ラジアータパイン ラジアータパインの概要

ラジアータパイン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/15 09:28 UTC 版)

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ラジアータマツ
ラジアータマツの幼木
保全状況評価[1]
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
: 裸子植物門 Pinophyta
亜門 : マツ亜門 Pinophytina
: マツ綱 Pinopsida
亜綱 : マツ亜綱 Pinidae
: マツ目 Pinales
: マツ科 Pinaceae
: マツ属 Pinus
亜属 : Pinus
: Oocarpae
: ラジアータマツ P. radiata
学名
Pinus radiata D.Don
和名
モントレーマツラジアータマツ、ラジアータパイン
英名
Monterey Pine, Radiata Pine
Pinus radiataの原産地

名前と分類

マツ科マツ属、いわゆるマツ(松)の仲間の一種。以下の2変種が認められている。

  • Pinus radiata var. radiata (基変種)
  • P. radiata var. bianta

基変種 Pinus radiata var. radiata について産地別に枝、針葉や球果を多数集めたところ、Cambria の個体群は変種とまではいかないものの他の2つの生息地と違う傾向が見られた。オーストラリアの研究ではこれらの形態・表現型的な違いに加えて遅い成長率、季節ごとの成長に違いが見出されており、おそらく遺伝子的に他の個体群と異なるとされている[2]。近年の研究では各生息地間に僅かな遺伝子的な差異が認められた。そのほとんどは生息地に固有のものだという[3]

本種とPinus attenuata やビショップマツ (Pinus muricata) との間で大きく遺伝子移入があるという証拠はないが、雑種の出現は地域的にしか見られない[2]

学名Pinus radiata の種小名 radiata は英語のradial(放射状) に由来し、毬果の鱗片の特徴に基づいて名付けられた。英名として一般的な Montrey Pine は本種が広く分布するカリフォルニア州の半島の名前に由来する。他の名前としてはスペイン語風の pino insignis や 種小名 radiata からRadiata pineと呼ばれることも多い。種小名由来の名称は世界的によく使われる。

日本でもMonterey Pineを直訳したモントレーマツが標準和名として与えられているが、種小名に由来するラジアタマツラジアータマツ、ラジアータパインなどと呼ばれることも多い。ラディアタと表記されることもある。木材の輸入先として大きなニュージーランドやチリを頭に付けたニュージーランドマツチリーマツという表記も木材・建築業界など、一部で使われているようである[4]

分布

基変種、変種ともに自生地は非常に限られている。 基変種はアメリカ合衆国西部カリフォルニア州セントラルコースト (Central coast) の互いに隔絶した3地点、サンマテオ郡 (San Mateo), サンタクルーズ郡 (Santa Cruz), サンルイスオビスポ郡 (San Luis Obispo) で確認されている。この3地点の中で最も北にある場所はAno Nuevoの東側である。同様に真ん中の場所はMonterey や Carmel から約50 km南に行ったところである。一番南の場所は Pico Creek Cambria 地域から約100 km離れている[5]。一番北の場所から一番南の場所までは約200 km離れている。いずれの場所でも海岸に比較的近い場所に生えており、海岸から10 km以上離れた内陸に場所に生えていることはほとんどない。本項では以下、これらカリフォルニアの3地点について近隣の名前をとり、Ano Nuevo(最も北の地点)、Monterey(真ん中の地点)、Cambria(最も南の地点)と記す。

変種 P. radiata var. biantaグアダルーペ島 (英語: Guadalupe islandスペイン語: Isla Guadalupe) とセドロス島 (英語:Cedros Island、スペイン語: Isla Cedros) に分布していることが確認されている。これらの島は基変種の分布する南限カリフォルニア州 Cambria からそれぞれ約750 km、約900 kmも離れた太平洋上の小島である[6]

本種の生育する地域の気候太平洋を流れる寒流 (カリフォルニア海流)の影響を強く受けており、湿度が高く、気温は低く、にはが発生する。生息地の一つカリフォルニア州 Monterey の湿度が最低になるのは7月であるが、その時でも平均で60-70%であり湿度は高い[7]。霧は年間の1/3以上の日に発生する[8]

気温の変動は全体的に少ない。とは言っても細かく見れば……5℃から40℃まで幅がある。月平均気温で比べてみると、最も寒い月と最も暑い月で比べてみるとその差は約7℃であり、寒暖の差は少ないと言える。具体的には冬の平均気温が9℃から11℃、夏の平均気温が16℃から18℃である。成長期に当たる2月から6月の平均気温は11℃から16℃で、最高気温は17℃から24℃である[9]の降りない期間は年間約300日である。

年間降水量は約400 - 900 mmであり、年によって変動する。このうち、12月から3月までに300 - 500 mmの降水があるが、残りの時期は月平均50 mmにも満たない。特に7月と8月は雨が降らないことが多い。降水による水分が期待できない季節、樹木は海から内陸へと移動してきた霧を浴びることで、樹冠から水分を吸収している。モントレー半島 (Monterey Peninsula) の高所では霧を浴びることで一週間当たり15 mmの降水量に相当する水分を得ている[10]は原産地においては降らない。アメリカ本土の3か所の分布地を湿度の点で見るとAno Nuevoは最も降水量が多く、Monterey は最も霧が多い、Cambria は最も乾燥している[11]。原産地付近での風は弱く、年間平均で2 m/s程度である。5月は最も風が強く、8月がもっとも弱い[7]

グアダルーペ島とセドロス島の気候は地中海性気候が色濃く出ており、アメリカ本土よりも雨は少なく気温の変動は極端である。どちらの島でも分布域は霧の影響が強く、マツは霧の切れ間で風上の斜面に生息することが多い。稀に水分の多い深い谷の斜面でも見られる。セドロス島ではマツが生育する場所は霧が最も頻繁に発生し、集中するような場所である[12]

原産地における分布域は狭いながらも、生育する土壌は変化に富んでいる。 Ano Nuevo では基岩(underlying rock)は頁岩ないしは海底由来の砂岩 (marine sandstone)である。Monterey においてはこれらに加えて花崗岩も含まれる。Cambria においては石灰岩、砂岩、チャート粘板岩である。

アメリカ本土のAno Nuevo, Monterey, Cambriaの3か所の地質はいずれもよく似ている。大部分は砂っぽいロームでしばしば海に由来する堆積物である。マツにとって良い場所では有機物の厚い堆積が見られる。有機物の体積は8 - 15 cmの層となることが多く、内部には水や適度の栄養分を含む。このような土壌は斜面で見つかることが多く、水はけが良いのも特徴である。深さ50 - 85 cmのところには粘土層がある。粘土層は とても大切である。マツの根は一般的にこの層よりも下には伸びていかないが、根の多くはこの層を僅かに貫通する。このような根は根と菌類の共生の形態である菌根が形成されている[13]。土壌は一般的に酸性を示し、土層の上部、もしくは粘土層内部は特に酸性が強くなることが多い。粘土の水はけの悪さと酸性の強さが相まって、菌根の形成に良い影響を与えると考えられている。

本種が好むのは一般的に丘のような地形か緩やかな斜面である。Santa Luica 山脈では例外的に標高300 mの場所に分布しているが、他の場所では海岸と険しい内陸の山岳地帯の間の緩やかな起伏である。アメリカ本土の分布域においてはどの地点でも北斜面に好んで分布することは共通している。他にAno Nuevoでは他のどの方位の斜面にも見られ、Montereyにおいては南向きの狭い谷で見られるが、分布の南限Cambriaでは北側の斜面以外には全く見られなくなる。メキシコの島嶼部ではゆるい所から急なところまで、傾斜の度合いにかかわらず斜面に見られる。標高はグアダルーペ島で300 - 1100 m、セドロス島で270 - 650 mぐらいである[6]

分布を制限するものは各地で異なる。Ano Nuevoにおいては海岸に近い場所の浅い土壌が分布を制限する要因と見られる。Montereyにおいては降水量の少なさに加えて、土壌の深さ・構造・粘土層の位置などが分布に影響している。Cambriaにおいては気候と土壌の関係上、高木が成立出来ずに草や低木に移行していくと考えられる。

化石の記録では、更新世後期には現在よりも広い範囲に分布していたことがうかがえる。この時代は氷期であり海岸線は今よりも後退していた。現在は海中となるような場所や現在は島となっているような場所、具体的にはTomales Bay, Littele Sur, Carpinteria, Rancho La Brea, and Santa Cruz Islandで化石が発見されている[14]

本種は天然分布が狭いだけでなく、アメリカでは林業用樹種としてもほとんど使われていない。1960年代の資料によれば、アメリカ本土における分布面積は推定で4,900 haから6,500 ha程度であるとみられている[15]。しかし、その後の変動、特に増加が顕著であるためにこの値は今では当てにならない。たとえば、Ano Nuevo近郊では1970年代に95ha増加している[16]。これは植林したことによっての増加である。しかし、そのような増加を含めても、メキシコの島を合わせた全ての面積は8,000 haに満たないとみられている[6]

しかし、世界に目を向けると最も植林されているマツ[17]という面白い特徴を持つ。生長の早さ、質の良いパルプが取れるのみでなく、木材としても十分使える品質が評価されてオーストラリアニュージーランドスペインなどでは外来樹種としては最も植えられている[9]アルゼンチンチリウルグアイケニア南アフリカにおいても主要な扱いを受けている。これらの国では自国で使うばかりでなく、輸出して外貨を獲得することも行われるし、天然林の伐採を減らすことも期待されている。ただし、日本では植えられていることは稀である。公園植物園で生体を見かけることはほとんどない。

逃げ出した個体が野生化し問題を引き起こしている例も知られている。ニュージーランドでは本種およびコントルタマツ (Pinus contorta)、ベイマツ (Pseudotsuga menzeisii)を中心とした外来樹木の野生化が問題になっている。これら外来種の野生化は生物多様性、主要産業でもある牧畜、土地の価値に悪影響をもたらすことなどが懸念されており、行政機関やボランティアによる抜き取り・枯殺処理が行われている。


  1. ^ 被陰ともいう。日光を遮られること
  2. ^ 縦方向の生長のこと
  3. ^ 同じ樹齢の個体が多数集まって構成されている森林
  4. ^ 丸太の材積に丸太以外のもの(製材品、パルプチップ、合板)は丸太材積に換算したものを足したもの
  1. ^ Farjon, A. 2013. Pinus radiata. The IUCN Red List of Threatened Species 2013: e.T42408A2977955. doi:10.2305/IUCN.UK.2013-1.RLTS.T42408A2977955.en, Downloaded on 06 November 2016.
  2. ^ a b c Forde, Margot B. 1964. Variation in natural populations of Pinus radiata in California. Part 3. Cone characters. New Zealand Journal of Botany 2(4):459-485.
  3. ^ Moran, G. F., J. C. Bell, and K. G. Eldridge. 1988. The genetic structure and the conservation of the five natural populations of Pinus radiata. Canadian Journal of Forest Research 18:506-514.
  4. ^ 木のあるくらし ラジアータマツ、ラジアータパイン
  5. ^ Griffin, James R., and William B. Critchfield. 1972. (Reprinted with supplement, 1976). The distribution of forest trees in California. USDA Forest Service, Research Paper PSW-82. Pacific Southwest Forest and Range Experiment Station, Berkeley, CA. 118 p.
  6. ^ a b c d Libby, W. J., M. H. Bannister, and Y. B. Linhart. 1968. The pines of Cedros and Guadalupe Islands. Journal of Forestry 66(11):846-853.
  7. ^ a b c d Lindsay, A. D. 1937. Report on Monterey pine (Pinus radiata D. Don) in its native habitat. Commonwealth (Australia) Forestry Bureau, Bulletin 10. 57 p.
  8. ^ a b c Sudworth, George B. 1908. Forest trees of the Pacific slope. USDA Forest Service, Washington, DC. 441 p.
  9. ^ a b Scott, C. W. 1960. Pinus radiata. Food and Agriculture Organization of the United Nations, Forestry and Forest Products Study 14. Rome, Italy. 328 p.
  10. ^ McDonald, John Bruce. 1959. An ecological study of Monterey pine in Monterey County, California. Thesis (M.S.), University of California, Berkeley. 58 p.
  11. ^ Axelrod, Daniel 1. 1982. Age and origin of the Monterey endemic area. Madroño 29(3):127-147.
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  14. ^ Axelrod, Daniel 1. 1977. Outline history of California vegetation. In Terrestrial Vegetation of California. p. 139-193. Michael G. Barbour and Jack Major, eds. John Wiley, New York.
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  24. ^ Roy, Douglass F. 1966. Silvical characteristics of Monterey pine (Pinus radiata D. Don). USDA Forest Service, Research Paper PSW-31. Pacific Southwest Forest and Range Experiment Station, Berkeley, CA. 21 p.
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  28. ^ Coleman, George A. 1905. Report upon Monterey pine, made for the Pacific Improvement Company. Unpublished report, Pacific Southwest Forest and Range Experiment Station, Redding, CA. 74 p.
  29. ^ THE PREFERRED SPECIES
  30. ^ a b Chu-Chou, Myra. 1985. Effect of different mycorrhizal fungi on Pinus radiata seedling growth. In Proceedings of the 6th North American Conference on Mycorrhizae, June 25-29, 1984, Bend, Oregon. p. 208. Forest Research Laboratory, Oregon State University, Corvallis
  31. ^ Pest Risk Analysis Biosecurity Risk to New Zealand of Pinewood Nematode (Bursaphelenchus xylophilus)
  32. ^ 平井信二, 小原二郎. 1979. 大図説世界の木材 The International Book of Wood. 小学館. 東京
  33. ^ 林野庁 (編). 2010. 平成22年版 森林・林業白書. 全国林業改良普及協会. 東京. 付表pp12 -13
  34. ^ en:One Tree Hill, New Zealand 00:47, 5 March 2012 UTC の版


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