ベータマックス ベータマックスの概要

ベータマックス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/30 17:57 UTC 版)

ベータマックス
Betamax、Beta(β)
メディアの種類 磁気テープ
記録容量 K-30(βI:30分)
K-60(βI:60分)
L-85(βII:20分、βIII:30分)
L-125(βII:30分、βIII:45分)
L-165(βII:40分、βIII:1時間)
L-250(βII:60分、βIII:1時間30分)
L-330(βII:80分、βIII:2時間)
L-370(βII:90分、βIII:2時間15分)
L-500(βII:2時間、βIII:3時間)
L-660(βII:2時間40分、βIII:4時間)
L-750(βII:3時間、βIII:4時間30分)
L-830(βII:3時間20分、βIII:5時間)
フォーマット アナログ
NTSCカラー、EIA標準方式)
読み込み速度 40.0 mm/s(βI・βIs)
20.0 mm/s(βII)
13.3 mm/s(βIII)
読み取り方法 水平磁気記録 回転2ヘッド・ヘリカルスキャンアジマス方式
書き込み方法 水平磁気記録 回転2ヘッド・ヘリカルスキャンアジマス方式
書き換え回数 随時オーバーライト
策定 ソニー
主な用途 映像等
大きさ 156×96×25 mm(テープ幅:12.65 mm(1/2インチ
上位規格 ED Beta
関連規格 BETACAMVHS(競合規格)
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ベータマックスのビデオデッキ(下から1、2段目の各1台と、右側最上部の1台)
テープサイズの比較。
Betamax(上)とVHS(下)
ビデオデッキの内部構造(SL-HF150)
ベータカム(左)とベータ方式(右)のビデオテープ

概要

本格的家庭用規格として、VHSと共に大々的に販売されたカセット型ビデオテープレコーダ(VTR)規格である。1号機(SL-6300)は1975年4月16日に発表され、同年5月10日に発売された。

これ以前の家庭用VTR規格はいずれも本格的な普及を見なかったが、低価格での販売が可能になった事も含め、ベータマックスのヒットにより家庭用VTR市場が開拓され、その初期段階ではVHSよりも高いシェアを占めていた。しかし、VTRの世帯普及率が高まる中でVHSと業界を二分した熾烈な販売競争(ビデオ戦争)に敗れ、1984年度をピークに販売台数が減少に転じ、ついに2002年、規格主幹のソニーも生産を終了した。ソニー製ベータマックスVTRは日本国内で累計約400万台(全世界で累計約1,800万台以上)が生産され、ビデオカセットはピーク時(1984年度)には年間約5000万巻が出荷されていた[1][2]

VHSに対する劣勢が顕著となった1980年代前半には、矢継ぎ早に複数の技術革新が行われた。たとえばカメラとデッキを一体化したカメラ一体型VTR「ベータムービー」の発売(1983年)、音声FM記録による音質の大幅な改善を図ったBeta hi-fiの発売(1983年)、FMキャリアを高周波数化することで水平解像度の向上を図ったHi-Band Betaの発売(1985年)などがそれである。しかし、いずれもVHS陣営が迅速に対抗規格・対抗機種を投入したために劣勢を覆すことはできず、むしろ販売台数の減少に拍車がかかった。そして1987年、VHS陣営がS-VHSを投入するに至って、ついに画質面でも追い抜かれ、挽回は絶望的となった。1987年にはメタルテープ使用の高画質新規格であるEDベータを発売して画質面で再び優位に立ったが、マニア向けのニッチ商品の域を超えるものではなかった。

ソニー自身が1988年にVHSビデオデッキの製造販売に参入して以降もベータマックスの生産・販売は継続されたが、新規機種の投入は減ってゆき、2002年8月27日、構成部品の調達が困難になったこともあり、生産終了を発表し、新品は市場から姿を消した[1]

