アンセル・キースとの論争
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「ジョン・ユドキン」の記事における「アンセル・キースとの論争」の解説
1972年に出版した『Pure, White, and Deadly』は、一般の読者に向けて書かれたものであった。その主張は「砂糖は冠状動脈血栓症、肥満、虫歯、糖尿病、肝臓病、痛風、消化不良、癌に関与している」というものであり、ユドキンによる研究や、他の生化学研究、疫学研究に基づいている。アメリカ合衆国では『Sweet and Dangerous』という題名で出版され、ドイツ語、イタリア語、スウェーデン語、フィンランド語、ハンガリー語、日本語にも翻訳された。1986年には、本書の改訂版が出版された。 ユドキンはこの本の第一章を以下の結びの言葉で終えている。 「I hope that when you have read this book I shall have convinced you that sugar is really dangerous.」(「この本を読み終えたとき、読者の皆さんの中で『砂糖は間違いなく危険である』との確信が強まりますように」) 砂糖業界や加工食品の製造業者たちにとって、この本は到底受け入れがたいものであった。彼らはさまざまなやり方でユドキンの行動を妨害した。この本の最終章には、ユドキンの研究に対する資金の提供を妨害し、本の出版を阻止しようとした企ての例が列挙されている。「動物性食品に豊富に含まれる飽和脂肪酸(Saturated Fat)こそが心臓病の原因である」と断じていたアメリカ合衆国の生理学者、アンセル・キース(Ancel Keys)は、「砂糖こそがその真犯人である」とするユドキンの主張を一蹴するため、悪意ある言葉でユドキンの名誉を傷付けた。 キースは以下のように述べ、ユドキンをこき下ろした。 冠状動脈性心臓病(Coronary Heart Disease, CHD)を惹き起こす原因は砂糖にあるとし、その重大な影響について主張するユドキンには、理論的根拠も、実験に基づく証拠による裏付けも無いことは明白である。冠状動脈性心臓病を患っている人は砂糖を過剰摂取している、とする彼の主張はどこにも見当たらず、本人の主張よりも遥かに上質な方法論もしくは大規模な研究で反証されている。そして、ユドキンが提示した「証拠」は人口統計学(Population Statistics)と年次推移に基づいており、最も初歩的な批判的考察にも耐えきれないだろう。だが、宣伝活動は繰り返され続ける・・・。残念なことに、ユドキンによる見解は、とある商業的利益に訴えかけるものであり、信用を失っているこの主張の宣伝は、多くの国に住む一般大衆に向けて、周期的に何度も吹聴され続けるのだ。 ユドキンによる砂糖有害論に不信感を抱かせるキースの試みは奏功した。砂糖に対する警告は、1995年にユドキンが亡くなるまで真剣に受け止められることは無かった。 ユドキンの主張を裏付けるだけの「理論的根拠は無い」との批判を受けた一方で、アメリカ合衆国においてはユドキンの著書は売れ行きを伸ばした。その後、ジョージ・マッガヴァン(George McGovern)が発表した食事療法の目標の指針として、1977年に砂糖の摂取量を40%減らすよう推奨し、1980年に合衆国政府が発表した指針では「砂糖の過剰摂取をしないように」との記述がある。 ユドキンが示した砂糖の危険性とその証拠は、2013年1月に『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』(The British Medical Journal)で発表され、集中的に取り上げられた。
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