アクセルロッドに対する批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/09 14:11 UTC 版)
「囚人のジレンマ」の記事における「アクセルロッドに対する批判」の解説
政治学者のアクセルロッドは、無期限繰り返し囚人のジレンマの競技会を企画し、各分野の社会科学者からコンピュータ・プログラムを募って対戦させた。その結果、しっぺ返し戦略が優勝した。さらにアクセルロッドが参加プログラムについて進化シミュレーションを走らせたところ、生き残った戦略のなかでしっぺ返し戦略の数が最大であった。アクセルロッドはこれらの結果にもとづいて、しっぺ返し戦略は善良・報復・寛容・明快を兼ね備えており人間の協力全般にとって適切なパラダイムである、と主張した。この主張を鵜呑みにする社会科学者は少なくない。 アクセルロッドの研究は大きな反響を呼び、これ以降、進化生物学、社会学、政治学、コンピュータ科学などにおいて、さまざまな戦略を戦わせて、どの戦略が生き残るかをみるコンピュータ・シミュレーションが行われるようになった。このようなアクセルロッド流シミュレーション研究は、均衡の存在を数学で証明する本来のゲーム理論とほとんど関係がない。 アクセルロッドの研究はゲーム理論研究者の間で評判がよくなかった。ケン・ビンモアらゲーム理論研究者はアクセルロッドを次のように批判する。 アクセルロッドの研究のせいで、かなりトンデモない(astonishing)主張が広まってしまった。しっぺ返しはあらゆるシミュレーション環境で最適なのだとか、ひどいのになると、しっぺ返しは人類の複雑な社会関係における協力の基礎であり生物の社会的協力の進化を全て説明できるのだとかいう主張である。 アクセルロッドは、トーナメントの結果から長期的人間関係について一般的な教訓を導いているが、そのような一般化が可能であるという理論的根拠を示していない。根拠のない一般化は危険である。 アクセルロッドはうっかり有限繰り返し型の囚人のジレンマの進化シミュレーションを走らせてしまった。有限繰り返し囚人のジレンマは必ず裏切りあいの結果になるので、シミュレーションを走らせる必要はない。勝つ戦略は決して協力しない。。 アクセルロッドの得た結果はそのシミュレーション環境に依存している。アクセルロッドのシミュレーションで生き残った戦略は6つあり、そのうちしっぺ返し戦略の割合は1/6を少し超える程度にすぎない。戦略の初期数を変えると、生き残るしっぺ返し戦略の数は最大にならない。 アクセルロッドがしっぺ返し戦略に見出したという善良・報復・寛容・明快の利点なるものは、一つ一つ検討してみると、どれも妥当なものではない。 無期限囚人のジレンマで協力の可能性がありうることは、アクセルロッドの研究の何十年もまえにフォーク定理で証明されている。ゲーム理論を全く知らなかったアクセルロッドはフォーク定理の一部を再発見したにすぎない。 アクセルロッドはゲーム理論からの批判を意図的に無視し続けているという。 なお、ゲーム理論においてアクセルロッドの業績が全否定されているわけではない。ビンモアによると、アクセルロッドの貢献はただ一点。フォーク定理が存在を証明する無数の均衡の中から特定の均衡を選ぶことが重要であると気づかせてくれた点にある。進化ゲームによる均衡選択は今やゲーム理論の均衡選択問題で標準的なアプローチになっている。アクセルロッドはその先駆者である、という。
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