大西洋 地理

大西洋

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 04:41 UTC 版)

地理

大西洋の面積は約8660万平方km。これはユーラシア大陸アフリカ大陸の合計面積よりわずかに広い面積である。大西洋と太平洋との境界は、南アメリカ大陸最南端のホーン岬から南極大陸を結ぶ、西経67度16分の経線と定められている。また、インド洋との境界は、アフリカ大陸最南端のアガラス岬から南極大陸を結ぶ、東経20度の経線と定められている。そして、南極海との境界は、南緯60度の緯線と定められている[1]。大西洋の縁海としては、アメリカ地中海英語版メキシコ湾カリブ海)、地中海黒海バルト海があり、縁海との合計面積は約9430万平方kmである。大西洋の幅が一番狭くなるのはアフリカ大陸西端と南アメリカ大陸北東端の間であり、距離は約2870kmである[2]

水深

他の大洋と比較した場合、大西洋の特徴は、水深の浅い部分の面積が多いことである。とは言っても大西洋に水深4000mから5000mの部分の面積が最も多いということは、他の大洋と変わらない。しかし、全海洋平均では31.7%がこの区分に属するが、大西洋の場合は30.4%である。そして、水深0mから200m、いわゆる大陸棚の面積が大西洋では8.7%を占める(太平洋5.6%)、0mから2000mの区分では19.8%(同12.9%)となる。このため、大西洋の平均深度は三大大洋(太平洋、大西洋、インド洋)のうち最も浅い3736mである。なお、大西洋での最深地点はプエルトリコ海溝に位置し、8605mである[3]

海底

大西洋と大陸の地形図

海洋底の骨格となる構造は、アイスランドから南緯58度まで大西洋のほぼ中央部を南北に約16000kmに渡って連なる大西洋中央海嶺である。なお、海嶺(海底にある山脈)の頂部の平均水深は2700mである。三畳紀パンゲア超大陸プレート運動によって南北米大陸と欧州・アフリカ大陸に分裂し、大西洋海底が拡大していった。中央海嶺はマントルからマグマが噴き出た場所である。太平洋と比較すると、海嶺(大西洋中央海嶺を除く)や海山の発達に乏しい。大西洋はほぼ大西洋中央海嶺の働きだけで形成された大洋であり、このため両岸の海岸線は海嶺が形成されて分裂する前の形状を残している。この海岸線の類似は、アルフレート・ヴェーゲナー大陸移動説を発想させ、プレートテクトニクス理論を発達させる契機となった。

海底に泥や砂あるいは生物遺骸が堆積しているのは、他の大洋と同様だが、大西洋は他の大洋と比べて、水深の浅い場所が多い。大西洋の沿岸部では河川などによって陸から運ばれた物質が溜まって、厚く堆積している。そして沖合(遠洋)には、粒子の細かい赤色粘土、軟泥(プランクトン死骸など)が堆積している。こうした大西洋の堆積物は、最大で約3300m堆積している。大西洋の堆積物は、太平洋の堆積物と比べると非常に厚い。この理由としては、太平洋に比べ大西洋が狭く、堆積物の主な供給源である陸地からどこもあまり離れていないこと、太平洋に比べて注ぎ込む大河が多い上に、河川の流域面積も広く、河川が侵食して運搬してきた大量の土砂などが流れ込むことなどが挙げられる[4]。大西洋に流れ込む河川中でもっとも土砂の流入量が多いのはアマゾン川で、年に14億トン以上の土砂を大西洋に運び込む[5]

また、海底にはマンガン団塊のような自生金属鉱物も見られる。マンガン団塊は大西洋の深海部に広く分布するが、なかでも南大西洋に多い[6]

海水

大西洋の平均水温は4℃、平均塩分濃度は35.3‰。この水温と塩分濃度は、ともに他の大洋とほぼ同じである。なお、海水の塩分濃度は均一ではなく、熱帯降雨が多い赤道の北や、極地方、川の流入がある沿岸部で低く、降雨が少なく蒸発量が大きい北緯25度付近と赤道の南で高い。また、水温は極地方での-2℃から赤道の北の29℃まで変化する。なお、大西洋の南緯50度付近には、表面付近の海水温が急に2度〜3度変化する潮境が存在し、ここは南極収束線と呼ばれる [7] 。 ちなみに、この南極収束線はインド洋や太平洋にも存在し、インド洋の場合も南緯50度付近だが、太平洋は南緯60度付近と位置が大きく異なっている [7]