ベータ規格の代名詞とも言える「ベータマックス」という名称はソニーの商標として登録されており[注釈 1]、東京芝浦電気(現:東芝)、三洋電機アイワ(初代法人)、新日本電気(NEC:日本電気ホームエレクトロニクス)、ゼネラル(現:富士通ゼネラル)、パイオニア(ホームAV機器事業部、現:オンキヨーテクノロジー〈開発・製造元〉/ティアック〈発売・販売元〉)などが参入した時点でシステム全体の名称は「ベータ方式」「ベータフォーマット」などとされていた。東芝・三洋電機はVコード方式からベータ方式に鞍替えしたため、参入当初のカタログ等には「ベータコード方式」の表記を使用していた。自社で開発・製造を行っていたのはソニー・東芝・NEC・三洋電機・アイワの計5社で、ゼネラル・パイオニア等の他各社はOEM供給による販売を行っていた。

日本国外ではSearsZenith Electronics英語版RadioShack、TATUNG(台湾大同公司中国語版)、大宇電子といったメーカー・ブランドでもベータ方式に参入し販売されていたが、ソニー以外の各社は1986年までにVHSの生産・販売に移行した。オーディオメーカーの日本マランツ(現:ディーアンドエムホールディングス/マランツ コンシューマー マーケティング)も三洋電機からのOEM供給により日本国外でベータフォーマットのデッキを販売した実績がある。

VHSと比較した特徴

VHS規格と比較した特徴として、下記のような特徴を持っている。

  • カセットが小さい。ソニーの社員手帳(文庫本)サイズ[3]
  • テープとヘッドの相対速度が大きく、画質面で有利(VHSの5.8m/sに対し、βI:6.973 m/s、βII:6.993 m/s)。
  • 初期の機種でも特殊再生が行えた。
  • テープがデッキに挿入されている間は常にメカにローディングされている「フルローディング」が基本である。このため早送り・巻き戻し動作と再生動作の切替が俊敏であり、操作性に優れていた。また、テープの情報が常にヘッドから読み取れるため、テープカウンターを秒単位で時間表示する「リニアタイムカウンター」も搭載できた。これに対してVHSは、再生時だけテープをローディングする「パートタイムローディング」が基本であった[注釈 2]
  • 常用の標準画質録画(βIIモード)において、L-830テープで200分録画できた。
    • VHSの最長テープは長年T-160(標準モードで160分)だったため、β最末期に至るまで残された数少ないアドバンテージのひとつだった。ソニーのベータ撤退から更に下り、VHS自身も終焉の見え始めた頃になってT-210が発売され、ようやく覆された。
  • 長時間録画モード(βIII)の録画時間ではVHS(3倍モード)の方に分があったが、画質ではβIIIの方が遥かに優れていた。
    • VHSの3倍モードの画質は1987年のS-VHS導入を皮切りとして90年代に様々な技術的改良が行われて実用に耐えるレベルとなっていったが、その頃にはすでにベータは市場から事実上撤退していた。
  • テープのリーダー(先端・終端)部分はアルミテープになっており、センシングコイルにより先端と終端を検出、自動停止するためセンサーの耐久性に優れ、巻き戻しや早送り時にテープ自体を傷めない構造となっている。なおVHSビデオ規格はリーダー部分が透明になっており、光検出により自動停止する。この光検出手法はテープの作成が安価になる反面、フォトトランジスタの耐久性の問題、カセットハーフの構造自体を変えにくい(ハーフの色や確認窓を変えられない)ためデザイン面で制約が出るなどの欠点があった。ベータテープには当初からグレーや白、藍色などのハーフが存在したが、VHSテープが1990年頃まで黒しか発売されなかったのはこのためである(しかし、後にカラーカセットでも不透明ならば光検出に問題ないことが判明している)。

値段がそれぞれ、60分用テープが4500円で30分用テープが3000円となり、性能的にも優れたものだったが、VHSより部品点数が多く、調整箇所も高い精度を要求される構造により、家電メーカーにとって家庭用ビデオの普及期に廉価機の投入が難しかったという欠点も持ち合わせていた。東芝や三洋電機からは思い切って機能を省いた廉価機も初期から発売されていた。とは言え規格主幹のソニーが性能重視の姿勢で、廉価機の開発が出遅れたこともあって思いの外シェアを伸ばすことができなかった。それゆえに「性能が優れているものが普及するとは限らない例」として、初期のレコードの例[注釈 3]とともによく引き合いに出されることも少なくない。

