アーク溶接における二酸化炭素の働き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/07 01:48 UTC 版)
「アーク溶接」の記事における「アーク溶接における二酸化炭素の働き」の解説
軟鋼などの大量生産に用いられる溶接に用いるシールドガスとしては、アルゴンなどの不活性ガスは比較的高価で、経済的ではない。また、不活性シールドガスは清浄作用がないので、欠陥の原因になることがある。これらを解決するひとつの方法として考案されたものが炭酸ガス(CO2)によるシールドである。 CO2は高熱で分解し酸素と一酸化炭素に分かれる。これが電離してプラズマとなり、アークを形成する。一酸化炭素は鋼に対して還元性を示す(保護する方向に働く)が、酸素は酸化性、つまり鋼の性質を低下させる働きがある。このため、シールドガスに炭酸ガスを用いる場合は、溶接ワイヤの中に脱酸化性の元素(たとえば、MnやSiなど)を添加しておく必要がある。これによって溶融池内には酸化マンガンや酸化ケイ素が発生するが、これらはブローホールとはなり得ず溶融池表面に浮き上がり、スラグを形成する。ただし、溶接条件によっては溶接内部にスラグが入り込み、溶接欠陥を生じてしまうこともあので注意が必要である。また、CO2が高温下で分解する際は、結果として急激に体積が膨張し、さらにアークから熱量を奪うことになる。このときアークは周囲から冷却されて細く鋭くなり、狭い範囲に熱が集中しやすくなる。これを熱的ピンチ効果という。その結果、アークは溶滴を包まず、溶滴の下端より発生する。するとローレンツ力により溶滴が持ち上げられ溶滴は大きく成長した後、溶融池に移行する。この間もアークは途切れることなく発生し続けているので入熱の関係上母材に深い溶け込みができやすく、かつ速い溶接が可能になり、溶接対象物への熱影響が少なくなる。これらの現象は溶接に対して、スパッタの発生が多くなることや溶接欠陥、外観を悪くするという悪い要素と、溶け込みが深く、熱影響が少なく、速い溶接ができるという良い要素を与える。 なお、イオン化傾向の強いアルミニウムのような金属の溶接においてCO2はシールドガスとして適していない。発生した酸素に対して添加剤が機能できず、還元できないためである。 上記のようにCO2は活性であるが故に溶接中はアルゴンガスなどに比べて複雑な状態となるので、使用に際しては十分な知識と技量が必要になる。目的によってアルゴンガスと使い分け、あるいは併用することが推奨される。 二酸化炭素でシールドする溶接を炭酸ガスアーク溶接と呼ぶ一方、二酸化炭素とアルゴンガス両方を利用する溶接法があり、これを混合ガス・マグ溶接という。CO2が20%、アルゴンが80%の比率のシールドガスは混合ガス・マグ溶接における標準ガスとして使用されている。
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