小田急1000形電車 概要

小田急1000形電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 01:41 UTC 版)

概要

老朽化した2400形の置き換えおよび9000形に代わる帝都高速度交通営団(現在の東京地下鉄千代田線への直通対応車として登場し、1993年(平成5年)までに4両25編成・6両8編成・8両1編成・10両4編成の合計196両が製造された。

小田急では2600形VVVFインバータ制御方式の実用試験を行っていたが、その実績から営業用電車で本格的にインバータ制御を採用した。

本形式は小田急の開通60周年記念も兼ねて導入されており、同時期にはロマンスカーの10000形電車(HiSE車)も導入されている。

車両概説

本節では、登場当時の仕様を基本として、増備途上での変更点を個別に記述する。更新による変更については沿革で後述する。

車体

先頭車は車体長19,650 mm・全長20,150 mm、中間車は車体長19,500 mm・全長20,000 mmで、車体幅は当時の帝都高速度交通営団(営団地下鉄)千代田線への乗り入れを考慮して、2,860 mmとした。車体はステンレス鋼製のオールステンレス車両で、採用にあたってはステンレス特有の光沢を押さえたいという小田急側の意向により、全面ダルフィニッシュ仕上げとしている。前面は繊維強化プラスチック (FRP) 製で、デザインは9000形に類似するものである。

4・6両編成は併結運転を行うため電気連結器を装備している。

機器・乗務員室

冷房装置集約分散式のCU195Cとなった。8000形で実績のあるCU195Aの改良型である。

運転台主幹制御器は従来どおりの縦軸式ABFMタイプだが、オフ位置は右ではなく千代田線仕様の手前である。乗務員室内は緑色のカラースキームである。運転台計器盤は8000形よりも高くし、高運転台に準じたものとなった。乗務員室仕切りは運転席背面は配電盤などの機器設置スペースとしたため窓はなく、中央に仕切扉窓・右端に2段式の窓がある。遮光幕は中央の仕切扉窓のみある。

台車はFS-534(電動台車)とFS-034(付随台車)で、基礎制動装置は全台車が両抱き式踏面ブレーキ(クラスプブレーキ)である。いずれも小田急では2200形からの実績があるアルストムリンク式空気ばね台車である。

車両各所の写真

各編成の仕様

形式は先頭車が制御車のクハ1050番台で、中間車は電動車のデハ1000番台と付随車のサハ1050番台で構成される。

  • 通常タイプのドアを装備する6両編成と10両編成は全編成が千代田線への乗り入れに対応していたが、前項で述べたように4000形の投入およびD-ATS-Pの設置でATCが撤去されたため、乗り入れができなくなった。逆にワイドドアの6両編成は千代田線に乗り入れないため登場時よりATCを搭載していない。
  • 8・10両編成とワイドドア6両編成のドア鴨居部には、ドアチャイム(1751×6・1752×6を除く)とLED式の旅客案内表示器が設置されている。なお、10両編成には広告を掲示する枠が設置されておらず、すべての鴨居部に2装置を設置している。千代田線内では、小田急線内と異なる表示をしており、次の駅の案内(駅ナンバリング対応)と乗客へのお願い文(冒頭は東京地下鉄6000系などと同様に「東京メトロをご利用頂きましてありがとうございます。」の表示が出る)のみを表示する。
    • 8両:千鳥配置、黒枠
    • 10両:全ドア上、白枠(1091×10・1092×10は黒枠で3000形や8000形更新車と同型)
    • ワイドドア:千鳥配置、1751×6 - 1753×6・1754×6の2・3号車がオリジナルの形状、1754×6(2・3号車は除く) - 1756×6は黒枠
  • 1本のみの8両編成(1081×8)は、小田急の通勤車で初めて自動放送装置を搭載した。これは試験的なもので、その後2000形以降の各系列で本格的に採用された。なお、この編成は廃車まで英語放送が行われなかった。また、4両編成も3000形または8000形更新車と併結運転を行っている場合に限り自動放送が流れるが、これは併結相手にある自動放送装置を使用している。この場合、自動放送の設定は相手側運転台での設定となる。
  • 6両の1252×6編成は、日本車輌製造において1989年(昭和64年)に落成したため、車内には「昭和64年 日本車輌」と記載された銘板があったが、10両化改造時にすべて小田急エンジニアリングのものに交換されており現存しない。また、この編成は1993年3月から2000年11月ごろまで、1251×6は2004年11月まで千代田線乗り入れ機器を外して地上線で使用されていた。
  • 元千代田線直通対応車のうち、分割可能編成の連結部乗務員室仕切扉の上部には「地下鉄線内では非常の場合通れます」という看板とステッカーが、また横には「地下鉄線内で非常の場合はつまみを左にまわしてください」のステッカーが貼付されている。
  • 車掌スイッチは千代田線非対応車では従来の押し棒式で、安全装置として戸閉鎖錠スイッチ[注 1]を設置している。千代田線対応車では戸閉鎖錠スイッチではなく、ひねり式[注 2]の車掌スイッチを使用している。

車内

内装については8000形後期車において採用された「暖色系」の色調を全面的に採用した。内張りは白色系にベージュ模様入りの化粧板を使用、床材は灰色のカラースキームとなった。なお、主電動機の三相交流化により、床のモーター点検蓋(トラップドア)は廃止されている。座席は赤色の表地に変更された。車内設備は8000形に準じているが、座席端の仕切りは化粧板を貼った板に(座席側はモケット張り)、客用ドア内側は化粧板仕上げに変更されている。天井はラインフローファン方式だが、ラインデリアは先頭車9台・中間車10台に増設された。

ワイドドア車

通常の車両は扉幅は1,300 mm
 
ワイドドア車の扉幅は2,000 mm
運転台後ろのみ1,500 mm

1990年(平成2年)から1991年(平成3年)にかけて、幅2 mのワイドドア(クハ1050番台の乗務員室直後のみ幅1.5 m)を採用した車両が登場した。これらの車両は俗に1700形(過去に存在した4両編成の場合は1500形)に分けられる。日本の他鉄道事業者のワイドドア車としては、東京メトロ東西線用の05系第14 - 18編成と15000系に1.8 m幅のものを採用した事例がある。

この車両には多くの試験的施策があり、側面にはLED式の種別・行先表示器のほか、1次車(1551×4・1552×4・1751×6・1752×6)では車内旅客案内表示装置と座席跳ね上げ機構を小田急で初めて搭載している。車内旅客案内表示装置は1551×4と1751×6にLED式スクロールタイプが、1552×4と1752×6に液晶式ディスプレイタイプ(LCD。ただし後に登場した3000形や4000形より小型)がそれぞれ採用された。その後新製した2次車 (1553×4 - 1556×4) もLCDを採用したが、液晶の劣化が早く、数年で撤去された。また、客室内の戸袋と扉以外の窓をパワーウィンドウとし、ボタン操作で開閉できるようになっている(これも本形式のみの装備)。

ラッシュ時の乗降をスムーズに行うために幅2 mのドアを採用していたが、その巨大な幅のドアが原因でかえって乗客がドア付近に滞留し、車内の流動性が悪化したことから、1998年(平成10年)に東急車輛製造で2000形と同一の幅1.6 mに改造する工事が行われた。この際に構体のドア開口部は従来どおりとしたため、開扉時に左右それぞれ0.2 m引き残している。車内はドア幅の縮小に合わせて内装を装備したため、引き残しているようには見えないが、閉扉時の扉窓位置が左右非対称となり、扉窓の両端部が仕切りと接しているように見える。ドア改造の際には1551×4と1751×6のLED式装置の一部を1552×4と1752×6に取り付け、1551×4・1751×6と1552×4・1752×6で千鳥配置となった。1553×4 - 1556×4の各編成では6両編成化工事の際に新しくLED式スクロールタイプを設置している。これは千代田線直通対応編成である1091×10 - 1094×10および1081×8の枠を黒くしたタイプで、1次車とは若干形状が異なる。ドアチャイムは1753×6 - 1756×6のみ設置されている。通常ドア編成と異なり、ワイドドア編成は優先席が各車両の両端(先頭車は連結面側のみ)に設けられている。また、一部編成には車椅子スペースが設置されている。

1991年の新製当初の段階では4両編成6本(24両)と6両編成2本(12両)の計36両が在籍し、4両編成は小田原寄りに通常ドア幅の1000形4両編成を連結した8両編成で新宿口の各駅停車に充当されていた。しかし2004年(平成16年)に4両編成は一部先頭車を中間車に改造した上で6両固定編成に組み換えて解消し、6両編成6本となり、多摩線・江ノ島線・小田原線(新松田~小田原間)の各駅停車を中心に運用されていた。なお、このグループは、登場以来千代田線直通に対応する編成は存在しない。

側面のLED式種別・行先表示器は、現在はゴシック体で、各駅停車に充当する時は種別と行先を交互に表示する。登場時は書体がゴシック体で、フォントはロゴ並みになっているなど画素が粗かったが、2005年(平成17年)より明朝体のものになるとともに英字も表示可能なもの(3000形1・2次車と同じ物)に交換した。また、2008年度に、1751×6・1752×6・1753×6が、2009年度に1754×6[5]・1755×6・1756×6が純電気ブレーキ化改造を受けた。

なお、車内の銘板は、ドアの幅の改造時にすべて東急車輛製造のものに交換されており、さらに1753×6 - 1756×6は組み換えの際に再度交換されている。このため、川崎重工業製であっても車内の銘板は「東急車輛」である。

ホームドアが合わないことから早期廃車対象となり、2020年に1751×6、2021年に1752×6、1753×6、1755×6が廃車され、登場時から6両だったワイドドア車は消滅した。

2022年に最後まで残っていた1754×6が廃車となり1000形ワイドドア車は消滅した。

車両各所の写真
車内各所の写真

注釈

  1. ^ 専用のを挿入しないと車掌スイッチを使用できなくする安全装置。
  2. ^ 従来型と同様の押し棒式だが、安全のために開扉の際は棒を ひねり ながら上に押さないと開扉操作をできなくするもの。
  3. ^ 新松田 - 小田原間と江ノ島線の急行通過駅(一部停車駅を含む)は20 m車6両編成分のホーム有効長しかないため。
  4. ^ 日本では2013年にえちぜん鉄道MC7000形が日本の鉄道車両としては初のSiC素子を採用し、その後福井鉄道F1000形名古屋市営地下鉄2000形機器更新車東京メトロ05系千代田線用改造車へ波及したが、いずれもトランジスタ部にSi-IGBT素子、ダイオード部にSiC-SBD素子とを組み合わせたハイブリッドSiC適用の制御装置であった[21][22]
  5. ^ 小田急8000形西武6000系など、試験的なSiC素子の採用の形式を除く。
  6. ^ 定格容量210 kVA、三相交流200 V、60 Hz
  7. ^ 4両固定編成のみ。
  8. ^ ブレーキ読替装置は非装備のため電磁直通制動である1000形未更新車や8000形界磁チョッパ制御車との併結は不可能である。
  9. ^ 1081Fのサハ2両を除く6両が廃車された。
  10. ^ クハ1155は廃車となった。
  11. ^ クハ1255は廃車となった。
  12. ^ 1081Fのサハ2両がリニューアル対象となった。

出典

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  3. ^ 根岸/津田/長谷川/井浦/山口「3.3kVフルSiCパワーモジュール」『三菱電機技報』2018年3月号、三菱電機、2018年3月、175-178頁。
  4. ^ 『鉄道ダイヤ情報』通巻145号 p.15
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