タカラダニ
タカラダニの体長は1mmほどで、体の色が赤いため目立つ。全国各地で見られ、毎年4月から7月頃にかけて大量に発生することがある。しかし見つかるのはすべてタカラダニのメスであるため、単為生殖が行われていると考えられる。
タカラダニは主に屋外に生息するが、洗濯物や布団に付着して屋内に侵入することがある。タカラダニの人間への被害は日本では報告されていないが、小さく赤い体が大量に発生する様子は見ていて気持ちの良いものではなく、不快害虫に分類される。ダニが潰れると赤い体液で衣服などが汚れるため、発生時期には注意が必要である。
タカラダニは主に花粉やコケを食べて生きていると考えられる。タカラダニ科のダニは昆虫に寄生して生きていく種も多いが、カベアナタカラダニは昆虫に寄生した状態で見つかったことはない。
タカラダニの生態には不明な点が多く、研究が進められている。
たから‐だに【宝×蜱】
タカラダニ
タカラダニ
この群のグループ | 特徴 タカラダニは、「宝」ダニの意味で、この仲間には鮮やかな赤色を呈する種類が多くいます。この仲間は、自由生活性で、幼虫期には昆虫やクモなどに寄生しているものが多く、それらは寄主の体液を吸って満腹になると地上に落ちて若虫になります。 近年、家屋周辺でタカラダニが時々多数発生して問題になっています。従来ハマベアナタカラダニとされてきましたが、幼虫の発見によりまったく別種であることが判明し(芝,2001)、現在ではカベアナタカラダニ Balaustium murorum (HERMANN)と分類されています。この種類の生態についてはまだ解明されていません。体長 1mm前後の赤橙色のダニです。 4月の終わり頃から6月にかけて、ビルの屋上や壁面に大量に出現し、素早く動き回り、屋内にも侵入します。突然大発生して、暫くするとまた見かけなくなります。 |
カベアナタカラダニ
カベアナタカラダニ | ||||||||||||||||||||||||
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カベアナタカラダニ Balaustium murorum | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Balaustium murorum (Hermann, 1804)[1] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
Trombidium murorum Hermann, 1804[2] |
カベアナタカラダニ(Balaustium murorum)は、汎ケダニ目タカラダニ科アナタカラダニ属に分類されるダニの一種。
特徴
日本では北海道から沖縄まで全域に分布する。体長1mm前後と比較的大型で、全身が赤色から赤橙色なのでよく目立つ。関東地方では4月下旬から6月にかけ、ビルの屋上や住宅のベランダなどコンクリート表面で大量発生する事がある。
動きが素早く真っ赤な体色から気味悪がられ、また条件が良好な屋外であれば自転車のサドルや洗濯機の胴部などにも大量発生し、それらを体色によりまだらに赤く染めてしまうことから、1980年頃より不快害虫として駆除対象にされている[3]。
一方でカマキリの幼虫やテントウムシなど小型肉食昆虫の捕食対象でもあり、場合によってはこれらも同時に発生することがある。
分布
ヨーロッパ、北アメリカ、日本に分布する[4]。人の移住によって分布を拡大したとされており[4]、日本個体群をヨーロッパからの移入種とする説もある[5]。
分類
1804年にフランスの医者・博物学者であるジャン=フレデリック・エルマン[6]によって記載された[4]。
日本やオーストリア個体群の分子系統解析から、日本個体群はオーストリア個体群に近縁な系統と遺伝距離の離れた複数の系統に分かれる結果が得られており、日本でカベアナタカラダニとされるダニ類には少なくとも3つの未記載種(隠蔽種)が含まれていることが示唆されている[5]。
生態
あまり詳しいことは知られておらず、2001年に幼虫が発見されるまでは同属のハマベアナタカラダニと間違われていた。関東地方では3月末に幼虫が見られ、4月下旬から5月中下旬に成虫が大量発生し、7月にかけて漸減してゆく事が確認されている[7][8]。
食性は雑食で、花の花粉や小型の昆虫を摂食する[9]。タカラダニの名は、セミに寄生している幼虫を、セミが宝を抱えていると見なした事に由来するとされる。
哺乳類は摂食対象ではないためヒトを「刺す」ことはないが、潰して体液に長時間接触すると皮疹を生じるおそれがある[10]。また、吻の構造が細長いため(払いのけるなどして)偶発的にヒトの皮膚に刺さって皮疹をおこした虫咬例がある。本種では札幌で1例、アメリカやカナダに分布する別の種で4例の皮疹が報告されている[11]。
コンクリート表面に棲む理由は、コケなどの地衣類が住処と食物を提供する、春先で花粉が大量に付着して餌が豊富、天敵が居ない、などが推測されている。
繁殖
年1回の単為生殖と考えられ、コンクリート壁の隙間や壁の割れ目に産卵する。卵は光沢ある赤褐色の楕円体で、長径約 0.2 mm、短径約 0.16 mm[12]。
脚注
- ^ Mąkol, J. (2010). “A Redescription of Balaustium Murorum (Hermann, 1804) (Acari: Prostigmata: Erythraeidae) with Notes on Related Taxa,” Annales Zoologici, Volume 60, Number 3, Museum and Institute of Zoology, Polish Academy of Sciences, Pages 439-454. https://doi.org/10.3161/000345410X535424.
- ^ Hermann, J.F. (1804). Mémoire Aptérologique, 144+9 pp., F.L. Hammar, Strasbourg.
- ^ タカラダニをご存知ですか? 京都府保健環境研究所
- ^ a b c 大野正彦「カベアナタカラダニの生態と防除 : 新たな知見を加えて (特集 研究調査事例)」(PDF)『Pest control Tokyo : (公社)東京都ペストコントロール協会機関誌』第70号、東京都ペストコントロール協会、2016年1月、5-9頁、NAID 40020721602。
- ^ a b Shimpei F. Hiruta, Satoshi Shimano & Minoru Shiba (2018). “A preliminary molecular phylogeny shows Japanese and Austrian populations of the red mite Balaustium murorum (Acari: Trombidiformes: Erythraeidae) to be closely related,” Experimental and Applied Acarology, Volume 74, Pages 225–238. https://doi.org/10.1007/s10493-018-0228-0.
- ^ ジャン・エルマンの子。
- ^ カベアナタカラダニの生態に関する観察事例 東京都健康安全研究センター
- ^ 島野 智之,メーリングリストアーカイブ 農林水産研究情報総合センター
- ^ 芝 実,原色ペストコントロール図説第V集(2001)p52-57,日本ペストコントロール協会
- ^ 大野正彦, 花岡暤, 関比呂伸, 大貫文「カベアナタカラダニの短期接触による皮膚障害発生の可能性」『都市有害生物管理』第1巻第2号、日本家屋害虫学会、2011年12月、111-117頁、ISSN 21861498、NAID 110008798931。
- ^ 芝 実,第44回全国環境衛生大会講演集(2000/11)p29,日本環境衛生センター
- ^ 大野正彦, 関比呂伸, 花岡暤「カベアナタカラダニBalaustium murorumの産卵場所」『都市有害生物管理』第5巻第1号、都市有害生物管理学会、2015年、7-13頁、doi:10.34348/urbanpest.5.1_7、ISSN 2186-1498、NAID 130007801534。
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