長する懸念から批判が集まっているという記事を掲載した。Facebookでは「ワーナー配給の『エスター』をボイコットします」というグループによる署名運動が起き、様々な養子縁組団体から激しい非難を浴びた。それによりワーナー・ブラザースは、予告編にあった「自分の子と同じように養子を愛するのは難しいでしょうね」というエスターの台詞を「ママは私のことが、あんまり好きじゃない」に差し替えた。また、スタジオの広報担当スコット・ロウは「『エスター』は実在の出来事を描写したものではなくフィクションです。当初の予告編が不快な印象を与えてしまったとしたらお詫びします。当社は作品を通して誰かを不快にさせる意図は全くありません」と声明を出すに至った[16]。
アメリカのプロテスタント団体フォーカス・オン・ザ・ファミリーの孤児担当ディレクター、ケリー・ロザティは「『エスター』は孤児と養子縁組に関する、誤った固定観念を助長する恐れがあります。アメリカの里親制度下では12万7千人以上の子供たちが養子縁組を持ち、その多くは親からの虐待とネグレクトに耐えてきた子です。暴力を扱った娯楽映画の題材にされるのは、そういう子らにとって最も避けるべきことでしょう」とコメントした[17]。なお、この映画は公開後も、養子の子を暴力的かつ異常な精神病質者に描いているとして、養子縁組機関や東欧の養子・里親団体から多くの苦情を受けた。こうした影響を鑑み、本国で『エスター』のDVDが発売された時には、これはフィクションであり、現実世界では子供のない家庭に養子縁組を薦めるよう促すメッセージが添えられた[14]。
この映画は全米映画配給協会MPAの審査により、「暴力的表現、性的表現及び、それらに属する言語表現がある」として、R指定(17歳未満の観賞は保護者の同伴が必要)に区分された[18]。 コモンセンス・メディアおよびIMDbによる判断は以下の通り。“バイオレンス”に関しては「エスターがシスター・アビゲイルの頭部をハンマーで殴り、雪の上に血飛沫が飛ぶ」、「男性が脇腹をナイフで刺され、その後に胸を何度も刺される」、「少女がツリーハウスにライター用オイルをかけ、中に少年を閉じ込めたまま火を点ける」、「耳が聴こえない少女に向かって、何発も銃を発砲する」など。“冒涜的な言語”に関しては「知的障害者の差別用語"retard"の使用」、「FuckなどFワードが10回使用され、他にも"shit"、"piss"、"ass"、"bitch"など中程度の汚い言葉が出る」。“ヌードとセックス”は「裸のジョンの布団の下にケイトが潜り込むと彼はうめき声をあげ、ケイトがフェラチオをしていることが示唆される」、「エスターの部屋の壁に男女がセックスをしている絵が描かれている」、「それほど長いシーンではないものの、キッチンでケイトが背後からアナルセックスを受ける」、「ダニエルとその友人が『プレイボーイ』のページをめくる時、ヌードモデルが映る」などがある[18][19][20]。
イギリスの映画審査機関BBFCは、「激しい性描写、残酷な暴力場面と強い言葉遣いがある」として「15」(15歳未満の鑑賞は非推奨)に指定した[21]。日本も同様の扱いで映倫の審査により、15歳未満の入場・鑑賞を禁止するR15+に区分された[22]。
興行
2009年7月24日にアメリカで公開された『エスター』は2,000万ドルの製作費に対し、週末の興行収入第4位に登場して1,287万ドルを稼ぎ[1]、最終的に全世界で7,800万ドルもの興行収入をあげて成功を収めた[2]。
エスター役のファーマンは、映画公開後の2009年11月のインタビューで、無名の若手女優から一夜にして注目を浴びるスターになった体験を「完全に非現実的だったけど、とても楽しかった!」と語った。「街中に『エスター』の看板やポスターがあって、それを見つけた友だちが写真を撮って送ってくれたの。バリ島で休暇を過ごした友だちが、現地でも巨大な看板を見たと教えてくれて、何だかとても信じられなかった」と、ファーマンは反響の大きさを話している。映画館に『エスター』を観に行った時は、多くの人から写真をせがまれたり、サインを求められ、街のあちこちに自分の顔のポスターが貼られていることに驚いたという。また、この時のインタビューで「初めてファンレターをもらって、とても嬉しかった。幸運だったと思います」と喜びを話した[23]。
評価