また、属海である地中海は高温乾燥地域にあるため高温・高塩分であるが、ここからジブラルタル海峡を通って流れ出た水は比重が重いために沈み込みながら数千kmにわたって特徴を保ち続ける。

海流

海水大循環

大西洋の表層に存在する主な海流は、北から、東グリーンランド海流(北部、寒流)、北大西洋海流(北部、暖流)、ラブラドル海流(北西部、寒流)、メキシコ湾流(西部、暖流)、カナリア海流(東部、寒流)、アンティル海流(西部、暖流)、北赤道海流(東部、暖流)、赤道を超えて、南赤道海流(西部、暖流)、ベンゲラ海流(東部、寒流)、ブラジル海流(西部、暖流)、フォークランド海流(南部、寒流)である。このうち、北大西洋においてはメキシコ湾から北アメリカ大陸東岸を通って西ヨーロッパへと流れるメキシコ湾流の西部、そこからアフリカ大陸西岸を南下するカナリア海流、アフリカ西岸から赤道の北を西へ流れカリブ海やメキシコ湾にまで流れる北赤道海流は、北大西洋亜熱帯循環と呼ばれる時計回りの環流をなしている。同じく南大西洋においても、アフリカ西岸からブラジル北東部にまで東に流れる南赤道海流、南アメリカ大陸東岸を南流するブラジル海流、南アメリカ大陸南部から南極環流の北縁を東に流れる南大西洋海流、そしてアフリカ大陸南端から北上するベンゲラ海流は、南大西洋亜熱帯循環と呼ばれる反時計回りの環流をなしており、大西洋には南北二つの環流が存在していることとなる[8]

大西洋の海流の中で最も強く流量があり、また重要な役割を果たしているのはメキシコ湾流である。メキシコ湾流は北アメリカ大陸東岸から西ヨーロッパ沿岸を通り北海から北極海方面へと抜けるが、この海流がもたらす熱量は膨大なものであり、この海流の影響によってイギリスやヨーロッパ大陸西岸は緯度に比べて温暖な気候となっている。この地域の、夏季はそれほど気温が上がらないものの冬季も気温がさほど下がらず温暖な気候は西岸海洋性気候としてケッペンの気候区分のひとつとされている。逆にメキシコ湾流はアフリカ北岸で南流して寒流となるカナリア海流は寒流であるため付近で上昇気流を発生させないため、沿岸はサハラ砂漠の一部となっている。また、ベンゲラ海流も同様であり、沿岸のナミビアの海岸は典型的な西岸砂漠となり、ナミブ砂漠を形成している。

また、現在の地球の海には地球全体を巡る海水大循環があるが、この大循環の起点は北大西洋にある。北大西洋の極海で冷やされた海水は北大西洋深層水として沈み込み、大西洋深層流として南下し、太平洋やインド洋で暖められて表層水となり、インド洋から流入して北上して戻ってくる[9]。これらの海流(循環)は、地球全体の気候に影響を与えるくらいに、多くのを輸送している。

ところで、北大西洋の中央部にあるサルガッソ海には、目立った海流が無い。これは、南赤道海流・メキシコ湾流・北大西洋海流・カナリア海流によって構成される大循環の中心に位置し、これらの循環から取り残された位置に、このサルガッソ海が存在するからである。また、ちょうどこの場所は亜熱帯の無風帯に属するため風もほとんど吹かない。このため上記4海流から吹き寄せられた海藻類(いわゆる流れ藻)が多く、風がない上に海藻が船に絡みつくことから、航海に帆船を使用していた時代には難所として知られていた。なお、このサルガッソ海付近は、大西洋の中でも海水面が少し高くなっている場所であることでも知られている [10]

