九九式短小銃 7.7mm口径化の経緯

九九式短小銃

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/20 01:56 UTC 版)

7.7mm口径化の経緯

日露戦争終戦後(同戦争における主力小銃は三十年式歩兵銃)、日本軍では三八式歩兵銃を主力小銃として使用していたが、歩兵戦術が機関銃重機関銃軽機関銃)中心へ急速に移行すると、歩兵銃弾と機関銃弾の銃弾の共通化、弾薬補給効率の向上が緊急の研究課題となり、三八式歩兵銃を基にして何種類かの大口径小銃が試作された。また6.5mm三八式実包を使用した小銃では銃身膨張の問題を抱えていたが原因や解決策が見いだせないでいた。

1919年(大正8年)12月、来たるべき小銃口径改正に備え、将来採用されるべき7.7mm歩兵銃および騎銃の設計要領書が陸軍技術本部より提示された。同時に使用実包の設計要領も示され、実包全長80mm、薬莢全長58mm、リム径12.1mm(リムレス)等、この時点で後の7.7mm小銃用実包の薬莢外形がおおよそ決定された[1]。その後も幾度か7.7mm小銃の試験が行なわれたが、いずれも性能不足により採用には至らなかった。

1920年(大正9年)7月、新たな7.7mm航空機用機関銃弾薬の研究が始められ、前年に7.7mm小銃用として設計された実包がそのまま普通実包として、1925年(大正14年)に研究が始まった乙号遊動式機関銃(後の八九式旋回機関銃)と共に開発が行なわれた[2]。この7.7mm実包は、高Gの掛かる航空機用機関銃での作動の確実性を期すためにリム径を12.7mm(セミリムド)とした他はほぼ同仕様のまま、1931年(昭和6年)9月に八九式普通実包として採用された[3]

地上で使用される重機関銃については、欧米列強国が第一次世界大戦後に重機関銃の口径を概ね7.7mm付近としており、陸軍でも重機関銃の口径拡大について考慮していたが、1929年(昭和4年)10月に八九式旋回機関銃が採用されたことにより、重機関銃にも7.7mm口径を採用する機運が高まり、八九式実包を使用できるよう三年式機関銃を改修することとなった[4]。これにより、1933年(昭和8年)12月に九二式普通実包[5]が、1936年(昭和11年)3月にそれを使用する九二式重機関銃が採用された[6]。なお、1933年(昭和8年)6月30日の軍需審議会における応答事項では、弾薬が2種類になることに対し運用上の支障が懸念されたが、7.7mm弾による威力向上の利益のために弾薬補給等の多少の不便は忍ばざるを得ないと回答。また、小銃と軽機関銃の7.7mm化の企図については、重要な案件ではあるが諸般の事情により現在は研究は中止しており、射撃反動の緩和等の問題が解決すれば実現したいと回答した[7]。しかしながら、後年には重機関銃との弾薬の融通性がなく、弾薬の補給が困難であるとして、この7.7mm弾を使用できることが新小銃に対する要求に組み込まれた[8]

装甲車両に搭載される車載機関銃については、九一式車載軽機関銃の6.5mm口径は威力に乏しく軽装甲車にも対抗できない状況であるとして、1933年(昭和8年)8月より研究に着手し、1935年(昭和10年)9月の新車載機関銃の設計要領では、口径7.7mmで九二式普通実包を使用するものとされた。この試製車載重機関銃はセミリムドの九二式実包仕様で開発が進んでいたが、第1次、第2次試作銃共に動作性に問題があった。そこで、1937年(昭和12年)7月に完成したばかりのリムレス実包を、前回試験で最も動作不良の多かった試作銃と弾倉で使用した所、極めて良好に動作し、全く故障が発生しなかった。よって、以降の試験ではリムレス化した九二式普通実包を用い、ボルトもリムレス実包に対応する様改正した。1938年(昭和13年)3月に九七式実包[9]が、1938年(昭和13年)12月にそれを使用する九七式車載重機関銃が採用された[10]

歩兵が使用する小銃や軽機関銃については、満州事変第一次上海事変日中戦争支那事変)で対峙した中国国民革命軍等は、7.92mm弾(7.92mmx57IS)を使用するマウザー(モーゼル)系の漢陽88式小銃Gew88)やZB26軽機関銃等で武装していた。7.92mm弾では早くから徹甲弾が実用化されており、命中箇所によれば日本軍の装甲車軽戦車装甲を貫通することもあった。このため陸軍では、当時の欧米列強国の小銃弾に準じて、口径は7mm~8mm程度が好ましいとされ、こうした戦訓も後押しする形で、大正昭和と研究されてきた新小銃の配備が決定された。

こうして完成・採用されたのが九九式小銃・短小銃だったが、日中戦争の激化で動員がすすめられ兵士の数が急増したため三八式歩兵銃からの全面更新は不可能となった。結果として2種類の主力小銃が同時に存在したまま太平洋戦争に突入してしまった。なお、おおむね師団単位で使用銃器(口径)は固定化され、南方方面には7.7mm部隊を、既存の中国方面には6.5mm部隊をと区分けはされていたものの、日本軍全体においては弾薬補給上の混乱を招いた。さらに大戦中後期には南方戦線の戦況悪化のため中国方面の部隊を引き抜き戦力増強したこともあり、補給上の問題は悪化することとなった。