レビューアグリゲーターのRotten Tomatoesによると、153件の評論のうち、56%にあたる85件が高く評価しており、平均して10点満点中5.49点を得ている[24]。 Metacriticによれば、25件の評論のうち、高評価は7件、賛否混在は11件、低評価は7件で、平均して100点満点中42点を得ている[25]。
『シカゴ・サンタイムズ』の評論家ロジャー・イーバートは、「『エスター』を観て初めて気づいたが、『オーメン』のダミアンは何と模範的な良い子だったのだろう。人間の女性がコンピュータの子供を産む『デモン・シード』も大豊作といえる映画だった。『ローズマリーの赤ちゃん』のローズマリーも、この子を産めたら幸せだっただろう。『エスター』は映画界でもっとも邪悪で凶悪な子を主人公にしたホラー映画だ。この映画には脱帽せざるを得ない。地獄の子供を描いた良質なホラーが見たいのなら、これがある。ただし自分のお子さんを連れて行くのは止めなさい。これは私からの助言です」と絶賛して、4点満点中3.5点を与えた[26]。
イギリスの大手新聞『ガーディアン』は、「パリス・ヒルトンが出演した『蝋人形の館』の監督作品と聞くと、あまり期待できそうもない映画と感じるだろう。だがヴェラ・ファーミガの素晴らしい熱演と、とんでもないどんでん返しにより、”邪悪な子供“のジャンル映画では、なかなか良い出来になっている。早熟な9歳の少女を引き取ると夫婦が言った時に、孤児院の修道女が見せる複雑な表情、奇妙なリボン、新しい両親のセックスを邪魔し、養父へ向ける特別な愛情など、エスターの正体に迫るヒントはあちこちにある」と肯定的なレビューを掲載し、星5つ中3つを付けた[27]。
『サンフランシスコ・クロニクル』のミック・ラサールも、「あまりにも下品で恥知らずで、そして面白い『エスター』は、サイコ・チャイルド・スリラーに求められる要素を全て持ち合わせている」と好意的なレビューを寄せた。ラサールは「『エスター』は単なるホラー映画ではなく、細部にまで気を配っている作品だ。エスター役のファーマンは、この映画に気高い精神を吹き込んでいる。エスターのロシア訛りの台詞が、かすかなものから威圧的なものへ変化して行く過程を感じ取って欲しい」と締めくくっている[28]。
『AVクラブ』 のキース・フィップスは「コレット=セラ監督がホラー映画の定型的なパロディを作ろうと思って取り組んだのなら、それは成功しているだろう。終盤にプロットのひねりによる展開がいくつかあるが、騒々しい音と悲鳴に翻弄され、深く考える時間はほとんどない」と皮肉めいたレビューを書いた[29]。
映画評論家キム・ニューマンは、イギリスの映画雑誌『エンパイア』に「古風なファッションセンスを持つロシアの少女エスターは、問題を抱えながらも思いやりのある家庭に引き取られ、優しい笑顔の影に邪悪さを見せるようになって行く。ファーマンの演技は不気味だが、観ているうちに、この小さな怪物に声援を送りたくなるだろう」と書き、「予想通りで、どこかで見たような展開だが、時々は面白い」と評して、5点満点中2点を与えた[30]。
『スラント・マガジン』のニック・ジャガーは、「エスターの狂気じみた行動から生まれるサスペンスは、軽薄で愉快な類のものだ。さらに悪いことに、夫妻が養子の経歴をきちんと調べないという穴だらけのプロットのためにサスペンスが上手く機能しておらず、結末も荒唐無稽で中身のないものに終わっている」と酷評し、以下のように続けた。「ファーマンは邪悪な子を好演しているが、結果としてこの物語は“外国の子供は信用できない”という寓話に収束し、効果的な恐怖演出がないことで、作品の価値が損なわれている」[31]。
出典
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- ^ “エスター”. WOWOW. 2020年5月30日閲覧。
- ^ ホラー『エスター』子役の現在の姿…前日譚でまさかの再演 - シネマトゥデイ(2021年11月4日)
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- ^ “Sarsgaard and Farmiga Join 'Orphan'”. Moviefone (2007年12月1日). 2025年11月11日閲覧。
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外部リンク
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