流入河川

大西洋には各大陸から多くの河川が流入する。流入河川のうち水量・長さとも最も大きいのは南アメリカ大陸から流れ込むアマゾン川である。アマゾン川のほかにも、南アメリカ大陸からはオリノコ川ラプラタ川サンフランシスコ川などの大河川が流れ込む。なかでもラプラタ川は南アメリカ大陸南部の大半を流域にもち、アマゾン川流域と南アメリカ大陸を二分する広大な流域面積を持つ。北アメリカ大陸でもっとも重要な流入河川はセントローレンス川である。河川自体の長さはそれほどでもないが、五大湖を水源に持ち広大な流域面積を持つ。それ以外にもハドソン川など多くの河川が流入するが、アパラチア山脈が大西洋岸からそれほど遠くないところを走っているため、大西洋に直接流入する河川はそれほど長くない。アフリカ大陸からの流入河川では、西アフリカニジェール川中部アフリカコンゴ川が特に大きい。そのほかにも、セネガル川オレンジ川など多数の河川が流入する。ヨーロッパ大陸からは、グアダルキビル川タホ川ドウロ川ジロンド川ロワール川などが流入する。


  1. ^ Limits of Oceans and Seas. International Hydrographic Organization Special Publication No. 23, 1953.
  2. ^ 「地球を旅する地理の本 7 中南アメリカ」p18 大月書店 1993年11月29日第1刷発行
  3. ^ Milwaukee Deep Archived 2013年8月7日, at the Wayback Machine.. sea-seek.com
  4. ^ 「世界地理12 両極・海洋」p196 福井英一郎編 朝倉書店 昭和58年9月10日
  5. ^ ピネ 2010, p. 115.
  6. ^ ピネ 2010, p. 122.
  7. ^ a b 和達 清夫 監修 『海洋の事典』 p.431 東京堂出版 1960年4月20日発行
  8. ^ ピネ 2010, p. 201.
  9. ^ ピネ 2010, p. 223.
  10. ^ 和達 清夫 監修 『海洋の事典』 p.594 東京堂出版 1960年4月20日発行
  11. ^ ピネ 2010, p. 368.
  12. ^ ピネ 2010, p. 364.
  13. ^ a b c d e 佐藤正幸. “明治初期の英語導入に伴う日本語概念表記の変容に関する研究”. 山梨県立大学. 2020年1月18日閲覧。
  14. ^ 河原温著 『ブリュージュ フランドルの輝ける宝石』p25 中公新書、2006年
  15. ^ 「商業史」p27-28 石坂昭雄、壽永欣三郎、諸田實、山下幸夫著 有斐閣 1980年11月20日初版第1刷
  16. ^ 「大帆船時代」p7 杉浦昭典 昭和54年6月26日印刷 中央公論社
  17. ^ 「サハラが結ぶ南北交流」(世界史リブレット60)p74 私市正年 山川出版社 2004年6月25日1版1刷
  18. ^ 「魚で始まる世界史 ニシンとタラとヨーロッパ」p162-163 越智敏之 平凡社新書 2014年6月13日初版第1刷
  19. ^ 「概説ブラジル史」p26 山田睦男 有斐閣 昭和61年2月15日 初版第1刷
  20. ^ 国本伊代・小林志郎・小沢卓也『パナマを知るための55章』p54 エリア・スタディーズ、明石書店 2004年
  21. ^ 「略奪の海カリブ」p162-164 増田義郎 岩波書店 1989年6月20日第1刷
  22. ^ 『イギリス帝国の歴史――アジアから考える』p58 秋田茂(中公新書, 2012年)
  23. ^ 『世界一周の誕生――グローバリズムの起源』p42-45 園田英弘(文藝春秋[文春新書], 2003年)
  24. ^ ボートぎっちら 大西洋を乗り切る 英人単独、142日で『朝日新聞』1970年(昭和45年)3月12日 12版 15面
  25. ^ 大西洋赤道域の新たな気候変動メカニズム海洋研究開発機構 JAMSTEC





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「大西洋」の関連用語

大西洋のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



大西洋のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの大西洋 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS