落書き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/13 04:41 UTC 版)
概要
この行為、またはそれによって書かれたものは、多くの場合において、第三者にしてみれば意味が無く、財産の所有者にとって、損害をもたらすものである。割れ窓理論によって、更に治安の悪化を招く[1][3]。
紙が貴重であった時代くらい、古い時代に書かれた場合でのみ、民俗学などに於いて当時の風俗、文化を知る上で大きな手掛かりとなるケースもある。
幼児・児童が主に家庭内や親族の所有物に行うモノも「落書き」と称されるが、学生や成人が他者の財産を無許可で毀損する「落書き」とは意味の異なるモノである[4]。
古典における落書き
語源としては、古くは落書(らくしょ、おとしがき)と呼ばれる、特定の誰かを揶揄したり風刺する意図で、対象人物の家の門や壁に貼られた、またはわざと目に付く場所に落とされた匿名文章の様式が存在したが、恐らくこれが今言うところの落書きになったとみられる。
日本には古くから「へのへのもへじ」や「ヘマムシ入道(またはヘマムシヨ入道)」等の文字遊びとしての落書きが存在し、今でもこれを描く人も見られる。(ヘマムシ入道に関しては、広辞苑の同項に図が見られる)現在にも伝わっている落書には、建武の新政における混乱を風刺した『二条河原の落書』が知られている。
古代ローマにおける落書き
ヴェスヴィオの噴火により埋没したポンペイでは、古代の町並みをそのままの姿で見ることができる。こうして現代に残った古代の建物の壁面には多数の落書きが残されており、古代ローマ時代にはどの町にも同様の落書きがみられたと考えられている。
落書きのなかには、公職立候補者の選挙の際に各建物に大書された推薦や誹謗の落書きや、剣闘士試合の告知があり、こうしたものは専門の業者の手によって書かれたと考えられている。他方で、酒場の戯言や恋人同士の伝言など一般人の手によると思われる落書きも多く、ここから当時の庶民階層の識字率の高さを指摘する意見もある。[5]
アンコールワットの侍の落書き
アンコール・ワット遺跡には、寛永9年(1632年)に同地を訪れた江戸初期の武士・肥前松浦藩士の森本右近太夫が筆と墨で残した落書きが見られる。当時、日本の商人や浪人たちが多数東南アジアに住んでおり、こうした人々によってアンコール・ワットは「祇園精舎」の跡地であるという誤った情報が日本に伝わり、多くの人々が海をわたり祈りのために訪れた。アンコール・ワットはこの落書きが書かれた後に一旦忘れ去られ、1860年にフランス人学者のアンリ・ムーオにより再発見された。
「父母の菩提(ぼだい)のため、数千里の海上を渡り…」と記された森本右近太夫の記念の落書きのほか、十数箇所の日本人の落書きが1960年代までは残っていた。一度ポル・ポト派の手によってペンキで塗り潰されていたが、現在では森本右近太夫の落書きはペンキの風化によって再び(部分的ではあるが)読めるようになっているという。2003年11月21日には右近太夫の15代目の子孫がこれに対面を果たした。
南米の古代文明における落書き
グアテマラのマヤ遺跡ティカルの建物からは、草ぶき屋根の神殿や輿に乗った貴族などを描いた落書きが発見され、当時の社会や生活の様子を描いた興味深いものとして知られている。
ロンドン塔の落書き
英国のロンドン塔は建築の約1080 - 1100年代以降その長い歴史の中でテムズ川の防御を担うと共に、英国王の居城としても、その一部は牢獄(身分が高い人では、使用人を置くことも許される、それなりに恵まれたものではあったが)としても利用されていた。このため随所に関係者や収容されていた者の落書き(石や漆喰に彫り込んだもの)が残されている。その中には当時の権力闘争に敗れた著名人(権力者)の落書きとするにも余りに緻密なメッセージが見られる。
被曝伝言・被災伝言
広島県広島市の広島市立袋町小学校は被曝建造物として校舎の保護活動[6]が行われていたが、老朽化により2000年8月7日より解体作業が行われた。この際に黒板の下などから当時の、避難した人の消息を伝える数多くの被曝伝言が発見されている。現在では切り取られた壁面などが平和教育用の資料として保存・公開[7]されている。
また震災等の大規模災害では通信網の分断や情報の混乱が発生し、家族と離れ離れになる人も出てくる。阪神・淡路大震災では、行方不明者や尋ね人の情報が避難所として利用されていた学校施設の壁に掲示・または書き記された。現在では当時の資料として写真の形でその多くが記録されている。
ベルリンの壁の落書き
1961年から東ドイツ政府は東西ベルリンを遮断し有刺鉄線を、のちに石壁を西ベルリンを囲むように張り巡らせ、1975年にはコンクリートの155kmに及ぶ壁が完成した。東側からは幅100mの無人地帯のため立ち入ることができなかったが、西側からは接近することができたため、壁の建設をなじり撤去を求める政治的な落書きが出現するようになった。やがてさまざまなメッセージや色鮮やかなストリートアートが西側の壁を彩ることになった。
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落書きが多かった西ベルリン側の壁
郡山八幡神社の落書き
郡山八幡神社の本殿解体修理時に、木材に木片が打ち付けられているのが発見された。そこには永禄2年(1559年)8月11日の日付とともに「其時座主ハ大キナこすてをちやりて一度も焼酎ヲ不被下候(くだされずそうろう) 何共めいわくな事哉(ことかな)」(今回の施主はたいへんけちで一度も焼酎を振る舞ってくれなかった。なんともひどい話だ。)と書かれており、施主に対する愚痴を綴っただけの落書きであるが「焼酎」の語を使用した最も古い文献とされている。落書きがされている板は頭貫と呼ばれる水平材であり、打ち付けられている状態では見えないようになっていた[8]。