この様に種々の弾薬が作られていく中、1938年(昭和13年)12月、将来の戦略・戦術、製造補給、取り扱い等の諸点を考慮し、弾薬統制要領が陸軍技術本部第一部より提示された。その中では九二式実包のリムレス化も提起されていた[11]。この弾薬統制要領に従い、1940年(昭和15年)4月に九二式実包のリムレス化が決定され、合わせて九七式実包はこの新九二式実包に統合されることとなった[12]。この弾薬統制により、歩兵部隊向けの7.7mm弾は全て同一形状のリムレス薬莢に整理され統一された。しかしながら、管轄の異なる航空隊用の八九式実包は弾薬統制の対象に含まれておらず、依然としてセミリムド薬莢のままであった。

対物射撃

日本軍、特に満州に展開する関東軍にとって最大の脅威は、その機動性をもって退路および補給路を遮断する恐れのあるソ連の自動車化狙撃兵師団であった。遠距離の対人対馬射撃ではその小口径ゆえの命中率の高さから優位を確保した三八式歩兵銃であったが、中距離(200~400m程度)における自動貨車など軍用車両に対する対物射撃では、威力不足が顕著であった。満州の大平原で対車両戦闘を行なうという、より現実的な脅威に即した形で九九式小銃・短小銃は設計されている。

また中国軍との戦闘において中国家屋の土壁を遮蔽物として交戦した場合、中国軍の7.92mm弾は数発で土壁を撃ち崩したが、日本軍の小銃や軽機関銃の6.5mm弾では困難だったことからも、新型小銃の口径増大が求められた。

これらを踏まえて開発された九九式普通実包は、アルミ合金を鋳造してできた自動車エンジンのシリンダー部を貫通、破壊することが出来たとされる。[要出典]

三八式の狙撃銃型である九七式狙撃銃・三八式改狙撃銃では、腔線(ライフリング)のツイストが急であることも含めドリフト(偏流)しやすい性質の銃になっており、最初から狙撃眼鏡(九七式狙撃眼鏡)の縦軸目盛が斜めに入っているのに対し、九九式狙撃銃・短狙撃銃用の狙撃眼鏡(九九式狙撃眼鏡)は縦軸目盛が垂直になっている。[要出典]


  1. ^ 陸軍技術本部『小銃審査の件』大正8年~昭和13年」 アジア歴史資料センター Ref.C01007115500 
  2. ^ 陸軍技術本部『八九式旋回機関銃仮制式制定の件』昭和4年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001315300 
  3. ^ 陸軍技術本部『八九式旋回固定機関銃実包並同擬製弾仮制式制定の件』昭和5年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001240600 
  4. ^ 陸軍省『九二式重機関銃仮制式制定の件』昭和8年」 アジア歴史資料センター Ref.C12121818000 
  5. ^ 陸軍技術本部『九二式重機関銃弾薬九二式普通実包仮制式制定の件』昭和8年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001317900 
  6. ^ 陸軍技術本部『九二式重機関銃制式制定の件』昭和14年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001750800 
  7. ^ 陸軍技術本部第一部『昭和八年六月三十日軍需審議会に於ける応答事項』昭和8年」 アジア歴史資料センター Ref.C12121818200 
  8. ^ 銃砲課『九九式小銃外四点仮(準)制式制定及陸軍技術本部研究方針追加の件』昭和15年」 アジア歴史資料センター Ref.C01004909300 
  9. ^ 陸軍技術本部『九七式車載重機関銃弾薬仮制式制定の件』昭和12年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001625300 
  10. ^ 陸軍技術本部『九七式車載重機関銃仮制式制定の件』昭和12年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001630800 
  11. ^ 陸軍軍需審議会『弾薬統制要領規程の件』昭和14年」 アジア歴史資料センター Ref.C01004670200 
  12. ^ 陸軍技術本部『九二式重機関銃外一点弾薬中改正の件』昭和15年」 アジア歴史資料センター Ref.C01001857200 
  13. ^ 梅本弘 『ビルマ航空戦・上』 大日本絵画、2002年11月、p.344
  14. ^ 井川一久『日越関係発展の方途を探る研究 ヴェトナム独立戦争参加日本人―その実態と日越両国にとっての歴史的意味―』2006年、日本財団、42頁
  15. ^ 枪起机落:用步枪击落日寇飞机的八路军宋岭春中国中央電視台「科技博览」节目,2007年7月30日。
  16. ^ ポール・T. ギルクリスト「空母パイロット (新戦史シリーズ)」1992年、朝日ソノラマ
  17. ^ オア・ケリー「F/A-18の秘密 (新戦史シリーズ)」1992年、朝日ソノラマ
  18. ^ Walter, John (2006). Rifles of the World (3rd ed.). Iola, WI: Krause Publications. p. 33. ISBN 0-89689-241-7. https://books.google.com/books?id=Eq2Dnj4sDZIC&pg=PA33 
  19. ^ a b c 津野瀬光男『小火器読本』かや書房、1994年、91-93頁。ISBN 978-4906124060 
  20. ^ 伊藤眞吉「鉄砲の安全(その4)」『銃砲年鑑〈'10~'11〉』全日本狩猟倶楽部、2010年、117頁。ISBN 9784915426070 
  21. ^ 試製七.七粍歩兵銃 - 藤田兵器研究所
  22. ^ arisakatype99page - Carbines for Collectors.com
  23. ^ 試作一式テラ銃 - 25番
  24. ^ 小橋良夫『日本の秘密兵器(陸軍篇)』学習研究社、2002年
  25. ^ TAKI'S HOME PAGE IMPERIAL JAPANESE ARMY PAGE - Rifle
  26. ^ Experimental 99 Paratrooper Rifle - Military Surplus.com






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