いのちのとりで裁判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/03 02:30 UTC 版)
いのちのとりで裁判(いのちのとりでさいばん)とは、2013年(平成25年)8月から順次開始された生活保護生活扶助基準引下げに対して、国は取り消すよう被保護者が全国各地で起こした裁判群の通称である。
概要
2013年(平成25年)1月にとりまとめられた「社会保障審議会生活保護基準部会における検証結果や物価の動向を勘案する」という考え方に基づき、必要な適正化を図るため見直しが行われた。生活保護費のうち、主に生活扶助の食費・被服費等、光熱費・家具什器等に充てる生活扶助基準を減額することが決定した。2013年(平成25年)8月から順次開始され、約3年かけて、現行(2012年度ベース)に対して基準生活費の10パーセントを減額、削減を実施した[1]。生活保護法制定以来、生活扶助が引き下げられたのは、2003年度及び2004年度で、その率もそれぞれ0.9%、0.2%。今回は前例のない大幅引下げだった。2014年(平成26年)以降、全国各地の1,000名を超える被保護者が、日本国憲法第25条が保障する生存権の侵害ではないかと裁判を起こした[2][3][4]。
引き下げの原因は2012年(平成24年)12月26日に成立した第2次安倍内閣による同年の第46回衆議院議員総選挙における「生活保護費の1割カット」の公約の強行である。その引き下げの主な根拠とされたのは、2008年(平成20年)から2011年(平成23年)にかけて4.78%も物価が下落しているとする「デフレ調整」であったが、この「デフレ調整」は専門家部会の審議を経ずに、部会の報告書が発表された後に厚生労働省の事務方が独自に開発した物価指標を用いて実施したものだった[5]。
被保護者等に対するバッシング
世間のではこの裁判の報道がなされるたびに、一部で「(被保護者は)裁判する暇があるなら働け」といった批判の声が起こった。行政書士の三木ひとみは「憲法はすべての人に『裁判を受ける権利』を保障している(日本国憲法第23条)」と語る[4]。受給者は経済的に余裕がなく、弁護士の多くは持ち出しで請け負っている。原告側が、複雑で巧妙な統計操作のカラクリを解明し、裁判所に対し説得力を持って説明できるようになるまでには、膨大な時間と労力を要した[4]。
判決
2025年(令和7年)6月27日、最高裁判所で「生活保護費の減額は違法」との判決が出された[6]。
脚注
- ^ 厚生労働省社会・援護局保護課 生活保護関係全国係長会議資料 2013年5月20日
- ^ 西山貞義 "生活保護基準引下げ違憲訴訟(いのちのとりで裁判)・富山地裁勝訴!" 富山中央法律事務所 2024年2月5日更新 2024年12月23日閲覧
- ^ 白井康彦"生活保護減額をめぐる訴訟が国の「統計不正隠蔽」の実態暴く" 週刊金曜日 2024年2月19日16:21更新
- ^ a b c 三木ひとみ"「生活保護受給者は裁判する暇があるなら働け」が“的外れ”な指摘である理由…提訴から10年超なお未解決「いのちのとりで裁判」が問いかけるもの【行政書士解説】" 弁護士JPニュース 2025年4月13日8:56更新 2025年4月22日閲覧
- ^ "断罪された「物価偽装」「生活保護基準引き下げは違法」の衝撃" 稲葉剛 毎日新聞 2022年6月20日更新 2024年12月23日閲覧
- ^ "「いのちのとりで」守られた 生活保護費減額から12年、勝訴に安堵" 毎日新聞 2025年6月27日21:31更新
関連項目
外部リンク
- いのちのとりで裁判のページへのリンク