しかし、ベータ方式を基に策定された放送用規格「ベータカム」は、20年以上に渡り世界の放送業界のデファクトスタンダードとなり、デジタルベータカムHDCAMなど、再生互換性を持つ製品バリエーションを増やしながら2016年3月末まで販売されていた[4][5]。また、ベータ方式の録画用ビデオテープソニーマーケティングが運営するソニーストアで注文可能だったが[6]、この録画用ビデオテープも2016年3月をもって出荷終了することがアナウンスされた[2]

2009年、「VHS方式VTRとの技術競争を通じて、世界の記録技術の進歩に大きく貢献した機種として重要である。」として、家庭用ベータ方式VTR1号機「SL-6300」が国立科学博物館の定めた重要科学技術史資料(未来技術遺産)として登録された[7]

名称

『Betamax』の名称は、記録方式として磁気テープ上の未記録領域であるガードバンドを廃し(βIsモードにはガードバンドあり)、記録再生ヘッドのアジマスを互い違いにずらしてフィールド単位の信号を隣接して記録する「アジマス記録方式」が「情報を詰めてベタに記録している状態」から通称「ベタ記録」と開発現場で呼ばれていたこと、テープローディング時の形状がβの字に似ている、英語の「better(ベター、より良い)」に響きが通じ縁起が良い、などから「ベータ」案が提言され、それに最高・最大という意の「MAX」を組み合わせて命名された[3]


注釈

  1. ^ 「BETAMAX」は1974年9月6日出願、1979年11月30日登録(第1398683号)、2019年11月30日登録後の本権利抹消(存続期間満了)。
  2. ^ ソニー・ビクター・松下電器のクロスライセンス契約の関係もあり、ベータも低価格機種でパートタイムローディングを採用した機種があった一方、VHSでは1990年代以降、中位機種以上を中心にリニアタイムカウンターとフルローディングの採用が増加し、ソニーもVHS・S-VHS参入後に搭載した。
  3. ^ 蓄音機が初めて開発されたときは状の記録媒体が使われていたが、量産が困難なために平面で円形のレコードになった。しかし、こうすることにより内側と外側で走行速度の差による音質、特に高音域再現性の差異が生じることになった。
  4. ^ βIとβIsはテープ速度が同じではあるが、βIはリニアエンファシス、βIsはβII/βIIIに類似したノンリニアエンファシスを採用しており、βIで記録したテープをβIsモードで再生するとスミアが発生する。βI再生のみ対応している古いVTRでβIs記録されたテープを再生するとハイバンド記録されていることから反転現象が発生し、エンファシスも異なることから正常な信号としては再生されない。またβIsは特殊再生用ヘッドの転用を前提としているため、βIとはトラック幅も異なっている。
  5. ^ 海外ではSuperBetaと称していた。
  6. ^ VHS規格でメタルテープを使用したものにはW-VHSがあるが、テープ価格は同様に高止まりした。
  7. ^ Beta hi-fiで記録したテープは、ノーマルベータの映像記録領域にhi-fi音声が一部重なるためノーマルベータ機種で再生した場合に再生画像に帯ノイズが出る。Hi-Band記録のテープは磁気情報量が多いため、Hi-Band非対応の機種で再生した場合に黒い尾を引くようなノイズ(反転ノイズ)が出る場合がある。Hi-Band対応機ではEDベータを除く全ての規格が、EDベータ機ではベータ全フォーマットの再生が可能である。
  8. ^ 1988年にはソニーもVHSを併売開始したが、旧来のベータユーザーへの不安払拭を目的とした広告を行っており、その際は「ソニーはベータマックスをやめません。ご信頼におこたえします。」とストレートな表現が為されていた。
  9. ^ 1988年にソニーもVHSを併売開始し事実上ベータが敗退した際に、先のサトウサンペイは当時朝日新聞に連載していた漫画「フジ三太郎」にそのベータ敗退に失望する事をネタにした作品を掲載したことがある(朝日新聞1988年1月13日付)。