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「焼酎」の語が使用された最古の文献とされる落書き
インターネットでの「落書き」
「価値のない情報が氾濫する場」という意味で、電子掲示板に書かれる内容を、「便所の落書き」に例えることがある。由来としては、新世紀エヴァンゲリオンの庵野秀明監督が、インターネット上のチャット通信について「便所の落書き」と批判したことにある[9]。また東芝クレーマー事件において筑紫哲也が自身の番組中、インターネット上の情報を、「かなり恣意的で、トイレの落書きに近い、などという酷評すらあります」と報じた[10]。
インターネットの普及によって、電子掲示板や個人・団体のウェブサイト上にも、様々な落書きがみられる。荒らし行為によるものから、特定個人・団体に対する中傷もあり、中には訴訟事例に発展する事例も多い。意図してそのようなモノを公開するのは論外と言えるが、他方では意図せずそうなってしまうケースもあるため、注意が必要であると共に、掲示板管理者などにより、一定のガイドラインが示されている場合も見られる。
- ^ a b フジテレビ系(FNN). “コロナ禍「原宿」は落書き増加 渋谷区「描かれたらすぐ消す!」(フジテレビ系(FNN))”. Yahoo!ニュース. 2021年5月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月12日閲覧。
- ^ “文化財なら罰則アップ、悪質なら5年以下の懲役刑も!-落書き:トラブル脱出の知恵”. PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2010年5月4日). 2024年4月13日閲覧。
- ^ a b FNNプライムオンライン. “「落書き消します」渋谷区がコロナ禍で増える落書きに専用窓口を設置…安心安全な街をアピール”. www.msn.com. 2021年5月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月12日閲覧。
- ^ a b “子どもの落書きが止まらない!対処法をご紹介!|ベネッセ 教育情報サイト”. ベネッセ 教育情報サイト. 2021年5月12日閲覧。
- ^ 参考文献: NHKスペシャル ローマ帝国 2 ポンペイの落書き、ポンペイ・グラフィティ―落書きに刻むローマ人の素顔 / 中公新書
- ^ ヘルプ!広島市立袋町小学校被爆校舎(西校舎)アーカイブ
- ^ 袋町小学校平和資料館
- ^ 三上喜孝『落書きに歴史をよむ』吉川弘文館、2014年。p4
- ^ 1996年 - 97年頃の発言。スキゾ・エヴァンゲリオン、パラノ・エヴァンゲリオンなどを参照。
- ^ News23多事争論(1999年7月15日のインターネットアーカイブキャッシュ)
- ^ a b “玉川徹氏、「落書き」動画投稿者に憤慨「犯罪でしか自己顕示欲を満たせない…なんてつまらない人間」”. スポーツ報知 (2024年3月12日). 2024年4月13日閲覧。
- ^ a b “謎の「エビチリ」渋谷・下北沢で迷惑落書き急増 犯行の瞬間を直撃すると「書きたい場所に書いているだけ アートなんで」(めざましmedia)”. Yahoo!ニュース. 2024年4月13日閲覧。
- ^ a b 「バンクシー」消した地下鉄、判断は適切だった? 欧州の鉄道、「落書き」の被害は深刻な問題 | 海外 | 東洋経済オンライン
- ^ “いたずらでは済まない!落書きは犯罪です!|熊取町”. www.town.kumatori.lg.jp. 2024年4月13日閲覧。
- ^ “落書きは犯罪です | 落書き対策 | 渋谷区ポータル”. www.city.shibuya.tokyo.jp. 2024年4月13日閲覧。
- ^ a b 藤沢市. “まちから落書きをなくしましょう!”. 藤沢市. 2024年4月13日閲覧。
- ^ 海外邦人事件簿|Vol.06外務省
- ^ 神奈川大生、ケルン大聖堂に落書き ツイッターで発覚朝日新聞
- ^ “落書きアート消した開発業者に賠償命令7億円超、米NY”. AFP BB NEWS. フランス通信社 (2018年2月14日). 2018年2月19日閲覧。
- ^ The Legends of "Kilroy Was Here"
- ^ a b c 「<落書き>伊紙「あり得ない」 日本の厳罰処分に」『毎日新聞』2008年7月1日
- ^ 「ハートマークに相合い傘 落書きだらけのイタリア大聖堂」『中國新聞』2008年6月29日付配信
- ^ スプレー落書きを受けた列車の動画
- ^ “公共物に落書きの男性が賠償金450万円支払う”. 毎日新聞 (2019年6月4日). 2019年6月18日閲覧。
- ^ どうしても落書きしたい?アプリでどうぞ 伊フィレンツェAFPBB 2016年5月3日閲覧
- ^ ビルの外壁に落書き、豪州国籍の2人を逮捕「渋谷はいいと思った」、ライブドアニュース、2018年2月7日。
- ^ 落書きNO! 「渋谷はOK」外国人ら誤解?、日本経済新聞、2016年10月12日。
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