出典

  1. ^ a b ソニーベータマックスVTRをご愛用のお客様へ、ソニー、2002年8月27日
  2. ^ a b c ベータビデオカセットおよびマイクロMVカセットテープ出荷終了のお知らせ、ソニー、2015年11月10日
  3. ^ a b Sony History 第2部 第1章 ビデオもカセットに、ソニー
  4. ^ プロフェッショナル/業務用製品情報 HDCAM VTRラインアップソニービジネスソリューション
  5. ^ ソニー製業務用ハーフインチVTRおよびハーフインチカムコーダー販売終了のお知らせ、ソニービジネスソリューション、2014年10月6日
  6. ^ ベータビデオカセット 商品一覧 - ウェイバックマシン(2015年11月23日アーカイブ分)、ソニーストア
  7. ^ a b ベータ方式VTR、デジタルカメラ試作機他、22件の重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)の登録と登録証授与式について国立科学博物館、2009年10月1日
  8. ^ 廃止JEITA規格について、社団法人電子情報技術産業協会、2007年9月
  9. ^ 日本工業標準調査会標準部会電子技術専門委員会(第15回)(書面審議)議事要旨、経済産業省、2005年11月29日
  10. ^ 高音質を実現したBetahi-fi
  11. ^ a b c d e Sony History 第2部 第2章 規格戦争に巻き込まれた秘蔵っ子、ソニー
  12. ^ a b 落合昭雄「科学館収蔵品にみる規格と業界標準」 (PDF) 千葉県立現代産業科学館 研究報告第11号 2005年3月
  13. ^ 岩本敏裕「VTR産業の生成 : 製品中核技術に焦点を当てた日本企業の競争優位」『アジア経営研究』第15巻、アジア経営学会、2009年、121-130頁、doi:10.20784/jamsjsaam.15.0_121ISSN 13412205CRID 1390001288106513536 
  14. ^ 大曽根収「VHS世界制覇への道」 (PDF) 第6回東洋大学経営力創成研究センター・シンポジゥム、2003年11月
  15. ^ a b 田原総一朗×辻野晃一郎(グーグル日本法人前社長)「なぜソニーは凋落したのか」『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』著者に訊く 第1回講談社『現代ビジネス』「田原総一朗のニッポン大改革」、2011年1月19日
  16. ^ 大高敏男『史上最強図解 これならわかる!機械工学』(初版)株式会社ナツメ社、2014年、25-26頁。 
  17. ^ 岡田斗司夫 『オタク学入門』
  18. ^ ソニー、ベータVTRの生産終了を発表。残り2,000台! テープは生産継続、Phile-web、2002年8月27日
  19. ^ a b 溝尻真也「ビデオテクノロジーの歴史的展開にみる技術 / 空間 / セクシュアリティ : 1970年代日本におけるビデオ受容空間とそのイメージの変遷」『愛知淑徳大学論集. メディアプロデュース学部篇』第2号、愛知淑徳大学メディアプロデュース学部、2012年3月、40頁、CRID 1050282677540705536hdl:10638/5175ISSN 2186-2265 
  20. ^ 【裏CES】Blu-ray対HD DVDの戦いを違う側面から調べてみた、日経BP Tech-On!、2007年1月18日
  21. ^ 米国でもBlu-ray Disc版アダルト・ビデオが登場,CDGirls社が発表、日経BP Tech-On!、2007年4月10日
  22. ^ ベータマックス事件の概要文部科学省文化審議会著作権分科会、2007年10月12日
  23. ^ Sony History 第2部 第20章 濡れ衣だったダンピング容疑、ソニー
  24. ^ ASCII 1983年10月号, p. 95.





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